韓国で5年前に「処刑された」と報道された軍人が国防相に就任!
先月末の労働党政治局拡大会議で「党の決定と国家的最重要課題の遂行を怠る」重大事件を引き起こしたとして金正恩総書記から批判された軍No.1の李炳哲(リ・ビョンチョル)元帥は政治局常務委員(党軍事副委員長)を解任され、軍No.2の朴正天(パク・チョンチョン)元帥は総参謀長の地位は保ったものの軍の階級は次帥に降格されていた。
また、軍No.3の国防相(旧人民武力相)の金正寛(キム・ジョングァン)大将もこの重大事件に連座していたことで国防相を解任されただけでなく、政治局員から政治局候補委員に降格されていた。
(参考資料:政治局常務委員は解任されたが、粛清を免れた李炳哲元帥! 朴正天軍総参謀長も健在が確認!)
韓国の対北所管部署である統一部は昨日(15日)、金国防相の後任に社会安全相(旧人民保安相)の李永吉(リ・ヨンギル)大将が「任命されたようだ」と言及していた。金日成(キム・イルソン)主席の命日にあたる7月8日の錦繍山太陽宮殿参拝での整列の際に国防相の位置に立っていたこと、軍服の襟元が陸軍の赤色の縁だったことなどが判断基準となったようだ。
李永吉新国防相は2016年2月に韓国で「処刑された」と大々的に報道された人物である。この年の2月10日に「聯合ニュース」が速報で当時軍総参謀長だった李大将が「軍内に派閥をつくり、分派活動をした」との理由で「銃殺された」と報道し、大騒ぎとなった。情報の出所が韓国の情報機関・国家情報院だったことから日本のメディアもソウル発で取り上げていたことは記憶に新しい。
「処刑説」が流れた2か月後の4月に朝鮮中央テレビが1月から3月までの金正恩総書記の動静を伝えた映像から李軍総参謀長が消去されていたことがわかり処刑の信憑性は一段と強まった。というのも、金総書記が1月9日に人民武力部を訪問した際に黄炳誓(ファン・ビョンソ)軍総政治局長と朴英植(パク・ヨンシク)人民武力相と一緒に金総書記に花束を贈呈していたのに唯一李総参謀長だけが贈呈シーンからカットされていたからだ。
韓国でも日本でも2012年に李英鎬(リ・ヨンホ)軍総参謀長が、2013年に張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長が、そして前年の2015年に玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力相が相次いで粛清、処刑されたことから李軍総参謀長も処刑されたとしても不思議ではないとの見方が支配的だった。しかし、それから数か月経った5月に開かれた労働党第7回大会の場に李大将が姿を現したことにより韓国報道が「誤報」であることが判明した。李大将は第一副参謀長に降格されていたものの健在が確認されたのだ。
その後、李永吉大将は2018年に総参謀長に返り咲いたが、2019年9月に再び解任され、3か月後の12月に党中央委員会第一副部長に起用され、今年1月に開かれた党第8回大会で社会安全相に任命されていた。
韓国で死亡者扱いされたのは何も李国防相に限った話ではない。金正恩総書記の個人秘書でもある玄松月(ヒョン・ソンウォル)党副部長も2013年に韓国メディアによって「処刑された」と報道されたことがある。モランボン楽団の国民的人気女性歌手であった玄副部長が劇団員らの前で「公開処刑された」と大々的に報道されたのである。
この年、「朝鮮日報」(8月29日付)が「北朝鮮の『ウナス管弦楽団』所属芸術人十数人が淫乱物を作成、銃殺された」と報じ、続いて朝鮮日報系の「TV朝鮮」が「玄松月も淫乱物関連で8月17日に逮捕され、20日に劇団員らの前で公開処刑された」と事細かく報道したから誰もが疑わなかったようだ。
ところが、「死んだはずだよ、お富さん、生きていたとはお釈迦様~」でもないが、玄松月副部長は翌年の2014年5月に平壌で開催された「全国芸術人大会」に姿を現したのである。彼女はモランボン楽団の団長に昇格していた。
北朝鮮が閉鎖国家であることから正確な情報を読み取るのは確かに容易ではない。従って、「~かもしれない」あるいは「~とみられる」との推測、予測記事が多いのはある程度致しかたがないことだ。しかし、それにしても韓国のメディアが発信する北朝鮮関連情報は裏付けも、検証もなく、「あり得る話だ」「そうあっても不思議ではない」「所詮、誰にもわからない」との短絡的な思考で書きまくるのが特徴だ。
仮にそれが真実でなくても一切構わない。間違ったからと言って、北朝鮮から名誉毀損で訴えられる恐れもなければ、訂正、謝罪を出す必要もないからだ。その結果、未確認記事、誇張記事、憶測報道、時には創作文が乱舞する。その多くは客観性を装うため書き手の推測を「消息筋」や「情報筋」「関係筋」の言葉として載せる。
一般の人事異動であれ、病気であれ、定年退職であれ、何であれ、北朝鮮の主要幹部は公式の場に長期間姿を現さなければ、また突然更迭となれば「粛清された」「処刑された」との観測、憶測記事が韓国から発信される。スクープを競っている韓国のメディアにとっては早い者勝ちかもしれないが、いち早く「当確(処刑)」を打つケースも多い。
昨年から今年にかけて韓国の一部メディアによって「処刑された」と報道されている要人として2017年10月に党第一副部長に降格された黄炳誓・元政治局常務委員(元軍総政治局長)、党序列6位の政治局員の朴泰成(パク・テソン)党宣伝扇動部長、同じく政治局員だった崔輝(チェ・ヒ)党部長、それに今年2月に政治局員(兼書記)を就任から1か月で解任された金頭日(キム・ドゥイル)党経済部長らの名が挙がっているが、こればかりは占いのようなもので「当たるも八卦当たらぬも八卦」である。