企業広告炎上はなぜ食品ロスを生み出すのか #午後ティー女子の件
キリンビバレッジ株式会社が4月26日にTwitterに投稿した「みなさんの周りにいそうな #午後ティー女子」のイラストに批判が殺到し、ツイートを削除し、謝罪する事態となった。
食品メーカーの社員は「お客様が商品を選んで買ってくれること」で毎月の給料を頂いている
筆者は食品メーカーに14年5ヶ月勤めていた。食品メーカーの商品は、住宅や車などと違い、単価が「98円」「198円」などと安い。スーパーやコンビニには競合メーカーの商品があふれている。その中で、自社商品を選んでお金を出して買って下さること、小さな「98円」「198円」の積み重ねで、毎月の給料を頂いている。
お客様のお陰で会社の経営が成り立ち、商品を提供することができ、給料を頂くことができるということ。
その基本的なことさえ認識しておれば、お客様に当たる人を揶揄するような表現はできなかったのでは・・・・と思う。
ライバル会社との闘いに勝つためには・・・
2017年9月5日、テレビ東京系列の「ガイアの夜明け」異変の夏...激闘″シェア争い!で、キリンとアサヒのビール業界での争いが特集された。ビール業界の競合メーカーであるアサヒが、大阪地区では圧倒的に強く、そのシェアを奪回するため、「今の2倍に売り上げを伸ばす」と会議で宣言するキリンの営業マン。
結局、目標を達成できず、飲み会の席で上司から怒られ、部下である営業マンが涙を流すというシーンが放送された。
筆者は、専門分野の「食品ロス」が特集されるということで、同じ回に登場する、日本気象協会と森永製菓の取り組みを観ていた。元食品メーカー社員として、ビールの営業マンの気持ちはわかるものの、違和感を感じる部分もあった。
一つは、せっかくの懇親の場である飲み会の席で、他の社員もいる前で部下を怒るということ。褒めるのなら他の社員の前でいいが、叱る時には別室にした方が、男性社員の自尊心が失われないで済んだのではないか。
二つ目は、企業がなぜこのシーンの撮影を許可したのかということ。
三つ目は、日本全国、地域差があるのは当然なので、自社が強い地域と他社が強い地域がある、そのことをなぜ受け入れないのかということ。
もちろん、自社製品の売り上げを伸ばしたい気持ちはわかる。が、弱みを挽回するより強みをより伸ばした方がよいのでは、とも思った。自社が弱い地域で「2倍に伸ばす」のは現実的ではない。過去に、高知県で、圧倒的にシェアを奪回したという武勇伝があるので、そこにとらわれているのかもしれないが・・・ビール業界の売り上げ全体が落ちてきているのだから、俯瞰して広い視野でみれば、他社が伸びることも喜ばしいことなのではないか。
ライバル会社の成長のために自社の持てる蓄積を共有する姿勢、小田原の鈴廣
神奈川県の小田原で創業150周年を迎える、蒲鉾(かまぼこ)メーカーの鈴廣(すずひろ)グループ。蒲鉾(かまぼこ)を作る際に出る魚の骨やアラ、鈴廣で作る「箱根ビール」の絞りかすを利用した肥料(魚肥)などを活かす"うみからだいち"という資源循環型モデルを取り入れ、食品ロスの削減という分野でも注目されている。
それだけではなく、小田原蒲鉾協同組合で、地域の蒲鉾(かまぼこ)会社の発展のために、「公開できるものは公開する」という、いわば ”利他” の姿勢をとっている。自社の利益だけに固執するのではなく、蒲鉾(かまぼこ)を愛すればこそ、の考え方と行動だと考える。
食品メーカーは「三方良し」であって欲しい
筆者が食品メーカーを辞めるきっかけとなった東日本大震災の時に経験したことだが、あまりに自社の利益に固執するより、業界全体がよくなればいい、という姿勢が、「三方良し」を招いてくれる。「三方良し」とは、近江商人の心得であった「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」だ。
筆者が2004年の新潟中越沖地震で被災地に自社商品のシリアルを支援物資として寄付した時、被災した方から「電気もガスも水道も使えない中、ビタミンもミネラルも含まれていて、そのまま食べられてすごく助かった。これからは災害食として売り出すといいと思う」というお礼の電話を頂いた。そのストーリーをメディアの方に伝えたところ、「これは伝えるべきだ」と、経済系メディアの方が、社名や製品名を大きく入れて取り上げて下さった。こちらはもう、社名や製品名は入らなくてもよいと思い、プレスリリースには入れていなかった。が、結果的には、会社も社会も自分にとっても良い結果となった。この時の経験から「社会のために、今、何が必要か」を発信することで、必ず「三方良し」になる、と確信している。
買い物は選挙、選んで下さるお客様は大事
前述の「ガイアの夜明け」の放映の後、「もうキリンビール買わない」という声が上がった。今回の「キリン午後ティー女子」の企業PRのツイートで、また「もう買わない」の声が上がっている。Twitterで5,000人以上にアンケートをとっている人もおり、過半数が「もう買わない」と答えている。企業は、販売見込みや需要予測を立てて製造する訳だが、需要予測を下回る売り上げだと、在庫を抱えてしまう。在庫を置いている間にも、賞味期間はどんどん減っていく。食品メーカーの商品は、賞味期限ギリギリまで売れるわけではない。業界の商慣習である「3分の1ルール」に基づき、そのずっと手前に販売期限があるし、そのもっと手前に納品期限もある。どちらも、期限が切れたら、もう納品・販売はできない。結果的には食品ロスになってしまう。
食品メーカーの社員は、誰から給料を頂いているのか、という基本的なところに立ち戻って欲しい。商品を買って下さるお客様への敬意や感謝の気持ちを忘れないで欲しい。企業広告や広報で、お客様への感謝を忘れたようなことを繰り返せば、結果的にファンを失ってしまう。食品ロスにも繋がる。
一方、商品を買う側であるわれわれ消費者は、「買い物は選挙である」という、霊長類学者のジェーン・グドールが著書で述べている言葉を忘れないでいたい。応援したい企業、お客様を大切にしてくれる企業や、その商品・サービスを選ぶこと。消費者にはその責任がある。
参考記事: