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[社会人野球]西武ドラフト7位・糸川亮太が6回無失点の好投!

楊順行スポーツライター
(写真:イメージマート)

 第48回社会人野球日本選手権、2回戦。ENEOSは2対1で三菱自動車岡崎に競り勝ち、ベスト8一番乗りを果たした。

 10月26日のドラフト会議で西武から7位指名を受けた糸川亮太が先発。6回を2安打5三振、無失点に抑え、チームは一度同点に追いつかれたが8回に勝ち越し、勝ち投手こそつかなかったものの勝利に貢献した。

 ドラフトでは、プロからの調査書は1通もなし。大久保秀昭監督さえも「指名はビッグサプライズ!」と驚いたほどだから、本人にとっては「奇跡です。ほぼあきらめかけていましたから」という指名だった。

 今シーズン前に話を聞いたことを思い出す。なんでも社会人1年目は、トレーニングメニューがちょっと複雑になると、体が思うようについていかなかったというのだ。

「そりゃあ、いい球が投げられないわけだよなぁ……と思いました。なにしろ、人がやっているのと同じ動きができないんですから」

そりゃあ、いい球が投げられないよなぁ……

 なにしろ、体が自分の意志とは違う動きをするのだから、機械の使用法を間違っているようなもの。トレーニングでさえそうなのだから、投げるという複雑なメカニズムともなれば、効率のロスや、ムダな負荷につながってくる。1年目、春先のスポニチ大会こそ登板機会があったが、夏を迎えるころにはすっかり自信を失っていた。対して同期入社の関根智輝、加藤三範は都市対抗、日本選手権という社会人のビッグイベントに登板し、いい結果を残している。

 これじゃあいけないとばかり、さまざまな助言や動画からヒントを得て、体の使い方を一から見直した。並行して、夕食後には毎日、2時間以上のストレッチ。すると少しずつ、思うように体を動かせるようになり、立っている感じから歩く姿勢まで変わってきた。

 むろん、「思うように体が動かない」というのは、トップレベルのアスリートだからこその微妙な感覚で、一般人レベルなら気にする次元ではないのだろう。だが、その微妙な誤差がなくなった糸川には、まるで目からウロコが落ちたように視野が広がったのではないか。

「実戦でもそれを感じられたのが、去年の夏ごろ。たとえば肩のあるべき位置、上下半身の捻転など、投げる感覚がまるで違ってきたんです」

 という2年目の22年は、公式戦で4勝0敗。ことに日本選手権の日本新薬戦は、先発して6回を1安打8三振で無失点と会心の投球だった。その年シーズン前の大久保監督は、「柏原(史陽)、関根。加藤の三本柱」と投手陣の構想を明言しており、糸川自身も「前の年の実績から、そりゃそうだろうとは思いました。でも、"見とけよ"と思っていた」。それが、シーズン終盤には四本柱の一角を占めたといっていい。

 そして今シーズンは、「キーマン。先発で行くぞ」と大久保監督から期待を寄せられ、この日本選手権ではTDKとの初戦、救援で2回を投げて無失点、さらにこの日と現在8イニング無失点だ。それにしても……体の動きがバラバラだったころから、わずか2年でまさかのドラフト指名。人生、なんともドラマチックである。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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