攻撃による「ミサイル阻止力」では敵の先制第一撃(核ミサイル含む)は防げない
敵領域内でのミサイル撃破を目指す能力についてこれまで「敵基地攻撃能力」という言葉が使われてきましたが、実際の目標は固定基地ではなく移動発射機なので実態にそぐわないため、最近では「ミサイル阻止力」という言葉が使われるようになりました。
しかし隠れながら逃げ回る移動発射機をミサイル発射前に撃破する「弾道ミサイル狩り」は非常に困難で現実的ではないことは、過去から現在に至る戦訓で示されてきました。
【過去記事】「敵基地攻撃能力」では弾道ミサイルを阻止できない根拠と実戦例
それでも攻撃することは無駄ではなく意味があります。ただし意味が出て来るのは敵の第二撃以降であり、敵の先制攻撃である第一撃には効果がありません。
たとえ敵の移動発射機を撃破することができなくても、攻撃を加え続けるという行為そのもので敵を警戒させ、同時飽和攻撃の企図を挫く「妨害効果」が生まれます。
ただしこの妨害効果は敵の先制攻撃である第一撃には発揮できません。まだ攻撃を加えていない段階なのですから当然なのですが、非常に困ったことに敵が核ミサイルを発射するとしたら先制第一撃に含まれる可能性が高く、ミサイル阻止力は発揮できないという結論になります。
敵が通常弾頭の弾道ミサイルを用いて再装填・再発射を繰り返す状況ならばミサイル阻止力は効果を発揮できますが、核ミサイルを防げなければその後の通常ミサイルを凌げたとしても殆ど意味がありません。
味方の攻撃で敵の先制第一撃を防ぐには、味方の方から先に先制攻撃しなければなりません。敵が完全に油断して弾道ミサイル移動発射機を基地の車庫に入れて寝ているところを奇襲攻撃すれば纏めて撃破することも可能でしょう。しかしそれは日本国憲法九条どころか国連憲章の禁止する予防戦争に該当します。
先制的自衛権による攻撃は何処までが認められるか議論はありますが、基本的には敵が攻撃の準備段階に着手していない限りは認められません。真に急迫した状況でなければ敵領域内での攻撃に正当性は無く、そしてそのような状況ならば、敵の弾道ミサイル移動発射機は既に基地の車庫から出撃して全土に散開し隠蔽済みである可能性が高くなります。この段階で弾道ミサイル移動発射機に搭載済みの即応弾を発射前に阻止することは非常に困難です。
日本政府は先制攻撃を明確に否定しています。ゆえに敵領域内での攻撃を意味する「ミサイル阻止力」では敵の先制第一撃を防げません。それは敵の先制第一撃に含まれる核攻撃を防げないという意味なのです。