「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(9)
それパク第9回の簡単な法的解説と感想を書いていきます。未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。
大ネタであるパテントトロールの話をもう1回引っ張るかと思いましたが、そうはなりませんでした。
南海キャンディーズのしずちゃんが出てきたパートは著作権利用許諾契約に関するものでした。知財に限ったことではないですが、民法の「契約自由の原則」により、どのような契約を結ぶかは当事者間で自由に決めることができます。ドラマでは、しずちゃんが演じるイラストレーターが自分のキャラクターを月夜野のCMで全面的に使用する(改変も許諾する)という条件で契約を結んでいたにもかかわらず、後でそんなことを許可した覚えはないと炎上騒ぎに持って行こうとしていました。
法律関係者ではない人(特に、契約関係に無頓着なクリエイターの人)が、自分が合意したはずの契約内容を理解していない(あるいは、一度は理解していたのにしばらくすると忘れてしまう)ことにより後で問題にするというのはあるあるネタではないかと思います。ところで、これは、特に伏線でも何でもなく、単なるオマケエピソードだったんでしょうか?
本ネタはハッピースマイルビバレッジからの特許侵害警告です。重岡がカメレオンティーを特許出願せずノウハウとして秘匿化をする選択をした時に「これは賭け」と言っていましたが、フラグだったんですね。
「スーパー早期審査」とこれまた実務的な用語が出てきました。特許庁において特許の審査結果が出るまでには、通常1年くらいを要しますが、早期審査請求を行うことで審査を早めることができます。法律で定められているわけではなく、特許庁の運用ルールです。スーパー早期審査は、早期審査のさらに速いバージョンで、ドラマのように3カ月で特許化することも可能です。ただし、スーパー早期審査は、発明を実施中、または、2年以内に実施予定があることが前提であるところ、田辺誠一は商品化の予定はないと言っていたので虚偽申告によりスーパー早期審査を請求したことになってしまいます(これで特許が無効になるということはないですが)。
一般に、このケースですと、弁理士の頭には先使用権がまず浮かぶと思います。先使用権とは他人の特許出願前からその発明を実施、あるいは、実施の準備を進めていたときは、自らの実施を継続できるという特許法上の規定です。この問題が出た最初の段階でともさかりえも重岡も先使用権に触れなかったのはちょっと不自然でしたね。しかし、やはり、検討はされているということが後で出てきました。いろいろと証拠資料が必要なので立証は大変ですが、カメレオンティーの技術を秘匿化する意思決定をした段階でそれなりの準備をしていたはずです。しかし、「先使用権を主張できるので大丈夫です」だとドラマとして展開しないので、何か先使用権を使えない理由があるという設定なのでしょう。
次回はいよいよ大団円になるはずですが、単に、盗用した情報を元に冒認出願していたことの証拠を押さえてハッピースマイル社に対抗するだけですと、実質的に第1回と同じになってしまうので、何かもう一ひねりあることを期待します。