理不尽な力の秘密。久保建英、堂安律のカットインゴールを分析した結果、わかったこと
決定力不足も、今は昔。
現在の日本代表は爆発的な得点力を誇り、かつチャンスが少ないこう着した試合でも、重要なゴールを挙げて試合をモノにする、決定力を備えるようになった。
その要因について、『TRE2030 ストライカーアカデミー』の代表であり、日本初のストライカーコーチとして活躍するFW育成の専門家、長谷川太郎氏に聞く。すでにお送りした前編では、個々が武器(形)を持っていること、その武器(形)をお互いが理解し合って連係していること、さらに全員が試合を決めるメンタリティーを持つことで予測不能の得点パターンを生み出していること。主に3点を挙げてもらった。
これらの前提は、選手個々にはっきりとした武器があることだ。その一例として、前編では上田綺世を始めとする1トップが得意とするゴールの駆け引きについて、詳細に解説している。(前編はこちら)
今回の中編では、サイドプレーヤーの決定力を上げる秘訣として、堂安律や久保建英のスキルを中心にお伝えする。長谷川氏は彼らの実際のプレー映像を、ストライカー指導に生かしているそうだ。
「日本代表や所属クラブでのシュートやゴール場面は、参考になることが多いので、普段から子どもたちに映像を見せたりして、活用させてもらっています。
たとえば、堂安選手のマイナス方向を使ったカットイン。子どもたちを指導していると、彼らはゴールへ向かって直線的にカットインするのですが、DFに身体をぶつけられ、シュートまで行けないことが多々あります。これをクリアするポイントが、マイナス方向のコース取りです。おへそをGK方向へ真っすぐ向けず、ピッチの中へ向けて、横かマイナス方向へカットインする。
昔、アリエン・ロッベンという左利きのドリブラーの選手がいましたが、彼のカットインはおへそを中へ向けて、ボールを身体で隠したままドリブルでカットインするので、対峙したDFの長友(佑都)選手は足が届かず、シュートを打たれるシーンがありました。そのイメージです。堂安選手も、リオネル・メッシもそうですが、前へボールを持って行かない。
ドリブルは軸足がリードする形で、ボールを隠しながら運び、DFが中を切って来たら縦へ行き、軸足を縦に踏み込んでDFを反応させた瞬間に中へ行くこともできます。
そしてカットイン後は、横を向いたまま、おへそをGKから隠した格好で、腰の回転を使って打つ。堂安選手のように軸足のつま先を蹴るほうへ向ける人もいるし、久保選手のように軸足を抜いて蹴る人もいて、それは状況によりますが、いずれにしても腰の回転を入れられるようにすることが大事です。真っすぐファーに蹴る体勢から、腰の回転を入れれば、ニアにも打てる。それによって、左右にシュートコースが広がるので、GKの逆を突くなど、ゴールの駆け引きで優位に立ちます」
細かいポイントだが、チャンスをシュートにつなげるためには大事なことだ。長谷川氏はこうしたプロの映像を見せるときは、足の動きだけでなく、おへそがどこを向いているかなど、実践につながる要素を取り出している。
さらに、こうした体勢やコース取り以外にも重要なポイントがある。
「カットインは、一瞬の速さも大事です。軸足の反発を使って、素早く大きくシュートコースを作る。私は『パワーポジション』と呼んでいますが、反復横跳びをするときの外側の足のように、斜めに地面を踏み、膝を曲げずに地面の反力を受け取ってカットインする。子どもたちを指導していると、軸足の膝を曲げてカットインする人がいますが、膝がクッションになってしまい、地面の反力を充分に受けられていません。反発を受けることで、カットインは一瞬が速くなり、相手のブロックを避けやすくなるので、そういう点もプロ選手の映像を参考にさせてもらっています。
特に久保選手は、この一瞬の速さが光りますね。中国戦でも久保選手のカットインから、強烈なミドルシュートで得たCKを、久保選手自身が蹴り、小川航基選手の先制ゴールをアシストしましたが、あのミドルシュートは本当にすごかったです。あれほどカットインが速いと、なかなかシュートを打ち切れないものですが、久保選手は軸足を抜いて打つことで、腰の回転をうまくボールに乗せています。
堂安選手も久保選手も、カットインからコースを作って打つところ、その視点は同じですが、堂安選手が大きくコースを作って打とうとするのに対し、久保選手は小さなフェイクで、一瞬コースを作って打つイメージです。相手が大きく足を出して来たら、股下をねらったりと、すき間からシュートが出てくるので、GKは反応しづらいはず。
また、久保選手はカットインのときにボールを少しだけ浮かせて運び、シュートを打ちやすくする駆け引きもしています。決定的な仕事をするためのボールの運び方、動き方は、それぞれが持ってプレーしていますね」
こうしてカットインに成功し、相手のブロックを避けたら、最後はゴールへ飛ばすだけ。しかし、せっかく絶好の機会にたどり着いても、肝心のシュートをふかしたり、GKに防がれてしまっては意味がない。この最も重要なシュートインパクトについても、長谷川氏はいくつかのポイントがあると言う。
「ルックアップは良いけど、ヘッドアップはしない。これが大事です。強くシュートするためには、足下にボールがあると蹴りづらいので、ボールを少し動かした状態で、軸足を踏みながら重心を入れますが、このとき頭が上がっていると、重心が沈み切らず、シュートが浮きやすくなります。力もボールに乗りません。
パス回しの習慣が身体に染み付いていると、どうしてもヘッドアップを長くしがちですが、シュートについては、軸足の踏み込みからボールに集中して、ヘッドアップしないようにする。ルックアップはOKです。頭を上げ過ぎず目線だけ、上目で見るくらいの関節視野で周りを確認しながら、シュートを打つ。そうやってボールを浮かさずにシュートする技術を、私は練習に組み込んでいます。
基本的に試合中、ストライカーが上にボールを蹴ることはほとんどありません。だから、いかに浮かさずに蹴るか。そういう意識は練習の中から持たせるようにしています。
さらに言えば、シュートはストレートよりも、ゴールライン手前でワンバウンドするイメージで打ちたいところです。上側のシュートコースはGKの手の範囲なので防がれやすく、逆にゴロのシュートは、地面との摩擦でスピードが落ちます。低めにワンバウンドするシュートをねらって打てると、GKはかなり対応しづらくなります。また、ボールがGKの手前で跳ねると、キャッチが困難になるので、たとえセービングされた場合でもこぼれ球になりやすく、ゴールの可能性が高まります。
そういう質のボールを蹴るために、私の場合は足の親指を使ってインパクトするのですが、こうした武器を持てると、決定力が変わってきます。いかにGKが嫌がるシュートを打つかが大事だと、ストライカーの育成をやらせてもらう中で感じています。
また余談ですが、こういうワンバウンドするボールの蹴り方は、実はシュートだけでなく、クロスも似ています。クロスはファーストDFの頭を越えて、味方に落とすキックなので、質的にはシュートに近い。蹴るアプローチも、ボールを横に運んでカットインしてシュートするのと、縦に運んでクロスを蹴るのは、場所と方向が違うだけで、キックの内容は似ています。フィニッシュに関わる部分では、重要なテクニックだと思います」
なぜ、昨今の日本代表は決定力が高まっているのか。
中編では久保選手や堂安選手などサイドプレーヤーのカットインを中心に、決定力が向上するポイントを取り上げた。最後の後編では、現役時代に長谷川氏を覚醒させた、元ブラジル代表Jリーガーの話を中心にお送りする。
取材協力:STRIKER One
『ストライカーワールドセレクト』 2024/2025
https://academy.tre2030.com/news/striker-world-select2024-2025/