東急電鉄は「鉄道分社化」で何を目指すのか?
東急電鉄は、鉄道事業を子会社として分社化し、不動産事業とグループ全体の管理部門、その他いま東急電鉄が行っている事業を本社に残すと発表した。
確かに東急電鉄の鉄道事業は、グループ全体の売上高の13.6%と比率としては高くはない。不動産事業や小売事業の売上のほうが、グループ全体としては高いのである。
鉄道部門分社化のメリット・デメリット
鉄道事業を分社化するメリットとして、会社全体での収益性の割合が低い鉄道事業の採算を独立させることで、コスト意識が明確になる。また、これは東急側の説明ではあるが、鉄道事業を分社化させることで、世の中の変化にスピーディーに対応することができるというものである。鉄道の混雑緩和や、24時間365日体制で働いている従業員の勤務体系の改善など、鉄道会社ならではの課題に、迅速に取り組めるということもいえる。
デメリットとしては、基幹事業である鉄道を子会社化するということで、鉄道会社が持っている高いブランド力や信頼性を失うということである。この国では鉄道会社に対する信頼性は高く、紀州鉄道(本社は東京)のように不動産会社が鉄道会社を買収しその会社の名前を名乗るというケースもある。
東急電鉄は社名変更を検討しており、信頼性やブランド力は子会社の鉄道会社に移ってしまうことも考えられる。
野本弘文会長は、おもに不動産や都市計画の仕事をしてきた人物であり、鉄道事業部門の人物ではない。高橋和夫社長は、バス事業や管理部門の仕事でキャリアを積んできた人物である。さまざまな部門の人が、現在の東急電鉄を構成している。
現実のところ、東急電鉄は鉄道事業だけではなく、沿線開発事業などを中心に多角経営を行い、その管理・運営もしているという会社である。
東急本社は「沿線プロデュース会社」を目指すのか
東急電鉄から基幹事業である鉄道事業が離れ、子会社化される。その後に残るのは管理部門と不動産開発部門である。といっても、東急グループには東急不動産という会社があり、本体としてやるべきことは、グループ全体の方向性を考えることである。
となると、あたらしい「東急本社」は、「沿線プロデュース会社」を目指すということになるのだろう。東急沿線全体を一つの「商品」とし、沿線住民対象にビジネスを行っていくという形態の企業になっていくことが考えられる。
そもそも東急電鉄は、渋沢栄一によってつくられた「田園都市株式会社」という住宅地開発会社から始まった企業である。田園調布エリアの住宅開発事業を中心とし、子会社として目黒蒲田電鉄がつくられた。その社長となったのが、五島慶太である。田園都市株式会社は目黒蒲田電鉄に吸収合併され、東京横浜電鉄とも合併し、現在の東急の源流になっていった。
東急グループ最大のプロジェクトは、多摩田園都市の開発である。東急田園都市線の建設と地域の不動産・商業施設の開発は、沿線開発の模範例である。
今後、東急グループの中核となる「東急本社」は、「選ばれる沿線」をプロデュースし、私鉄間の競争に勝つための戦略を考える会社を目指すことが予測できる。