日本がニュージーランドに苦戦した理由。苦手なゲーム展開と、動かない粘り強さ故…
東京五輪・男子サッカー準々決勝、日本対ニュージーランドは延長戦を含む120分を戦い、0-0で決着は付かず。勝負はPK戦に委ねられ、日本はどうにか4-2で勝利をもぎ取り、準決勝のスペイン戦に駒を進めることになった。
しかし、なぜ日本はこれほどの苦戦を強いられたのか。この試合、いくつかの想定内と、想定外があったと思われる。
まず、ニュージーランドがロングボール戦術を使ってくることは想定内だった。相手は3バックが自陣でボールを持ち、外側でのらりくらりと回した後、日本がボールを奪いに来ると、即座に前線のターゲットへロングボールを蹴り出す。このため、日本は無闇にプレスをかけると、その頭上をボールが越え、プレスが空転してしまう。
日本がグループステージのメキシコ戦で披露したようなハイプレスは、足下でつなぐ相手にこそ有効だが、ロングボール中心のチームには向かない。前向きにプレスに行った結果、人が薄くなった中盤でロングボールのこぼれ球を拾われやすく、行ったり来たりの展開で体力を消耗しがち。だからこそ、ニュージーランド戦で日本がハイプレスを避け、ある程度にラインを下げてミドルゾーンに構える守備を選択したのは、理にかなっていた。ロングボールにはしっかりと対応できたし、セカンドボールも比較的拾えた。守備はほぼ想定通りだろう。
想定外があるとすれば、日本のポゼッション時、ニュージーランドのほうが積極的なハイプレスに来たことだ。相手はグループステージで使った[5-4-1]ではなく、[5-3―2]にシステムを微調整し、2トップが吉田麻也と冨安健洋、2人のインサイドハーフが遠藤航と田中碧を1対1で捕まえ、ハイプレスをはめやすくした。
中央が捕まる一方、システムのかみ合わせでサイドバックの橋岡大樹や旗手怜央は浮きやすい。しかし、インサイドハーフの横スライドや、ウィングバックの縦スライドで橋岡や旗手は捕まり、ビルドアップの起点になれなかった。ドリブルで持ち運べる酒井宏樹を出場停止で欠いたことも、ビルドアップが詰まった一因かもしれない。日本はハイプレスの罠にはまり、自陣をなかなか脱出できず、時間を浪費した。
そもそもこの試合、日本は敵陣でプレーすることが前提だった。その際たるは、左サイドバックの旗手だ。元々は攻撃の選手なので、自陣に引いてプレーするDFではない。ニュージーランドの守備ブロックを崩す武器として、旗手はスタメンに名を連ねたはずだが、意外なハイプレスを食らって自陣に押し込められ、特長をあまり発揮できなかった。
「日本は足下でつなぐパスサッカーが長所」と言われることが多いが、その強みが出るのは、実はピッチの半分だけ。敵陣のみだ。自陣に相手がハイプレスをかけてきた場合、日本はそれを外すことができない。森保ジャパンに限らず歴史上も、世界のチームに対して、それが出来た○○ジャパンはない。基本的にハイプレスに弱く、自陣に押し込まれると、押し込まれっぱなしになる。
ただし、ハイプレスを避けて大きく蹴り出したとき、ボールを収めるキープ力に長けた1トップ、大迫勇也の存在は画期的で、日本の弱点をカバーできる選手でもあった。しかし、今大会に彼の姿はない。ニュージーランド戦は、ボランチとセンターバックをがっちり抑えられるとボールを運べず、ハイプレス耐性が乏しかった。
ニュージーランドは的確に日本を分析してきた。攻守において敵陣でのプレーに長けた日本代表を、自陣でプレーさせるように仕向けた。そのねらいがハマっていた。
ターニングポイントは4バック変更
一方、後半6分には、この試合で最大のターニングポイントがやって来た。ニュージーランドのDFウィンストン・リードが、負傷により交代したことだ。ニュージーランドは、控え選手に変えて5バックを維持するのではなく、思い切ってシステムを[4-4-2]のダイヤモンド型に変えた。
スイーパーのDFリードが下がり、トップ下に12番のMFカラム・マコワットが入るのだから、かなり攻撃的な采配である。
この交代により、ニュージーランドはゲーム戦略を先鋭化した。プレッシングの枚数を増やしてハイプレスを強化し、さらにビルドアップもロングボールだけでなく、疲れで間延びしてきた日本の中盤のすき間で縦パスを受けられるように、MFを増やした。この采配により、日本はますます自陣でプレーさせられる時間が長くなった。
ただし、この采配はニュージーランドにとっても、諸刃の剣だったはず。5バックで幅を抑えている限りは、日本の攻撃も縦にスピードアップするのが難しかったが、4バックに変わった途端、サイドの縦が空いてスピードアップしやすくなった。日本は橋岡がオーバーラップしてDFとGKの間にクロスを折り返したり、堂安律がドリブルでペナルティーエリアへ仕掛けて、最後は上田綺世へ惜しいグラウンダーのクロスを折り返して決定機を作ったりと、5バック相手では成し得なかったチャンスメークが機能するようになった。
また、ニュージーランドもCBが3枚と2枚では、ポゼッションの安定感が違う。後半10分には林大地がDFジャンニ・ステンスネスからボールを奪い、後ろから羽交い締めにされ、ステンスネスにイエローカードが示される場面があったが、CBが3枚のままなら、近くにボールを逃がす場所が確保されており、問題なく林のプレスを避けられたはず。しかし、CBが2枚に減ったことで、後方でボールを持つリスクが上がり、この場面は警告につながった。ニュージーランドにとって4-4-2への変更はメリットもデメリットも大きく、実に思い切った采配だった。
こうして両チーム共にチャンスを増やすことになったが、互いにDFとGKが水際で防ぎ切り、0-0でPK戦を迎えることに。しかし、後半は試合が大きく傾いてもおかしくない展開だった。
この試合、主導権を握ったのは終始ニュージーランドである。試合は彼らの意図した展開で進み、後半の4バック変更によるターニングポイント作りも、ニュージーランドが主導権を握っていた。日本はそれによって起きた変化をリアクションで使い、都度、守備対応をしただけ。苦手なゲーム展開にされても、それを根本から打開しようとはせず、我慢して戦う。そのうち、誰かが1対1で剥がすことを期待して。最後は、PK戦で勝つことを期待して。
相手のねらいであるハイプレスを真っ向から外そうとすれば当然、失敗したときに失点のリスクを伴う。どちらが正解か、不正解かは難しいところだが、森保ジャパンの場合は最初のプラン以降は、試合中に自ら動かずリアクションで戦うことを「粘り強さ」と呼び、実践する傾向がある。
スコアの流れは先行逃げ切り型なので、準決勝のスペイン戦はぜひ先制点を取り、その後を粘り強く戦いたいところだ。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】