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金正恩政権下の韓国発北朝鮮関連「10大誤報」 

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
5月1日に20日ぶりに姿を現し、健在が確認された金正恩委員長(労働新聞から)

 韓国のメディアが発信する北朝鮮関連情報は「当たるも八卦当たらぬも八卦」で裏付けも、検証もなく、「あり得る話だ」「そうあっても不思議ではない」「可能性はある」との短絡的な思考で書きまくる。敵性国家である共産国家・北朝鮮については利するような記事でなければ、何を書いても許される風潮がある。間違ったからと言って、北朝鮮から名誉毀損で訴えられる恐れもなければ、訂正、謝罪を出す必要もない。いわば、書き得だ。その結果、誇張記事、憶測報道、事実操作、未確認報道が乱舞する。中には創作文らしきものもある。

 古くは1986年11月18日に「朝鮮日報」が号外まで出した「北朝鮮でクーデター発生、金日成主席死亡」をはじめ、金日成政権時代(1948-1994年7月)、金正日政権時代(1994-2011年12月)にも数々の誤報があったが、今回は金正恩政権にまつわる「10大誤報」をピックアップしてみた。

 ▲2011年10月 「金正恩夫人は金日成総合大学出身」

 「金正恩氏が2歳年下の女性と結婚、(夫人は)金日成総合大学を卒業後、同大学の博士課程に在籍中」と韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」が2011年10月31日に報道。

 ※李雪主夫人は5歳下の銀河水管弦楽団専属歌手であることが判明

 ▲2013年5月 「脱北青年の銃殺」

 「2013年5月にラオスで逮捕され、北朝鮮に送還された脱北者9人が銃殺、収容所に入れられた」と韓国内で報道されたが、北朝鮮の対南宣伝媒体の「わが民族同士」が2014年12月7日に9人の近況を映像で公開。

 ※「朝鮮日報」は2000年6月にも「脱北者のユ・テジュン氏が北朝鮮に連行され、公開処刑された」と報道したが、北朝鮮が後に処刑されたはずの本人をテレビに出演させていた。

 ▲2013年8月 「玄松月の公開処刑」

 「朝鮮日報」(8月29日付)が「北朝鮮の『ウナス管弦楽団』所属芸術人十数人が淫乱物を作成、銃殺された」と報じ、続いて朝鮮日報系の「TV朝鮮」が国民的人気女性歌手でもある玄松月も「淫乱物関連で8月17日に逮捕され、20日に劇団員らの前で公開処刑された」と報道。

 ※玄松月さんは翌年2014年5月に平壌で開催された「全国芸術人大会」で健在が確認。モランボン楽団の団長に昇格していた。

 ▲2014年2月 「崔龍海(軍総政治局長)の監禁」

 韓国の対北朝鮮心理作戦インターネット媒体である「自由北韓放送」は「(崔龍海が)2月21日午前6時、自宅を出ようとしたところ、軍保衛司令部所属の軍人らに連行され、保衛司令部に監禁された」と報道した。

 ※崔氏は翌3月の最高人民会議選挙で代議員に選出され、4月には国防副委員長に起用されていた。現在は党副委員長、国務第一副委員長、最高人民会議常任委員長として党序列ではNo.2。

 ▲2014年11月 「金慶喜(張成沢の妻)の自殺&毒殺」

 「朝鮮日報」は2014年1月6日付の1面に政府消息筋の話として処刑された張成沢の妻で、金正恩委員長の叔母である金慶喜が「自殺もしくは心臓麻痺で亡くなった可能性がある」と報じた。また、韓国の脱北団体「NK知識人連帯」も2014年11月26日、北朝鮮の高位消息筋から得た情報として「金慶喜が夫の処刑から数日後に自殺したことが明らかになった」と発表。2015年5月11日には米CNNが脱北者の言葉を引用し、「金慶喜が毒殺された」と報道。

 ※金慶喜は今年1月平壌の三池淵劇場で金委員長と共に公演を観覧。6年4カ月ぶりに姿を現していた。

 ▲2016年2月 「李永吉総参謀長の処刑」

 2016年2月10日に「連合ニュース」が速報で李永吉総参謀長(大将)が「軍内に派閥をつくり、分派活動をした」ことが理由で「銃殺された」と報道。金委員長の腹心とみられていただけに処刑の一報は驚きであった。

※数か月後に李永吉大将は姿を現した。第一副参謀長に降格させていたものの健在が確認された。

 ▲2016年6月 「金正恩が爆弾テロで死亡した」

 上海にあるインターネット媒体「イースト・アジア・トリビューン」が6月17日に「金委員長が午後2時に平壌普通江区域で開かれたある記念式典に参加した際、一人の女性が警護員の警戒網を潜り、爆弾を炸裂させた」と報じ、これに韓国の一部メディアが「テロ発生後、金委員長は病院に運び込まれたが、到着した時はほぼ死亡していた」と伝えたことで韓国の株が一時暴落した。

 ▲2019年5月 「金英哲統一戦線部部長が粛清された」

 5月31日付の「朝鮮日報」は対北消息筋の話として金英哲統一戦線部部長が失敗に終わったハノイでの米朝首脳会談の責任を取らされ「辺境地で重労働を強いられている」との情報を「スクープ」として報道。

 ※金英哲氏はその2日後にあった金正恩委員長の軍人の妻たちによる公演鑑賞の場に同席していた。

 ▲2019年11月 「谷内前国家安全保障局長が3度訪朝」

 「朝鮮日報」(11月13日付)は安倍晋三首相が「今年5月から10月にかけて計3度、谷内正太郎・国家安全保障局長(当時)を平壌へ特使として派遣し、金正恩委員長宛の親書を伝達していた」と、「情報消息筋」の話として伝えていたが、菅義偉官房長官は13日の記者会見で「そのような事実はない」と否定。

 ▲2020年4月 「金正恩委員長が重篤」

 金委員長が4月15日の参拝に姿を現さなかったことからその動静が俄かに注目されていた最中、韓国の「デイリーNK」が4月20日に金委員長が「平安北道の妙香山にある金一族の専用病院・香山診療所で心血管疾患の手術を受けた」と報じ、これに便乗した米CNNが翌21日に米政府筋の話として「金正恩氏が手術を受け、手術後に合併症が発症し、危機状態にある」と伝えたため「重篤説」が世界中に伝播された。

 ※メーデーの5月1日に平安南道順川市にある肥料工場の完工式に金委員長が姿を現したことで健在が確認された。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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