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豊島将之名人(29)が初の竜王挑戦に向けて前進 藤井聡太七段(17)に決勝トーナメント準々決勝で勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 7月23日(火)。関西将棋会館において竜王戦決勝トーナメント準々決勝▲藤井聡太七段-△豊島将之名人戦がおこなわれました。結果は22時48分、146手で豊島名人の勝ちとなりました。

 豊島名人は、初の竜王挑戦に向けて、大きく前進しました。

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 準決勝のカードは以下の通りです。

 渡辺 明三冠(1組優勝)-豊島将之名人(1組4位)

 永瀬拓矢叡王(1組2位)-木村一基九段(1組3位)

名人が貫禄を示す

 現棋界のトップ棋士の一人であり、名人と王位を併せ持つ豊島二冠に、次代の王者と目され、初タイトルの期待がかかる藤井七段が挑む。その構図から本局は、本年度屈指の注目局だったと言っても、過言ではないでしょう。

 両者は過去に何度か対局をしています。

 公式戦では2局。2017年には棋王戦本戦で当たり、豊島現名人が完勝を収めています。また本局が指される以前にテレビ棋戦の銀河戦の収録がおこなわれ、そこでも豊島名人の勝ちとなりました。偶然ながらその対局の模様は、本局がおこなわれていた当日の昼に放映されました。

 一方で、最近の非公式戦では2018年12月、豊島将之二冠(当時)と藤井聡太新人王という立場で、新人王戦の記念対局がおこなわれています。そこでは藤井新人王の勝ちでした。

 本局。先手番を得たのは藤井七段でした。将棋は先手番の勝率がわずかに高い。現代の将棋界では、特にトップクラスでは、その差が顕著にあらわれる場合があります。

 戦形は両者ともに得意な角換わり腰掛銀となります。最初に駒がぶつかってから、すぐには決戦にはならず、高度な間合いのはかり合いが続きました。

 夕食休憩の後、藤井七段が動いて、本格的な戦いが始まります。機敏な動きでリードを得られそうにも見えましたが、豊島名人も強く応酬して、均衡のとれた中終盤が続いていきました。

 難解な最終盤。藤井七段は残り時間を使い切るまで、読みにふけります。そして当たりになっている一段目の飛車を三段目に浮いて、受けに利かせました。しかし、その手が失着だったようです。

 対して、そこからの豊島名人の判断は正確無比でした。強く飛車を切り捨てて、勝ちと読みました。

 藤井七段は自玉を王手で追われます。そして一瞬、肩ががくっと落ちる場面がありました。藤井七段は盤の中央、天王山の5五の地点まで玉を進めます。

 豊島名人は上下左右から藤井玉を追い詰め、きれいに藤井玉を詰め上げました。

 名人の貫禄勝ち。まず本局は、そう評価されるべきでしょうか。

 改めて、トーナメント表を見てみましょう。

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 次戦の渡辺明三冠戦は、1勝3敗で敗れて失冠となった、棋聖戦五番勝負のリベンジマッチとも言えるでしょうか。竜王戦1組ランキング戦でも両者は当たり、渡辺現三冠が勝っています。

 各棋戦で多くの実績を残している豊島名人ですが、竜王戦七番勝負にはまだ登場したことがありません。広瀬章人竜王(32歳)への挑戦が決まれば、これも頂上決戦と呼ぶにふさわしいシリーズとなりそうです。

 豊島名人は本局の後も、休む暇はほとんどありません。2日後の7月25日には王座戦挑戦者決定戦で永瀬拓矢叡王と対戦します。

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 さらに30日・31日には王位戦七番勝負第2局。王位の立場で、木村一基九段を相手に防衛戦を戦います。ハードスケジュールはトップ棋士の宿命ですが、この先、大きな舞台での対局がさらに増える可能性は高そうです。

藤井七段がタイトル挑戦を逃したという見方

 藤井七段は7月19日に誕生日を迎えて、17歳になったばかり。高校2年生で、ちょうど夏休みに入ったところでもあります。高校生という枠を飛び越えて、これだけの活躍をしている十代の少年は、他の世界でもなかなか見られないかもしれません。

 藤井七段は6組、5組、4組と3年連続で優勝し、3年連続で竜王戦決勝トーナメントに進出。今期は過去最高の2勝をあげ、最も高い位置まで勝ち進みながらも、敗退となりました。

 竜王戦本戦は季節柄、高校野球の大舞台である、夏の甲子園に喩えられることがあります。そして注目の新人がいいところまで勝ち上がりながら、強豪を相手に敗れた際には、「夏は終わった」と言われることもあります。

 藤井七段ももちろんこの先、重要な対局は続いていきます。しかしタイトル挑戦まであともう少しという状況から、当面は遠ざかることになったとは言えるでしょう。

 さて本局は、メディアではどう伝えられているでしょうか。ニュースのヘッドラインを追ってみましょう。

藤井七段、豊島二冠に敗れる…竜王戦準々決勝(読売新聞)

https://www.yomiuri.co.jp/igoshougi/ryuoh/20190723-OYT1T50283/

藤井七段、豊島二冠に惜敗 将棋の竜王戦決勝T(共同通信)

https://this.kiji.is/526400097783055457

藤井七段、竜王挑戦ならず 豊島名人に敗れる(朝日新聞)

https://www.asahi.com/articles/ASM7L01X4M7KPTFC01V.html

竜王戦、藤井七段敗れ年内のタイトル獲得はなくなる(毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20190723/k00/00m/040/423000c

藤井聡太七段が竜王戦敗退…年内のタイトル挑戦は消滅「今の実力では足りない」(スポーツ報知)

https://hochi.news/articles/20190723-OHT1T50326.html

藤井七段 今年中のタイトル獲得は消滅 竜王戦決勝T準々決勝で豊島2冠に敗れる(スポニチ)

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2019/07/23/kiji/20190723s000413F2419000c.html

藤井聡太七段、最年少タイトル挑戦はおあずけ「まだ力が足りない」 豊島将之名人に敗れる/将棋・竜王戦決勝T(AbemaTimes)

https://abematimes.com/posts/7011952

 主語は藤井七段。準々決勝という位置ながら、藤井七段が敗れてタイトル初挑戦を逃した。そうした視点での報道がほとんどのようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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