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「ボイコットではない」なぜサッカー北朝鮮代表はカタールW杯アジア2次予選への参加を辞退したのか?

金明昱スポーツライター
2022年カタールW杯アジア2次予選参加を辞退した北朝鮮代表(写真:ロイター/アフロ)

「韓国や日本の一部の報道では『ボイコット』と書かれていますが、そうではありません。理由がハッキリしているのは、新型コロナウイルスから選手たちを守るためです。韓国では感染者が減っておらず、リスクを負ってまで選手を派遣できないという判断なのでしょう」

 北朝鮮事情に詳しい消息筋の話だ。

 やはりサッカー北朝鮮代表が、6月に韓国で集中開催される2022年カタール・ワールドカップ(W杯)アジア2次予選参加を辞退したというニュースは本当だった。

 今回の報道は、朝鮮民主主義人民共和国サッカー協会(DPR KOREA FA)が4月30日にアジアサッカー連盟(AFC)に辞退の意向を伝える書類を送ったという事実を韓国メディアが報じて明らかになった。

 ただ、これは同国サッカー協会が下した決定ではなく、国の方針によるものなのだという。

「ご存知の通り、朝鮮は今夏開催予定の東京オリンピック(五輪)にも参加しないと発表していますが、その理由と同じです。残りの2次予選すべてが韓国で開催されるから、『ボイコット』したというわけではありません」

 北朝鮮の東京五輪不参加が明らかになったのは、北朝鮮体育省が運営するウェブサイト「朝鮮体育」が掲載した4月5日付の記事の中でのこと。

 北朝鮮のオリンピック委員会総会が、ビデオ会議方式で開かれたことを伝える内容の最後にこう書かれていた。

「朝鮮民主主義人民共和国のオリンピック委員会は、総会でコロナウイルス感染症による世界的な保健の危機から選手たちを保護するために委員の提案に基づいて、第32回オリンピック競技大会に参加しないことを討議決定した」

 つまり、東京五輪と今回のサッカー北朝鮮代表のW杯アジア2次予選への参加辞退は、同じ理由ということだ。

注目カード“南北戦”も実現せず

 さらに消息筋は「現在、北朝鮮ではすべての国際大会への参加をストップしている状況です。新型コロナウイルスの感染を防ぐためにも、サッカーだけ特別にというわけにはいきません」と話す。

 しかしながら、個人的には今回の決定が残念でならない。というのも北朝鮮代表は、アジア最終予選への進出の可能性を十分に残していたからだ。

 北朝鮮が属しているのはグループH。現在、トルクメニスタンが勝ち点9、韓国(消化が1試合少ない)、レバノン、北朝鮮が勝ち点8。スリランカが勝ち点0となっている。

 各グループ1位と各グループ2位の中の上位4チームが最終予選に進めるため、北朝鮮は残り3試合の結果によっては、首位通過の可能性もあった。

 それにソン・フンミン(トッテナム)、ファン・ヒチャン(ライプツィヒ)、ファン・ウィジョ(ボルドー)など欧州組がそろった韓国代表との“南北対決”は同グループ最大の注目カードだった。

 この試合を見たかったサッカーファンも多かっただけに残念な結果となってしまった。

 AFCが北朝鮮に対して再度、説得を試みるとのことだが、参加の可能性はほぼないと見ていいだろう。

 ちなみに北朝鮮が過去にサッカーW杯に出場したのは2度。1966年イングランドW杯でイタリアを1-0で下し準々決勝(ポルトガルに3-5で敗れる)に進出。アジア初のベスト8入りを果たした。

 2度目はW杯初出場から44年後の2010年南アフリカW杯。鄭大世(FC町田ゼルビア)や当時Jリーガーの安英学が出場したのも懐かしい記憶だ。

 3度目のW杯出場への可能性を残しながらも辞退に至った北朝鮮。選手のことを第一に考えれば、やむを得ない判断だったのかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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