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リージョのサッカー熱。グアルディオラと手を組んで生み出すシナジー

小宮良之スポーツライター・小説家
リージョはアルメリアの監督として、グアルディオラのバルサと戦い、0-8で敗れた。(写真:ロイター/アフロ)

 マンチェスター・シティで、ファン・マヌエル・リージョとジョゼップ・グアルディオラ監督は、どのようなマネジメントを見せ、プレーを作り上げるのだろうか――。

 リージョは監督としてではなく、アシスタントコーチとして”盟友”グアルディオラをサポートする。その人間性を持って、選手に向き合う仕事は変わらない。彼の熱量は、グアルディオラを助け、チームに活力を与えるはずだ。

神戸で食べたピザ

 2019年初春、神戸。高層マンションの階下にあるレストランで、アシスタントコーチだったイニゴがピザをテイクアウトし、エレベーターに向かう。当時、ヴィッセル神戸の監督だったリージョが住む部屋の階のボタンを、イニゴが左手で押した。エレベーターで上がり、数歩進むと、扉を開け放ったリージョがガウン姿で待っていた。

 その日、リージョは風邪をこじらせていたが、来客前にシャワーを浴び、ランチを共にすることになった。具合が悪いのにピザというのも、日本人には違和感はあったが、おかゆというわけにもいかない。彼は一切れ、二切れとむしゃむしゃと食べてから、薬を飲んだ。

 部屋は家族がゆったり暮らせるほど広かったが、必要不可欠なものしかなかった。ミニシアターのようなテレビモニター、世界中のサッカーを視聴できる機材、そしてソファ。食べ終わると、テーブルからソファに移り、リージョはサッカーのビデオを流してしゃべり続けた。

 その熱量はすさまじかった。

サッカーを語る熱

 クラブの判断で獲得が決まっていたブラジル人ディフェンダー、ダンクレイのスカウティングビデオを一緒に見ながら、リージョは、その長所、短所を次々に言い当てた(その後、神戸に入団してからその通りの結果に)。一方で求めていたウルグアイ代表ディフェンダーとの交渉が取りやめになったことを悔しがった。そして最後は「スカウティングビデオは良いところを編集してあるから、本当には分からない」と突き放した。

 次は南米のリーグの試合を見始め、話は止まらない。気付くと数時間が経っていた。

「どのように集団をマネジメントするのか?それをペップ(ジョゼップ・グアルディオラ)はなによりも聞きたがった」

 その時、リージョは“弟子”であるグアルディオラについても語っていた。

ベンチでのマネジメント

 ベンチでの所作は多岐にわたる。例えば、ベンチの前で叫び続ける監督は一般的だが、リージョはその価値を認めない。なぜなら、ベンチで叫ぶということは、日ごろのトレーニングの成果が出ていないということで、その時点で監督としての仕事で欠けている。それは、意に反した動きに怒っているというアピールであっても、指示としては満足に伝わらない。

 事実、神戸時代も立ち上がって、怒鳴ったりわめいたりすることはなかった。

 また、リージョは交代枠も最大まで使うことは少ない。なぜなら、ピッチに送り出した選手がベストメンバーであって、たとえ状況が悪くても、交代させたからと言って、改善するとは限らないのである。むしろ悪化する可能性が同程度で、変わらない可能性もあるのだ。

「戦いの前に勝負は決まっている」

 それがリージョの指揮官としての考え方で、マネジメントの基本としてある。

選手とのコミュニケーション

 リージョは選手たちとの関係をなによりも重視している。一人一人が何を考え、悩んでいるか。毎朝のトレーニングでは表情を観察し、時には肩を抱き、体をぶつけ、足を踏んづけ、その反応を見て、心を読み取り、コミュニケーションを図る。

 一挙手一投足で、選手の心をつかむのだ。

 リージョが神戸の監督を辞職せざるを得ず、最後に挨拶したとき、セルジ・サンペールは人目を憚らず、泣きじゃくっていたと言う。共に過ごした期間が1,2ヶ月で、それだけの信頼関係を築く。そんな芸当が他の誰にできるのだろうか。

「チームを去ることを告げたとき、セルジ(サンペール)は子供のように泣きじゃくっていた。あいつのことは期待していたから、ケツをひっぱたくような指導だった。付き合いは数十日間で短かったから驚いたけど、それは監督として励まされる思いだったよ」

 リージョは回顧した。

センターバックは歯にナイフを咥えてプレーしろ

 一つ言えるのは、リージョのサッカーへの情熱は誰にも伝わるということである。圧倒的な理論に基づいているのだが、表出するのはこざかしさではない。サッカーへの熱量、パーソナリティそのもので、それは体の奥深くまで届くものだ。

「ダンクレイ、お前がブラッド・ピットのようなイケメンなら、獲得はしなかったぞ。センターバックなら、“歯にナイフを咥えて”プレーしろ。それがお前の存在理由だ!」

 リージョはそう言って、ダンクレイを励ました。彼が求めた選手ではなかったが、いったん、麾下に入った選手に対しては、全身全霊で接していた。

 アシスタントコーチとしても、その熱は変わらない。

 グアルディオラとどのような化学変化を起こすのか。20歳になった左利きMFフィル・フォデンは、覚醒した感がある。必見だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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