【河内長野市】大晦日だから成仏を考える。観心寺がノーベル化学賞直弟子など専門家の協力で小冊子を発行
今年もあと18時間を切りましたね。いつもと同じ1日のはずなのに、大晦日ということで、年越しのための最終準備を行ってから紅白などのテレビを見ながら年越しそばを食べる。そして除夜の鐘が鳴り新年を迎えることになります。河内長野で除夜の鐘情報を先日紹介しましたが、そのなかで代表的な寺院のひとつ、観心寺が12月18日に新しい小冊子「心の先を知るともっと楽になる」を発行しました。
観心寺が仏教の教えをわかりやすく伝える小冊子発行というだけでは別に驚きませんが、今回の小冊子は真言宗の教えだけではなく、各分野の専門家が座談会を行って作られたものです。そしてその中には、意外な人物が含まれていました。その方は日本生まれのアメリカ人物理学者、トミオ・ペトロスキー氏(以下、ペトロスキー先生)です。
ペトロスキー先生は、1979年に東京理科大学理学研究科で博士号取得してから、なんとノーベル化学賞を1977年に受賞したイリヤ・プリゴジン教授に師事します。そしてペトロスキー先生は直弟子として2003年にプリゴジン教授が他界するまで、ともに研究を行い、共著論文や単独の論文を多数出しました。
現在のペトロスキー先生はアメリカのテキサス大学上席研究員であり、日本でも複数の研究機関で客員教授、特任教授、研究顧問を行なっており、その分野では権威ともいえる先生です。その一方で、Quora(外部リンク)のアカウントを持っており、いろんな立場の人とネットを介して気さくにやり取りをしている先生なのです。
そんな物理学の専門家であるペトロスキー先生が観心寺の小冊子作成のための座談会に参加したのは、人づての紹介があったからなのですが、それ以上にそもそも物理学の専門家が、なぜ真言宗の仏教の小冊子の座談会に参加しようと思ったのかとても気になりました。
観心寺では毎月18日を観音菩薩の日としており、4月17・18日の秘仏御開帳以外でも毎月18日には永島全教住職により法話が行われます。
その法話の中でも12月18日は国の重要文化財に指定されている大随求菩薩(だいずいくぼさつ)の仏画を前に今年の大懺悔を行ない、その後が小冊子の発表会があるとのこと。そのため、今回私も大懺悔にも参加しました。場所は中院(境内にある観心寺子院)で、画像の中院門をくぐるのは初めてです。
こちらが中院です。中院は観心寺の子院のひとつ。楠木氏の菩提寺があったとされ、楠木正成が学問を修めた所という伝承があります。
私が行った開始10分前、中院の中にはすでに人が集まっていました。法話は観心寺の入山料を払えば、無料で参加できます。平日でしたが、女性を中心に多くの人が集まっていました。
開始時間になり、永島住職が登場しました。
このかけ軸は、河内長野市文化課(外部リンク)によれば、国の重要文化財「絹本著色大随求像」として指定されています。鎌倉時代の作とされ、大きさは、縦133.3センチメートル、108.2センチメートルあります。普段は公開されることなく、12月18日の大懺悔の時と4月17日、18日の本尊御開帳の時しか公開されないそうです。
永島住職が絵馬の紹介をします。絵馬は表裏で書けるようになっていて、表がピンクで如意輪観音となっていて、そこで願い事を書き、裏が青で大随求菩薩になっていてそこに反省点を書くようになっています。ところが、願い事はかけても反省点を書いている人が少ないとのこと。
永島住職の話では、すぐには出ない反省点を吐き出す方法として、腹式呼吸で整えてから、大随求菩薩の真言を唱えることで悪いものを吐き出して反省点を出す「大懺悔」ができるとのこと。ここからは、他の出席者と一緒に実践しました。
こちらの真言を108回唱えました。つまり煩悩の数です。永島住職は数珠を使って回数を数えたとのこと。
