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吉田麻也に続く「ポスト・ロシアW杯」の日本人CBは?

小宮良之スポーツライター・小説家
ロシアW杯ラウンド16,ベルギー戦で巨漢FWルカクと競り合う吉田麻也(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 森保一監督が新たに率いることになった日本代表はコスタリカ戦でデビューを飾るわけだが、吉田麻也(サウサンプトン、30才)のパートナーになる、もしくは後を継ぐ日本人センターバックは誰になるだろうか?

 プレミアリーグで7年目のシーズンとなる吉田は、「日本人史上最高のセンターバック」の称号が与えられるべきだろう。プレミアでプレーし続けるというのは、それほどの価値がある。守備者として確実に習熟。ターンの遅さや不必要なファウルなど、昨今はネガティブな面が確実に薄れている。代表レベルでも、ロシアW杯ではベスト16に貢献し、頼もしいプレーを見せた。

 その一方、吉田に続くようなセンターバックが台頭しない限り、日本の守りは弱体化する。

「日本人ディフェンダーも、もっと海外に出るべき」

 ベルギー戦に敗れた後、吉田自身がそう語っていたが、海千山千の猛者を相手にすることで、鍛えられる部分は少なくない。その点、W杯代表メンバーの植田直通(セルクル・ブルージュ)、遠藤航(シントトロイデン)の二人が海を渡ったのは朗報と言えるだろう。彼らが持ち帰るモノは、必ずあるはずだ。

 では、日本人センターバックはどのように世界と互角に戦えるようになるのか――。

目を背けてはいけない高さ

 欧米勢と比較した場合、日本人サッカー選手の体格は決して大きくはない。世界的にセンターバックは大型化し、トップレベルは身長190cm前後の選手が多くなっている。日本人はこの点、本来的にハンデがある。

「自分たちがボールを持っていれば、高さの不利は出ない」

 かつては育成でそんな論調が大勢を占め、「キック技術はあっても、守備のインテンシティが低いセンターバック」が評価を受けることがあった。

 必然的に、それは問題を引き起こした。

 サッカーでは試合の90分間を通し、ボールを握り続けることはできない。すなわち、センターバックは受け身になるのが前提としてある。大袈裟に言えば、160cmのセンターバックがいた場合、190cmのFWを投入され、クロスを放り込まれたら為す術がない。高さで引けを取ることはチーム戦術の点、後手に回ることになることを意味するのだ。

 近年の人材の薄さにつながっている。

 やはり、高さは無視できない。

日本人が目指すべきスペイン人センターバック

 とは言え、身長が絶対、というわけでもないのである。

 偏らない考え方が重要だろう。

 レアル・マドリーのスペイン代表DFナチョ・フェルナンデスは、身長179cmと大きいとは言えないが、センターバックとしてトップクラスの大型FWともやり合える。それはナチョの実戦を重ねた上での創意工夫のおかげだろう。例えば長身のFWと対戦するときは、ほんのわずか早く飛んでいる。跳躍の高さとタイミングによって、相手に十分に競らせない術を身につけているのだ。

 なにより、ナチョはプレーエリアが広い。各ゾーンで求められるプレーの要求を満たせるインテリジェンスを持っている。チャレンジし、カバーするという呼吸に優れ、チームメイトと連係して守れる。それ故、バックラインでは左右センターバック、左右サイドバックと複数のポジションをこなせるのだ。

 ナチョは、日本人が模範とすべきセンターバックの一人だろう。

 同じマドリーでスペイン代表のセルヒオ・ラモスは自らの得点でミスを帳消しに、チームを勝利に導くような豪快で華やかな選手だが、彼を真似るのは難しい。恵まれた身体能力、人並み外れた気迫、さらに高いレベルでの実戦経験によって、彼は育まれている。ディフェンスとしてはむしろポカが目立ち、それをリカバリーする非凡なバイタリティがあるのだ。

経験を糧にできるか、がセンターバックの資質

 もっとも、守備者というのは常に高さや強さから目を背けず、対処する能力を養うべきなのだろう。優れた守備者は、最初から優れているわけではない。学習能力が高いディフェンダーが一流に到達するのだ。

「イタリアには守備の文化があった。あそこでプレーすることで(5シーズン、ナポリ、ACミランでプレーした後、スペインのバレンシアでリーグ優勝に貢献)自分のディフェンスは磨かれた」

 かつて世界最高のセンターバックに数えられた元アルゼンチン代表アジャラは明かしていたことがあった。祖父も、父もセンターバックだったアジャラだが、海外で揉まれることで、その境地に達したという。一流のアタッカーと対峙した(当時、セリエAは世界トップのFWが集まった)経験も能力を鍛えた。

 海を渡った挑戦が、守備者にカタルシスを与えるのは間違いないだろう。

「スペインに来て、首をかしげることもありましたよ」

 そう語っているのは、スペイン2部、ジムナスティック・タラゴナで3シーズンに渡ってプレーし、柏レイソルに復帰したばかりの鈴木大輔だ。

「今まで教えられたのとは、まったく逆のこともありました。例えば日本では『(ボールを持っている選手に)ケツを見せるな!』って教わります。でも、スペインではその原則よりも、ボールを奪う、ゴールを割らせない、という目的から逆算するんですよ。だから、裏をケアするのにケツを向けて背後の選手をつかまえるべきときもある、という論理なんですよね」

 守備者は、経験を糧にするしかないのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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