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テロのニュースが日常化してきた世界でノルウェーが続々と映画化される理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ政府庁舎前、映画撮影で爆破事件を再現 Photo:Asaki Abumi

「ノルウェーでは、テロがあったんですか?いつのことでしたっけ?最近はテロのニュースばかりで……」。

日本からのメディア関係者をノルウェー現地でコーディネートしていると、記者の方々がたまにそう口にする。

8月末、首都オスロにある政府庁舎周辺では、白い煙が立ち込めていた。パトカーや消防車が集まり、異様な光景が広がる。

ノルウェー国営放送局NRKが、番組制作のためにテロ当日の様子を再現していた。

動揺する通行人のために、スタッフが何人も配置され、映画だと説明する Photo: Asaki Abumi
動揺する通行人のために、スタッフが何人も配置され、映画だと説明する Photo: Asaki Abumi

今年、ノルウェーのテロを題材とする作品は3つ公開予定。来年はNRKによるシリーズも解禁される。

2011年7月22日。ノルウェー人男性、アンネシュ・ブレイビクにより、オスロ政府庁舎での爆破事件とウトヤ島銃乱射事件で、77人が命を奪われた。

ノルウェーのテロが、いまだに国際ニュースとなる理由はいくつかある。

犯罪者に対する、「優しすぎるのではないか」という刑務所制度。

「罪を犯した者にもやり直すチャンスを」という考え方。

ノルウェー現地では、「この日を忘れてはならない」という強い思いもある。

国境を越えて、他国でも作品化の動きが出るのは、外国人にとっては「ノルウェー人のテロ直後の対応」が特殊だったからだ。

「私たちは、憎しみに、憎しみで答えない」

「犯人の思い通りに、私たちは変わらない。犯人が否定した、今の社会と民主主義を維持する」

詳しくは、NEWSWEEK「連続テロから5年 復讐という選択肢を拒むノルウェー 遺族や生存者が当時の悲惨なSMSを公開」にて。

ノルウェーのテロは、すでに最初の1本が上映されている。

エリック・ポッペ監督によるノルウェー映画『U- July 22』は、今年の3月9日に解禁。全国紙アフテンポステンのスタンヘッレ編集長は、「72分間という、地獄への招待状だ」と評価した。

ほかにも、2本の作品が10月に公開予定。

ポール・グリーングラス監督による『22 JULY』はNetflixで公開。

隣国スウェーデンでは、Carl Javer監督によるドキュメンタリー『Reconstructing Utoya』が公開される。

来年には、ノルウェー国営放送局NRKによる、6エピソードでなるシリーズ『22.juli』(7月22日)も解禁予定。

現地だから作れる映画、外国人だから作れる映画

これらノルウェーテロ映画には、2パターンある。

1. ノルウェーの映画関係者が、テロ当日を体験し、背景や詳細をすでに把握しているノルウェー人観客に向けて作ったもの

  • 動揺し、精神的ショックを受けるであろう観客に向けての配慮も必要となる。
  • 未だに注目を集めようとするビレイビクの思い通りにならないように、ブレイビクを主人公にするような作り方を避ける。
  • 作品の主人公は、あくまでも犠牲となった若者。
  • 極右思想をさらに広めないためにも、ブレイビクを影の存在とさせようとする。
  • エリック・ポッペ監督の作品はこちらに属する(ブレイビクの姿はほぼ出ない)。一方で、背景を何も知らない他国の観客には、説明不足の部分もある。

2. ノルウェー国外の映画製作会社と監督が、ノルウェーテロのことをよく知らない国際市場の観客に向けて作ったもの

  • Netflixで公開される作品のように、ブレイビクにも大きな注目をあてる。
  • ノルウェー人監督やノルウェーのメディアであれば、犠牲者の家族や生存者の思いを配慮しすぎて、できなかったであろう作り方をする。

国際市場向けの映画は、どうしてもノルウェー国内の人にとっては、刺激的で動揺させるものとなる。

Netflixでの予告はすでに解禁されたが、事件の関係者からは、「過激すぎる」と批判も出た。

ノルウェー人俳優アンデルシュ・ダニエルセン・リーが演じるブレイビクが、「顔を出して」登場し、犯人の「人間性」が描写されているからだ。

ノルウェーでは、「犯罪者に必要以上の注目を浴びさせてはいけない」、「極右思想が広まる」と警戒する考えが根強い。

しかし、同時にそれは、「事件を忘れてはならない」と主張するノルウェーで、「なぜ彼のような人が、この社会で生まれたのか」という議論をしにくくしている。

作品が批判を浴びる背景には、Netflixでの公開はコントロールがきかず、事件の関係者は、嫌でもどこかで予告や映像を見てしまうかもしれないことも関係している。

オスロ現地で撮影した際に、関係者への連絡が十分ではなかったこともある。撮影当日、市庁舎周辺では爆破事件が再現され、一部のオスロ市民を動揺させた。その点では、ノルウェー国営放送局の現場撮影は、十分な連絡があったと評価されている。

今年8月のNRKによる撮影 Photo: Asaki Abumi
今年8月のNRKによる撮影 Photo: Asaki Abumi

少しでも理解するために、ブレイビクに面会しようとした俳優

俳優アンデルシュ・ダニエルセン・リー氏は、理解が不可能なブレイビクを演じるために、ブレイビク自身に面会も求めたと、ダーグスアヴィーセン現地紙に語る。

面会は叶わなかったようだが、70時間に及ぶ警察による事情聴取の録音を聞き、法廷でのやり取りや精神鑑定書などに目を通して、ブレイビクを演じた。

ブレイビクが「普通の人間」であったことも描写する映画は、ブレイビクを神話化させてしまうリスクが指摘されている。

それでも、演じたリー氏は、現地新聞社にこう語る。

彼が怪物であったと、誰もが信じたいのでしょう。普通の人間に、こんなにも残酷なことができると考えるだけで、不快だから。

けれど、思想の過激化は、まったく普通の人にも、恐ろしい行為を起こさせるのです。

このプロセスがどうなっているのかを、私たちは知る必要があると思います。映画のストーリーは重要で、できるだけ多くの人に届く必要があります。

出典:Dagsavisen

グリーングラス監督は、「極右の波が世界に広がる今、ノルウェーがどのように民主主義を守ろうとしているのか」ということが、映画をつくる上で重要だったと何度か語っている。

Netflixで作品が公開される頃には、また議論が再燃するだろう。

別記事

「「銃弾がお前に当たればよかったのに」脅迫を受けるノルウェーテロ生存者の今、ネットで生きる犯人の思想」

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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