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「Suica経済圏」をつくるのに本当に必要なことは? JR東日本の「中長期ビジネス成長戦略」の課題

小林拓矢フリーライター
JR東日本の各駅でSuicaが使えるようになるのはいつの日か?(写真:イメージマート)

 JR東日本は、どこに向かうのか――。相次ぐトラブル、「みどりの窓口」閉鎖をめぐる右往左往、コロナ禍終了後にひどくなる混雑など、同社をめぐる課題は山積みだ。

 現在、JR東日本は「変革2027」という経営ビジョンのもと、企業活動を行っている。2018年7月に発表されたこの経営ビジョンでは、鉄道事業よりも生活・サービス事業に軸足を移すことを示し、企業を繁栄させていくことをめざした。鉄道は、都市鉄道を中心としていくことにした。

 しかし、目算は外れていく。コロナ禍だ。「緊急事態宣言」の間は、鉄道利用者がきれいさっぱりいなくなった。終電も繰り上げられた。鉄道事業はのびないことを前提にしながらも、一気に衰弱していくところにJR東日本は危機感をかき立てられることになった。

 私鉄が「巣ごもり需要」ということでスーパーなどの売り上げをのばす中、このあたりが弱い、鉄道依存度の高いJR東日本は苦しんだ。

 固定費を削減すべく「みどりの窓口」の閉鎖などを実施していったものの、「えきねっと」と指定席券売機への移行はうまくいかず、利用者の反発を受けている状態だ。通勤電車の本数削減でも反発は大きい。

 だがこれは、将来減少していくであろう鉄道利用者に対して、つい先走って対応してしまったところとも考えられる。

 いずれ対応しなければならない状態が、なぜかやってきてしまった、というのがJR東日本の置かれた状況である。

事業多角化の中核にSuica

 いま、JR東日本がもっとも力を入れているのは、Suicaだ。鉄道事業と、生活サービス事業の中心に位置するのが交通系ICカードとなっており、そこに力を入れることで生き残りをかけようとしている。

 先日、JR東日本は中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」を発表した。JR東日本がこれまで強みとしてきた鉄道事業と生活サービス事業のネットワークを、Suicaの進化でグループの枠を乗り越えさせて、ビジネスを飛躍的に拡大したいとしている。

 現在は移動や決済のための道具であるSuicaを、生活のために必要なものにしていくことをめざす。まずは2027年度までに、「えきねっと」や「モバイルSuica」などのIDを統合し、シームレスに利用できるようにする。2028年度には「Suicaアプリ(仮称)」をリリースし、新幹線の予約や定期券だけではなく、生活の大部分をSuicaで対応できるようにする。

IDを統合してSuicaをサービスの中心とする(JR東日本プレスリリースより)
IDを統合してSuicaをサービスの中心とする(JR東日本プレスリリースより)

 そのことで2033年度には、「Suica経済圏」を創出した上で生活ソリューション事業の売り上げや利益を2023年度比の2倍にすることをめざす。

 日本のキャッシュレスの中心から、生活の中心へと進化させたいという意志がある。

Suicaに多様な機能を持たせる(JR東日本プレスリリースより)
Suicaに多様な機能を持たせる(JR東日本プレスリリースより)

「Suica経済圏」はうまくいくのか

「Suica経済圏」をつくるには、やらなければならないことが多々ある。

 まずはJR東日本の全線全駅でSuicaを使えるようにすることであり、各駅のあらゆるサービスでSuicaによる決済ができることが必要になってくる。現在でもなお、Suicaが使えない駅が地方には結構ある。

 Suicaは、エリアごとの制限があり、エリアをまたいだ利用ができないようになっている。現在では改札機の中で計算しており、あまりにも広大な範囲だと対応できないようになっている。今後クラウド化することで、センターサーバーで計算することができるようになり、長距離の利用でも計算が可能になってくる。

 同時に、JR東日本と関係の深い第三セクターでも、交通系ICカードを使えるようにする必要がある。IGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道など、新幹線の並行在来線の第三セクターでは、使えるようにすべきだ。しなの鉄道はSuica導入の方針だという。

 都市部での交通系ICカードの広がりはめざましいものがあったが、地方ではまだまだである。JR東日本とその周辺できっちりと交通系ICカードが使えるようにする、というのが課題ではないだろうか。そうでない限り、生活の中心にSuicaを置くことはできない。

 また、他地域でも交通系ICカードをもっと使えるようにすることが大事だ。熊本市のバスや鉄道が交通系IC利用を終了し、クレジットカードのタッチ決済に移行するという話がある。機器更新の費用負担が大きいことが問題だ。

 ほかのJRや私鉄各社とも協力し、交通系ICカードをもっと普及させることに力を入れるべきだ。JR東日本がSuicaを事業活動の中心に置くという戦略を採用するなら、ほかの鉄道にも交通系ICカードを事業活動の中心に置くことを求め、そのための人材・金銭の援助をするのが妥当だろう。クレジットカードのタッチ決済に負ける、ということもありうるのだ。

 Suica関連は高コストだという問題がある。しかし高性能であることは誰もが認める。それゆえに、「Suica経済圏」を本気でつくるなら惜しみなくさまざまなものを投入するしかない。人もカネもあるJR東日本の、投資のしどころである。ここで頑張れば日本中を変えることができるのだ。「Suica経済圏」づくりと現在の課題解決と、2つに向き合う必要がある。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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