Yahoo!ニュース

グーグルが「クソッタレ撲滅ルール」を断行!セクハラで48人を解雇

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 10月26日、BBCニュースに「グーグル、過去2年間にセクハラで48人解雇」と題する記事が掲載された。

 グーグルはこの2年間にわたり、セクハラ行為をめぐって従業員48人を解雇した。従業員には上級管理職13人が含まれる。CEOのスンダル・ピチャイ氏は、グーグルは安全であらゆる人を受け入れる職場環境の提供に向けて、きわめて真剣に取り組んでいると述べている。セクハラ行為の訴えは、すべて調査し対応している、とのことだ。

 この報道を受けて、グーグルは何という酷い会社だと思われるだろうか。しかし、上級管理職も含めて従業員を48人も解雇しているという事実は、問題をうやむやにしていないことを意味する。しかも、社内の恥ずべき点を隠さずに公表しているのだから、不正を隠し続けてきた日本企業勢よりも、よほど風通しのよい会社であるといえよう。

 筆者は先日、「職場の「クソッタレ」はどれほど悪影響か 組織行動論から対策を考える」という記事を書いた。クソッタレとは、スタンフォード大学のロバート・サットン教授が用いた、嫌なことをして周囲の人々のエネルギーを奪う人間を表す言葉である。サットン教授は自著のなかで「クソッタレ撲滅ルール」を実践している企業の例として、グーグルを挙げている。今回の対応は、たんにグーグルの精神を全うしているということに過ぎない。

 グーグルを讃えつつ、自分もクソッタレになって解雇されないために、対策方法を述べていくことにしたい。

グーグルの「クソッタレ撲滅ルール」

 サットン教授によれば、グーグルは「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備している。たしかにグーグルのなかにも、クソッタレ行為をする人はいる。しかし、そういう人間はできるだけ採用しないように努め、勤務評定を下げるなどして、上司にはなれないようにしているようだ。たとえ超優秀であろうとも。

 とくに「激クソ」は絶対に許さず、解雇となる。クソッタレを解雇すると職場の環境が一気に改善するため、誰もが、なぜもっと早く手を打たなかったんだろうと口々に言うようだ。また、クソッタレのせいで退社を考えていた社員が残り、仕事に精を出してくれるようになる。さらには、有能だと思われていたクソッタレは、実は大して貴重でなかったことも明らかになる。ようするに、他人の実績を奪ったり、人をこきつかったり、成果を上げやすい仕事ばかり行っていただけ、ということだ。

 そういうわけでGlassdoorが調査する「働きやすい企業ランキング」でも、毎年グーグルはトップクラスを維持している。その他、サウスウエスト航空やバークレイズ、メンズ・ウェアハウスなども「クソッタレ撲滅ルール」を遂行しているし、マイクロソフトやイーベイなども非常に高い関心を示しているようだ。ルールを採用する企業は、今後も増えていくことだろう。

 とはいえ、実は誰しもがクソッタレになる可能性を秘めている。劣悪な状況のなかでは、どれほど優しくて良い人間であろうとも、辛辣で残酷になってしまう。プレッシャーからくる不安や恐怖、人の怒りや軽蔑などに晒されたとき、ほとんどの人はクソッタレになってしまうのである。

 したがってサットン教授は、一時的なクソッタレと「鑑定書つきのクソッタレ」とを区別している。仕事にやる気を失わせないためには、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることだ。よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出そう。人のミスや失敗に対して寛容な組織こそ、働きやすい組織だといえるのである。

 本物のクソッタレかどうかを見極めるには、自分よりも目下の人に対して普段どういう態度をとっているかを知ることだ。例えば、思いつきの仕事を押しつけたり、権力を見せつけたりしている者は、本物の可能性が高い。上にはヘコヘコしながら、下には忠告や指導という名のマウントをかけてくる者も同様だ。抵抗してもやめないとき、その人は「鑑定書つきのクソッタレ」である。

クソッタレにならない方法

 誰しもがクソッタレになる可能性を秘めているのだから、そうならないための対策もまた、検討しなければならない。

 第一に、劣悪な環境がクソッタレをつくるのだから、クソッタレの巣窟には足を踏み入れてはならない。つまり、自らが所属しようとしている組織がどういう人の集まりなのかを、時間をかけて見極めなければならないのである。たとえ待遇が魅力的であろうとも、絶対に所属しないことだ。クソッタレの習慣が身についてしまえば、人生をフイにすることになる。

 第二に、身近なクソッタレには近づかないことである。クソッタレの同僚や顧客からは、できる限り距離を置くといい。つまり、クソッタレのいない会社に転職することだ。どうしても転職したくないときは、クソッタレから質問されたときは返答を遅らせ、会議なども短く切り上げる。こうして、クソッタレと会う回数を減らし、ポジティブな影響を与えてくれる人と会う回数を増やすのである。ネガティブな印象は、ポジティブな印象が与える影響の5倍にものぼる。いい人5人に対し、クソッタレ1人の割合を超えてはならない。

 最後に、協調しやすい環境を整えることである。一時的なクソッタレは、追いつめられているからこそ、クソッタレになる。競争的な環境、個人のノルマに追われた環境では、クソッタレが量産されてしまうのである。身近ないい人たちと協力することで、高い成果を上げよう。そういう空気を広めよう。アリストテレスの言うように、人間は社会的動物なのである。人のために役に立ち、人からも支援されていると思うとき、人間は人間らしさを取り戻すことができる。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

遠藤司の最近の記事