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日本代表・姫野和樹、アイルランド代表相手にジャッカル決めた気持ちは?【ラグビーあの日の一問一答】

向風見也ラグビーライター
ランナーとしても躍動。写真左は尊敬するピーター・ラブスカフニ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 9月28日、静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムの日が落ちた頃。

 ラグビー日本代表の姫野和樹は、ラグビーワールドカップ日本大会のアイルランド代表戦に出場していた。

 相手は当時世界ランク2位と強敵。予選プール4戦を通し初の8強入りを目指す日本代表にとって、大きな壁だった。

 しかし、当時25歳で身長187センチ、体重108キロの戦士は強靭さで際立つ。球を持てばぐいと前進してトライをお膳立て。何よりあの決定的なワンプレーによって、勝利を一気に引き寄せた。

 後半24分頃。16―12とわずかにリードも、自陣ゴール前で防戦一方。攻めのフェーズは8を数えたところで、姫野が相手ランナーの持つ球へ腕を差し込む。

 絡みつく。

 離れない。

 接点で相手を絡み、奪う、ジャッカルと呼ばれるプレーだった。

 まもなくレフリーの笛が鳴り、アイルランド代表はノット・リリース・ザ・ボールという倒れた選手がボールを手放さない反則を犯してしまう。姫野のジャッカルが、ピンチを迎えた日本代表にペナルティーキックを与えたのだ。

 結局この日は、19―12で勝利。試合後のミックスゾーンは黒山の人だかり。その時、柵の向こうで殊勲の姫野は何を語ったのだろうか。協調したのは、大勝負に挑む心のありようについてだった。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――勝因は。

「チームの全員がアイルランド代表に勝つことを信じて、仲間を信じて、自分たちのやって来たことを信じてやり切れたことが勝利に繋がったと思います」

――あの、決定的なジャッカル、振り返ってください。

「チームの窮地を救いたい気持ちでがむしゃらにボールに絡んでいこうと。あの時間帯、あの流れのなかでジャッカルを決められたことは、かなりチームにとっても大きかったと思いますけど」

――その瞬間、笑顔が見られました。

「今日はこのプレッシャーを楽しめる余裕が試合前からありました。試合をしながらも、楽しいという笑顔がこみ上げていました」

 圧力を楽しむ。その境地に達した先に、決定的なジャッカルがあった。ここから質疑の内容は、それ以外の試合の場面に及んだ。

――前半に2トライを許しています。ただし雰囲気は悪くなっていなかった。

「まったくなっていないです。自分たちの形で(を崩されて)トライを取られたわけではないので、ネガティブになる必要はないとチームのなかでも話した。ディフェンスも機能していて、コンタクトでも食い込めていた。自信を持ってプレーできた」

――攻めてはまずボールを保持。結果、相手の反則が増えました。

「イメージ通りにボールキープをするなか、相手が我慢をしきれずにペナルティをすることが多くあったので、狙い通り。僕たちのプランニングがはまったと思います」

――接点でランナーを援護する選手が、相手の防御の動きを封じた。

「ブレイクダウン(接点)のところは鍵になると思っていたので、そこをうまくできたんじゃないかと」

 愛知の春日丘高校(当時名称)を経て、帝京大学入り。3年時にはワールドカップイングランド大会をテレビ観戦していた。日本代表が南アフリカ代表を34―32で破った歴史的な一戦を目の当たりにし、自らの日本代表入りを強く目指すようになった。

 2017年にはトヨタ自動車で新人ながら主将となり、同年、代表デビュー。自然な流れで有言実行を果たしたのである。

――歴史的3勝を挙げた4年前のイングランド大会はテレビ観戦。今回は自分がフィールドに立って歴史的勝利。

「素直に嬉しいですよ。4年前は悔しさもあって、必ず次の日本大会には…という明確な目標ができた。それを実際に達成し、アイルランド代表を倒して。今日は自分をほめてあげたいです」

――大会前、候補群のウルフパックでゲームキャプテンをやっていた時は苦しんでいた様子。

「まぁ、そうですね。苦しかった分、こういう勝利、最高の形に帰ってくる。苦しかったことも最高の思い出かなと思います」

――8強入りが見えてきたが。

「勝って兜の緒を締めていかないと。今日はしっかり喜んで、明日以降は次の試合に向けてメンタルチェンジをしていきたいです」

 その言葉通りチームは4勝。8強入りを果たした。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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