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「クリスマスが(新型コロナ拡散で)キャンセル。ありがとう中国」――英政治家の皮肉に中国メディア激怒

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
ファラージ氏と陳衛華氏の発言=Twitterより筆者作成

 英国の政治家、ナイジェル・ファラージ氏がクリスマスを前にした今月20日、自身のツイッターで「クリスマスが取り消された。ありがとう中国」とつぶやき、中国側から反発が上がっている。中国メディアの幹部は「マスクを着けろ。デタラメを言うな」と感情を交えて書き込んでいる。

◇ポピュリズム政党ブレグジット党の党首

 英国では、従来の新型コロナウイルスより強力な感染力を持つとされる変異種が首都ロンドンを含む南部で広がり、ジョンソン首相は19日、外出規制を強化すると発表した。20日から2週間、ロンドンとその周辺でスーパーなどを除く店が営業できなくなり、規制地域外への移動も禁じられた。

 英国では3回目の都市封鎖(ロックダウン)となり、英メディアは「変異種が多くの英国民のクリスマスの計画を台無しにした」と伝えていた。

 こうした状況を踏まえ、ファラージ氏はツイッターに「クリスマスが取り消された。ありがとう中国」と書き込んだのだ。韓国紙・中央日報はこの趣旨を「新型コロナを発生させた中国よ、お前たちのおかげで、われわれのクリスマスは中止になった。本当にありがとう」と解説している。

 ファラージ氏は、英国の欧州連合(EU)離脱を強く訴えてきたポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ブレグジット党」の党首で、離脱派の顔ともなった人物だ。11月1日付英紙デイリー・テレグラフへの寄稿で、党名を「リフォームUK」に変更すると明かし、その理由として「非情で不必要な都市封鎖と闘うためだ」と主張している。

 だが、中央日報によると、今回の書き込みに対して英国人の多くが共感していないという。

 例えば、ある書き込みには「ベトナムは中国と国境を850マイル(1367.94km)も接し、我々よりも人口も人口密度も高い。だが感染者は約1400人に過ぎない」。これは、たとえ新型コロナ感染拡大が始まったのが中国であっても、英国での感染拡大は英国の責任ということを示唆しているという。

 また「海外旅行や集会参加が禁止されている時に、外国の選挙のため米国に行き、パブに入った男も同じだ」。今年10月の米大統領選の際、トランプ大統領の遊説場所に出向き、支持演説をしたファラージ氏の行動を批判しているというのだ。

◇中国の猛反発

 予想された通り、ファラージ氏の発言に中国側が反発した。

 当該ツイートに「マスクを着けろ。デタラメを言うな」というコメントをつけたのが、陳衛華氏。中国共産党傘下の英字紙「チャイナ・デーリー」のEU支局長だ。

 この陳氏の書き込みに対し、さらにファラージ氏は同日、「中国共産党は真実というものが嫌いで、いつも攻撃的に反応する。彼らはこの地球規模の災害に対し賠償金を支払うべきである」と書き込み、再び挑発した。

 すると、陳氏は「ファラージ氏はトランプ氏の操り人形だ。欧州における壮大な冗談だ」と批判。その後も双方は互いの発言に対する反応を繰り返した。

 中央日報によると、英主要メディアはファラージ氏の発言を記事化しなかったという。「極右政治家であるファラージ氏の意図を推し量ってのことだろう。むしろ中国側のメディアがその発言をより大きく報じている」と同紙は指摘している。

 新型コロナは中国湖北省武漢から感染拡大が始まったが、中国は自国を発生源とする見解には強く反発し、発生源に関する発言や報道には敏感に反応している。同紙は専門家の意見として「習近平国家主席が新型コロナ非難から抜け出せるならば、統治における大きな不満要素の一つを減らすことができる」との見解を伝えている。中国側が反発した背景には、中国側の不安感が隠されている、というのが同紙の見解だ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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