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トナカイさんへ伝える話(55)時効寸前だった強姦致傷事件、懲役8年判決

小川たまかライター
(写真:アフロ)

 性暴力の被害者支援関係者らが注目していた事件の判決が出ました。

 7月16日、横浜地裁小田原支部、佐脇有紀裁判長。強姦致傷罪などに問われた三ツ木努被告に、懲役8年(求刑懲役10年)が言い渡されました。

 注目を集めていた理由は、被害者の負ったPTSD(心的外傷後ストレス障害)が「致傷」にあたると判断され起訴されたからです。最近ではよく知られている通り、性暴力の被害者が精神的な後遺症に悩まされることは多いですが、これをもって「致傷」をプラスすることはあんまりありません。

 強制性交致傷や強制わいせつ致傷といった場合には、身体的な傷であることがほとんどです。全治1〜2週間程度の擦り傷でも「致傷」になります。ちなみに、性犯罪は「致傷」がついた場合に裁判員裁判となるので、被害者側に裁判員裁判を避けたい意向があると(地方で裁判員が知り合いかもしれない恐れがある場合など)、あえて致傷で立件しないこともあるようです。

 今回の事件は特殊で、犯行が行われたのは2005年7月19日。被害者はその日のうちに警察に届けましたが、犯人が見つからず、強姦罪(現・強制性交等罪)としては2015年の時点で時効が成立していました。

 しかし2018年10月、別事件の関係者として三ツ木被告のDNA型が採取され、事件で採取された型と一致。携帯電話を解析した結果、被害者を撮影した動画も見つかっていました。

 被害者女性は2019年1月に精神科医の診察を受けてPTSDと急性ストレス障害と診断され、警察はこの診断を持って強姦致傷罪が成立すると判断し、2020年6月24日に逮捕。強姦致傷・強制わいせつ致傷の時効は15年ですから、時効まであと1か月というところでした。

 逮捕の報道時にも、知人たちと「珍しい事例」「被害者さん、頑張ったね。被害者さんが報われる判決が出るといいね」と言い合った記憶があります。時効など法の壁に阻まれる被害当事者は少なくないので、警察(&検察)も頑張ってくれたなと思いました。

 今日の判決を傍聴してきました。判決文によれば、弁護側の主張は以下の3点。判決ではほぼすべて否定されました。

(1)犯行時に刃物は使用していない

(2)最初から強姦する意図はなかった

(3)被害者はPTSDを負っていないので強姦致傷罪・強制わいせつ致傷は成立しない

 特に注目されていたのはもちろん(3)で、弁護側は強姦罪・強制わいせつ罪の時効が成立しているため免訴を主張していました。

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ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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