こうして、体の中から悪いものを出し心の掃除をしたうえで、願いごとを考えれば良いとのことですが、永島住職によれば自分で決めずに、仏にゆだねた方が良いと言われました。
そして大懺悔の後は、いよいよ観心寺が発行した小冊子「心の先を知るともっと楽になる(500円)」の発表会です。
ペトロスキー先生をはじめ、内科医、修験道、浄土宗、ヨーガ療法士、そして真言宗を代表して永島住職が対談を行ったものが小冊子にまとめられています。そしてこの日は、小冊子の座談会に出席した各分野の専門家も大懺悔の席に来ていました。
この中にはペトロスキー先生の姿もありました。物理学と仏教という一見相反する立場と思ってしまいますが、先生は学問の世界を突き詰めると、仏教の極楽や僧侶の世界と同じという考えに至ったとのこと。僧の頭の中を覗いてみたいといわれました。
ちなみに、ペトロスキー先生に河内長野の印象を聞いてみました。先生は「大阪の大学で教鞭をとった時に、長野から来たという学生が多かったことがあったそうで、へえ、大阪にも長野が」ということで河内長野を知ったそうです。
そして自然と歴史がある河内長野に対してとても好意的でした。
ペトロスキー先生が考える成仏について、この小冊子に書かれています。物理学からみた成仏、未知の世界の影響について、数学をもとに理論を解く物理学でも自然や宗教観が大きな影響を与えたとのこと。なお小冊子では、各対談者に対して永島住職からのメッセージがついています。
三軒龍昌(さんげん りゅうしょう)さん(内科医・高野山真言宗僧侶)です。永島住職によれば観心寺の弟子で、高野山専修学院に入ってトップの成績を得たのち、金沢医科大学に進み医者を志しました。内科医と僧の二足のわらじで、現在は千代田台町にある水野クリニック(外部リンク)にも週1回勤務して、主に訪問診療を担当しているそうです。
三軒さんが考える成仏は、医療の立場として生死の場面に立ち会い、あくまで死はひとつの通過点であること、そして正しい供養が必要と言ったことが書かれています。
有安弘靖さん(修験道・宝龍院住職)です。永島住職とは高野山専修学院の同級生で30年以上の付き合いがあるとのこと。なお、宝龍院は岡山市北区にあり、修験道総本山五流尊瀧院の末寺です。
有安さんが考える成仏とは、生を受けた人が今いる場所や与えられた力に感謝し成長する場とのこと。先祖や神仏が伝えようとしている気持を想像して、その想いに応える生き方が正しい供養であるといいます。
倉橋陽子さん(ヨガ療法士・ヨガ行者)です。河内長野の山の上のヨーガ教室(外部リンク)を少人数制で行っているとのことで、ヨーガ行者として24年のキャリアがあるそうです。ヨーガ行者以外にも河内長野市森林プラン実行委員など、幅広い活躍をしている方です。
倉橋さんが考える成仏は、宇宙や地球の歴史(46億年)の旅路の中で誕生した生命が現在まで続いている流れがあり、それと同化することであるといいます。
そして、残念ながら当日は欠席された加島裕和さんは、浄土宗・如意輪寺の副住職です。永島住職とは楠木氏ゆかりの寺という共通点で知り合ったとのこと。加島さんが考える成仏とは「悩むことは考えることで、考え続けることを大事に、悩み迷うことを避けずに向き合って欲しい」とのメッセージを残しました。
最後は永島住職が考える成仏です。成仏はすべての命が目指す目標であり本来あるべき姿であるとのこと。
今回の対談の内容の一部を記載しました。小冊子では各対談者がもっと詳しく成仏に対する考え方を述べています。気になる方、詳しく知りたい方は観心寺から小冊子を求めてください。
こちらは小冊子の裏側です。観心寺の説明と本尊の如意輪観音が描かれています。そして小冊子の中には、如意輪観音姿に隠された伝えたい想いについての記載があります。
