プロフェッショナルは組織に馴染むのか?いまプロフェッショナルを活かす人材マネジメントが求められている
<プロフェッショナルが求められている>
昨今、弁護士や会計士、コンサルタントなど、いわゆるプロフェッショナルサービスを提供する職業が世の中に増えてきています。そして、一般事業会社の中でも、こういったプロフェッショナル人材が必要とされ、それらを獲得・育成・定着させるニーズが高まっています。それでは、このようなプロフェッショナル人材を私たちはどのようなマネジメントしていったらいいのでしょうか?
プロフェッショナルの語源は“profess”で「神に誓いを立てて、これを職とする」という意味であり、単に知識やスキルがあるだけではなく、「神への誓い」に類した何らかの信念や価値観、それらを実現するために必要な行動特性を持った人材がプロフェッショナルです。そこで私は、プロフェッショナルを「専門性の高い知識とスキル、高い倫理観を持って、顧客との誓いを果たすために献身する人材」と定義し、このような人材を獲得・育成・定着させる施策を企業に提言してきました。
<プロフェッショナルはスペシャリストではない>
まずはじめに、日本のビジネス界において、プロフェッショナルを自他ともに認める人材を選定し、その人物の特徴をインタビューやメディア掲載情報をもとに収集したところ、いくつかの特徴が抽出されました。
'''<プロフェッショナルの特徴>
1.クライアント志向(商品サービスよりも一人一人のお客さまを意識する)
2.ビジネス志向(アカデミックではない)
3.チーム志向(一匹狼ではなく仲間を大切にする)
4.複数分野での多様な経験を他分野で活かす
5.仕事の対価としてクライアントから高い報酬を得る
★知識・スキルではなく価値観・行動特性に共通項'''
ここでわかったことは、プロフェッショナルの共通項は、知識やスキルではなく、価値観、行動特性にあるということです。この点で、知識やスキルに特徴を持つ、いわゆる「スペシャリスト」とは、どうも特性が異なるようです。
<スペシャリスト認定型からプロフェッショナル活用型へ>
多くの企業のプロフェッショナル人材向けの人事施策は、本人の知識・スキルだけに着目した「スペシャリスト認定型」にとどまっています。専門職を設けて通常とは異なるキャリアパスや処遇を実現する「複線型等級制度」や、スキル定義やその他の社内基準を定義して、それらを満たした人材に特別な処遇を与える「社内資格認定制度」などがその代表例です。しかし、これではプロフェッショナル人材は気持ちよく仕事をすることができません。窮屈に感じてしまったり、疎外感をむしろ感じてしまったりします。
プロフェッショナルを活かすためには、知識・スキルだけではなく、価値観や行動特性にも着目した「プロフェッショナル活用型」の施策が新たに必要です。そのための取り組みを、以下に3項目、事例として紹介して参ります。
<1.エンゲージメントが高まる要素を見つけて改善する>
エンゲージメントとは、従業員が組織にエンゲージ(“婚約”したいほど没頭)する状態の強さのことを言います。エンゲージメントを高める要因は、各人の価値観や行動特性によって多様ですが、自社に集うプロフェッショナルがどのような要素を重視しているかは、みつけることができるはずです。自社のプロフェッショナルに共通する価値観や行動特性を理解して施策をうつことで、プロフェッショナルが集い、高いモチベーションで貢献し続けられる強力な組織を作り上げることができます。
こちらの図表をご覧ください。一般にプロフェッショナルが共通して価値をおくのは、8つの領域のうち、右下の領域、つまり「仕事」「成長」の2つの領域における自由度です。自律したプロフェッショナルにとって、「評価」や「報酬」など組織から与えられるものではなく、自ら獲得することが可能な「仕事」と「成長」の機会を自由に得られることこそが、何よりもエンゲージメントを高める要因となることがわかっています。もちろん、業種や業態によってプロフェッショナルが重視する項目は異なります。これらは、様々な人事系のコンサルティング会社が保有する『エンゲージメントサーベイ』という社内調査を実施することで明らかにすることができます。
<2.明快なバリューステイトメント=組織の価値観がプロフェッショナルを育てる>
例えば、私たちが属するコンサルティング業界には、多くのMBAホルダーが入社してきますが、彼らはプロフェッショナルとして十分に育てられているとは言えません。ビジネスの知識や資料作成などのスキルは、一定水準以上を保っていますが、プロフェッショナルとしての価値観や行動特性がともなっていないことが多いのが実情です。そのため、組織の中で十分に活躍してくれないことがあります。どうにかして、優秀な人材を組織貢献に向かわせたいものです。ここで必要になるのがバリューステイトメント、つまり組織の価値観の定義です。プロフェッショナルは自律していると先ほど述べましたが、そのようなプロフェッショナルを組織貢献させるためには、明快なバリューステイトメントもまた必要なのです。価値観の共有こそが自律した人材を活かせる組織づくりの鍵です。
私が過去に所属したコンサルティングの会社では、「顧客の事業の成功を徹底的に追及する」というバリューステイトメントが存在していました。事業の成功につながらないような提案や提言をすることは御法度であり、そのような発言を繰り返すコンサルタントは周囲からも軽蔑され、時には解雇を言い渡されることもありました。特に、私の所属していた人事領域のコンサルティングの部門は、「人」の問題を扱うため、明確な模範解答がない世界です。誰でも答えをつくれてしまう仕事なのです。そのため、油断をしていると過去事例を活用したプロダクトアウトな提案をしたり、特定のステークホルダーの利害に偏重した提言をしたりする危険性があります。しかし、それではプロフェッショナルが集う組織とは言えない、企業経営を人事面からサポートする戦略コンサルタントとして、つまり、プロフェッショナルとして、事業の成功にこだわって欲しいという組織の価値観がここに表されているのです。このことにより、どのような人が入ってきても、組織としての共通の価値観があるため、プロフェッショナル同士で組織貢献を議論できるのです。
<3.修羅場体験でプロフェッショナルを養成する>
プロフェッショナルを活用する組織をつくったら、次世代のプロフェッショナルが組織内から育ってくれる文化づくりも必要になってきます。そこで必要なのが修羅場体験づくりです。
最低限の水と養分で栽培されたトマトは栄養価があっておいしい。この永田農法と呼ばれる栽培方法を考案した永田氏照喜治氏によると、この農法で栽培されたトマトは、「本来の生命力を取り戻し、白くてふわふわの細かい根っこが地上近くにびっしりできる」そうです。プロフェッショナルの養成においても同様のことが言えます。
プロフェッショナルはぎりぎりの生育環境の中でこそ育ちます。それはつまり顧客との間で繰り広げられる修羅場の体験です。例えば、3日間徹夜でつくりあげた企画書が取引先の社長に一瞬で却下され翌朝までに再提案を依頼される、などといった事態を乗り越えた経験、こういった逆境における成功(失敗)体験がプロフェッショナルを産むのです。
このような逆境は、普通にビジネスをやっていると頻繁には起こりません。そこで、若手からプロフェッショナルを育成するために、このような場面をシミュレーション(疑似体験)できるロールプレイ研修を企画するのも有効です。講師やロールプレイの配役は、数々の逆境を乗り越えてきた同分野のプロフェッショナルが行なうのが有効です。プロフェッショナルを育てることができるのは、プロフェッショナルだけだからです。皆さんの会社でもプロフェッショナルを育成するための修羅場体験型の研修プログラムを設計してはいかがでしょうか。