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バルサの「デンベレ問題」と泥沼化の裏側。世界の勢力図とエムバペの移籍事情。

森田泰史スポーツライター
ジョルディ・アルバとデンベレ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

終わりの時が、近づいているのかもしれない。

目下、注目を集めているのがウスマン・デンベレとバルセロナの契約延長問題だ。現行契約は2022年夏まで。だが現時点で契約更新は行われておらず、このままならデンベレは次の夏にフリーの選手になる。

戦況を見守るシャビ監督
戦況を見守るシャビ監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

「デンベレは状況を理解している。すべては彼次第だ」とはシャビ・エルナンデス監督の弁である。

バルセロナは、およそ6ヶ月にわたり、デンベレまたムサ・シソコ代理人と交渉を続けてきた。現在、デンベレの年俸は1000万ユーロ(約13億円)だと言われている。デンベレ側は年俸アップを希望しているようだが、サラリーキャップに問題を抱えるバルセロナとしては、それは無理な注文だ。

デンベレは2017年夏にバルセロナに加入。度重なる負傷に苦しめられながら、これまで101試合に出場。全体の44.1%を欠場している。このような状況で、デンベレの契約延長をするかと問われたら、その答えは「ノー」だろう。

■高額な移籍金

そもそも、なぜデンベレの契約延長問題がこれほどの騒ぎになってしまったのだろうか。デンベレは移籍金1億500万ユーロ(約131億円)でバルセロナに移籍した。ネイマールの代役として、期待されていた。しかし、期待が高かっただけに、契約延長するか否かは大きな争点になった。

そう、彼は高額な移籍金で加入した選手だ。クラブとしては、将来的な「回収」を考えるのは当然だろう。当時、20歳だったデンベレの獲得は、そういう意味でも理にかなったものだった。

ただ、その観点で言えば、バルセロナは「売り時」を見誤った。契約期間が残り半年となり、選手は他クラブとの自由交渉が可能になる。あとはデンベレがオファーに提示された年俸額を見て、移籍先を定めるだけだ。

バルセロナ加入時のネイマール
バルセロナ加入時のネイマール写真:なかしまだいすけ/アフロ

デンベレは「守銭奴」だと非難されるかもしれない。だが、より良い条件のところに行く。これは一人のプロとしては当たり前の話だ。パンデミックの襲来で、各クラブは財政に打撃を受けた。フリートランスファーで獲得できる選手というのは、マーケットの情況からして絶好の機会である。移籍金ゼロ、その代わりに選手に高年俸を準備して迎えることができるのだ。そして、そういったシチュエーションを利用して、ボーナスや手数料を発生させようと目論む代理人や家族がいる。

■ビジネスシーンと国家クラブ

その点で、巧みに動いているのが、ミーノ・ライオラ代理人だろう。アーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)の代理人を務めるライオラだが、最近、ここぞとばかりに積極的に活動している。

彼が、ハーランドを使いながら自身と抱える選手の価値を高めようとしているのは明らかだ。昨年4月には、ハーランドの移籍を匂わせながらスペインやイギリスに赴き、欧州を飛び回った。最終的にはハーランドのドルトムント残留が決まったが、一方でこの夏にはジャンルイジ・ドンナルンマをパリ・サンジェルマンに捻じ込んでおり、確実に仕事を果たしている。

ハーランドの代理人を務めるライオラ
ハーランドの代理人を務めるライオラ写真:ロイター/アフロ

2021年には、トータルで4億5000万ユーロ(約584億円)が代理人の手数料が発生した。これに関しては、FIFAが規制をかけようと動き始めている。

しかし、フットボールは、ある種のビジネスだ。

前述した通り、全体的にはコロナ禍で経済的なダメージがあった。一方で、パリ・サンジェルマンやマンチェスター・シティといった「国家クラブ」や大富豪がオーナーを務めるチェルシーのようなクラブは、依然として強さを発揮している。

シティの移籍金1億1700万ユーロでのジャック・グリーリッシュ獲得、チェルシーの移籍金1億1500万ユーロでのロメル・ルカク獲得からも、それは自明だ。

エムバペとデンベレ
エムバペとデンベレ写真:ロイター/アフロ

現状、国家クラブあるいは金満クラブとの戦いは避けられない。キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)をめぐっては、レアル・マドリーとパリSGが激しいバトルを繰り広げている。資金面では厚い待遇が可能なパリSGだが、エムバペを完全に満足させるには至っていない。それ以上に、レアル・マドリーのブランド力が、チャンピオンズリーグ13回優勝という歴史と実績が、エムバペの心を掴んでいる。

パリSGが、2017年夏にバルセロナからネイマールを獲得した際、周囲は衝撃を受けた。契約解除金2億2200万ユーロが支払われての移籍成立は、世間を震撼させた。新興勢力が、欧州の覇権を握ってきたチームを、飲み込もうとしていた。

ゴールを喜ぶエムバペとネイマール
ゴールを喜ぶエムバペとネイマール写真:ロイター/アフロ

ある意味で、そのカウンターが、炸裂しようとしている。

パリはバルセロナからネイマールを獲得した。伝統あるクラブから、資金力で、主力を引き抜けると証明した。マドリーがエムバペを引き抜いた場合、ブランド力で国家クラブを上回ると証明することになる。その裏で、ネイマールの代役としてバルセロナに加入したデンベレが、フリーで移籍しようとしている。

バルセロナは今冬の移籍市場でフィリペ・コウチーニョもアストン・ヴィラにレンタル放出しており、アントワーヌ・グリーズマンに関しても夏の段階でアトレティコ ・マドリーへの復帰が決まっている。ネイマールの代役が、一人残らず、去っていく運びだ。

デンベレの契約延長問題は泥沼化している。だが本質は、クラブと選手の意見の相違でもなければ、資金が課題という話でもない。世界の勢力図と構造の欠陥を正確に見抜かない限り、真の問題解決は夢物語だ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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