小冊子の終わりの方には、ワークシートがついています。読むだけで理解したつもりであってもすぐに忘れてしまうので、実際に考えながら書くことでより理解力が深まるという狙いがあります。
後日、ペトロスキー先生が私にひとつの論文をメールで送ってくださいました。「物理学における一神教と多神教のぶつかり合い存在する世界なのか変化する世界なのか」というタイトルで、かなり難しい内容でしたが、わかりやすい例えがあったおかげでどうにか私でも理解できました。
大まかな内容をざっくりと書けば、西洋の物理学者の根底として、信仰している一神教(キリスト教など)があります。神が万物を創造をしたという前提で物事を考え、ニュートンをはじめとする様々な物理学者が法則を導き出すのですが、多神教(神道、仏教)である日本人との考え方に違いがあるといいます。
そして物理学の中に熱力学というものがあり、その学問を突き詰めると一神教と馴染まず学者の中で様々な議論があったところ、ペトロスキー先生の師匠であるプリゴジン教授が散逸構造(さんいつこうぞう)という新しい概念を導き出したとのこと。
散逸構造と言われてもピンときませんが、ひとつの例としてガスコンロの炎が一見同じように見えても実際には次々とガスが送り込まれている(常に別のエネルギー)だから実際には別物であるという考えを提唱したそうです。その結果、プリゴジン教授のノーベル賞受賞につながりました。
論文の最後にあるのはどちらか読んでも同じになる回文です。数年前の大晦日に田んぼの脇のお宮で篝火を焚いているところの情景を見ながら詠んだ短歌とのこと。
論文を読んで感じたことですが、ペトロスキー先生が数学や論理的な考えが支配する物理学の権威でありながら、そこに論理的には説明のつかない神仏の何かを感じ取られた。そしてご縁があり観心寺とつながって、今回の小冊子に物理学者の立場から「成仏」という概念に対してメッセージを残されたんだと思いました。
参考までに、AI(ChatGPT 4o mini)に「物理学者が仏教の成仏を考えることについてどう思いますか?」と質問をしたところ、以下の回答をいただきました。
観心寺では本日23:30頃から除夜の鐘を撞くことができます。鐘を撞いた先着600名に滅罪生善のカードが配布されます。
また、22:00~25:00(1:00)まで、旧松中亭離れカフェ「茶屋恕意(JOY)」で、苺屋つむぎさんによる年越し苺の販売があるとのこと、観心寺での年越しは車がないとなかなか難しいですが、新しい年を迎える場所にはとてもふさわしいですね。
さて、観心寺では2月26日から2か月間クラウドファンディングを行う予定とのこと。
空海が観心寺に北斗七星を勧請(かんじょう:神仏の来臨を願う)したとされ、その巡礼道があるのですが、大雨で道の状態が悪くなったので、多くの人が安全に巡礼できるようにするために、その整備に使うそうです。
このクラウドファンディングではいろいろなコースがあり、あらゆる特典があるそうなので、興味があれば検討してみてはいかがでしょう。
観心寺で連想するものといえば、中世の武将楠木正成ゆかりの寺院として大楠公像や建掛堂、楠公首塚、さらに南朝の後村上天皇陵があります。また寺の一部を改装して作られた観心寺KURIの人気精進料理、寺の前で週末に営業する菊水きりいしや阿修羅窟、さらに観心寺バス停近くにある旧松中亭やJOYの存在も目が離せません。
しかし、観心寺は本来高野山真言宗の仏教寺院です。今回は仏教としての側面での観心寺取材となりました。一年最後の日「大晦日」だからこそ、成仏を考えてみてはいかがでしょう。
どうぞよいお年をお迎えください。
観心寺
住所:大阪府河内長野市寺元
アクセス:南海・近鉄河内長野駅からバス 観心寺バス停下車徒歩3分
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