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超ビッグな蟻?と思って捕まえてはダメ!春は強烈毒虫のツチハンミョウに注意

天野和利時事通信社・昆虫記者
お腹の大きなヒメツチハンミョウのメス。巨大蟻の女王のような姿だ。

 春の草原で土筆(ツクシ)やワラビを摘んでいると、紫色に輝く巨大蟻(アリ)のような生物に出会うことがある。しかし、「女王蟻見っけ!」などと思って捕まえてはいけない。

 それはたぶん、有名な毒虫「ツチハンミョウ」の仲間だ。関東地方で一番多く見かけるのは、ヒメツチハンミョウ。蟻のふりして、何気ない顔で道路を歩いていることもあるので、騙されないよう注意が必要だ。

メスと比べややスマートなヒメツチハンミョウのオス。ゴツゴツした触角がオスの特徴。
メスと比べややスマートなヒメツチハンミョウのオス。ゴツゴツした触角がオスの特徴。

 ツチハンミョウの仲間は、脚の関節からカンタリジンという毒を含む黄色い液体を出す。このカンタリジンは、数十ミリグラムで大人の致死量になるという猛毒。ツチハンミョウ数匹分の毒を集めれば人を殺せるとも言われるから恐ろしい。そんなツチハンミョウの毒が皮膚に付くと、火傷のような水ぶくれができる。

 こんなことを書くと、ツチハンミョウは「最悪の虫」と思われそうだが、昆虫学者や虫好きの間では、ツチハンミョウは結構人気があり、その奇妙な生態が注目されている。

脚の関節から毒液を出すヒメツチハンミョウ。絶対に手でつかんではいけない。
脚の関節から毒液を出すヒメツチハンミョウ。絶対に手でつかんではいけない。

交尾中のヒメツチハンミョウのカップル。
交尾中のヒメツチハンミョウのカップル。

産卵のため土に穴を掘っているヒメツチハンミョウ。お尻の周囲に卵が散らばっている。
産卵のため土に穴を掘っているヒメツチハンミョウ。お尻の周囲に卵が散らばっている。

 春に土中に産み付けられた卵から孵化したツチハンミョウの幼虫は、すぐに近くの植物の花の近くまでのぼる。そして花に呼び寄せられたハナバチにしがみ付いて、ハナバチの巣に運ばれ、そこでハナバチが自分の子孫のためにため込んだ花粉団子などを食べて成長すると言われている。

 そんな運任せのような極めて効率の悪いツチハンミョウ幼虫の生き方は驚きだが、こうした不思議な生態を解明した昆虫学者らの執念にも驚き、感動する。昆虫の世界は、まだまだ謎だらけであり、そんなミステリーを解明していく作業は(あまり金にはならないかもしれないが)、きっと楽しいに違いない。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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