島野製作所対アップルの裁判で何が起きたのかを推理する
島野製作所が特許侵害でアップルを訴えていた訴訟の判決が3月17日に東京地裁で行なわれ島野側敗訴となったようです。島野製作所のプレスリリースでは、島野の請求が棄却されたこと、および、今後の対応を弁護士と協議中であるということのみが書かれており詳細はわかりません。
一般メディアの記事も何件か出ていますが、詳細は不明です。時事通信によれば「地裁が判決文に閲覧制限をかけたため、判決理由などは明らかになっていない」、産経新聞によれば、「判決理由は関係者の意向で明らかにされていない」とのことです。
しかし、朝日新聞の記事「アップル勝訴、下請け会社の特許侵害請求棄却 東京地裁」には、
という重要な情報が書かれています。これから特許法の共同出願の規定が争点になっていたことが推測されます。
つまり、共同で発明をした時には、特許を受ける権利を一方に譲渡する契約を別途結んでいない限り、共同で出願する必要があるということです。この規定に違反すると特許が無効にされ得ます。当然ですが特許が無効と判断されれば侵害訴訟は原告敗訴となります。
もし、これが争点であったならば、特許発明の新規性・進歩性等とは関係なしに、アップルは単に指示しただけでアイデアは島野が考え出したのか、それとも、アップルも具体的アイデアを出していたのかが争われることになります。裁判証拠はメールのやり取りや会議議事録等、内部資料満載になるでしょうから、裁判記録に閲覧制限がかかることも頷けます(営業秘密部分を黒塗りした上で判決文が公開されるとしても結構時間がかかると思います)。
もちろん、これ以外の争点があったことも考えられますが、現段階で公開されている情報からではわかりません。
なお、島野側の特許(第5449597号)に関してはアップルにより無効審判が請求されており、2月18日に審決予告(内容不明)が送達されていることがわかっています。これが判決に関係している可能性もあります。通常は、特許庁に行って料金を払えば、審判記録を閲覧できる(審決はネットでも閲覧可)のですが、これも「営業秘密が記載された旨の申し出があったものについては、当事者又は利害関係を疎明した者に限って閲覧が許可される」規定になっていますので、閲覧が許可されない可能性が高いと思います。
何回も書いていますが、米国であればPACER(Public Access to Court Electronic Records)というサービスで原則的に全米のあらゆる裁判記録をネットで検索できるので、日米の裁判情報の公開レベルの差はもう少しどうにからないものかと思います。
なお、これとは別に独占禁止法関連でリベート支払等に関する損害賠償請求の裁判も行なわれており(参照プレスリリース)、こちらはまだどうなるかわかりません(なお、2月に日本で審理を行なうとの中間判決が出された(参照記事)のはこちらの独禁法裁判の方です)。
追記(2016/04/03):判決文が(一部省略の上)裁判所のサイトで公開されましたので裁判の内容が明らかになりました。共同出願違反は争点にはなっていたのですが島野敗訴の直接的理由ではありませんでした。ということで、本稿での「推理」ははずれたことになります。アップデート記事はこちらをご参照ください。