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巨大ロケット残骸「制御不能」落下にも中国側が言ってのけた驚くべき釈明

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
長征5号Bの再突入を伝える中国当局のHP=筆者キャプチャー

 国際社会が固唾を飲んで見守るなか、中国ロケットの残骸が9日、インド沖の海上に落下した。関連場所を撮影したとみられる映像がSNSなどに投稿されているが、落下点の様子や被害の有無は伝わってこない。

 一方、今回の落下を巡っても米中で非難の応酬が繰り広げられた。米国側から「地表落下の可能性」「米宇宙軍が追跡」「迎撃」などと発信されたことに中国側は反発し、「米側の一部エリートは、中国の宇宙技術の急速な進展に嫉妬し、中国をののしって、うっぷんを晴らしている」という独自の解釈で対抗している。

◇宇宙ステーション建設のための大型ロケット

 問題となったのは、中国が先月29日に打ち上げた大型ロケット「長征5号B」。中国独自の宇宙ステーション「天宮」の中核部分となる居住区施設を搭載し、海南島・文昌衛星発射場から打ち上げられた。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、打ち上げ後、ロケットの基幹部分は通常、切り離されると直ちに地球に戻されるが、長征5号Bでは宇宙ステーションの部品を軌道に乗せるまで付き添うような形になっていたという。だが、大気圏上層部の空気との摩擦で高度が下がり、基幹部分の残骸が制御されない状態となり、地球への再突入が避けられなくなった。

 サキ米大統領報道官が今月5日の記者会見で、地表落下の可能性に言及し、「米宇宙軍が追跡している」と明らかにした。世界各国で残骸追跡の動きがみられるようになり、米航空宇宙局(NASA)のネルソン長官は中国に対し、「スペースデブリ(宇宙ゴミ)に関し、信頼できる基準を満たしていない」と、異例の非難の声を上げた。米メディアも今回の残骸を「再突入する中でも最大級。燃え尽きない恐れがある」と表現し、一部で「迎撃すべきだ」という声も飛び出すようになった。

 この際、引き合いに出されたのが、中国にまつわる過去の残骸落下の事例だ。

 昨年5月に「長征5号B」が打ち上げられた際も、残骸が大西洋の上空で大気圏に再突入し、その一部とみられる金属が西アフリカのコートジボワールの陸地に落下、複数の家屋に被害が出たと伝えられている。2013年にも「長征3号B」の残骸が中国湖南省の農村に落下し、民家2軒を直撃したことがあった。

 だが、中国外務省の汪文斌(Wang Wenbin)副報道局長は7日の定例記者会見で「(基幹部分は)パッシベーション(不活性化)されており、再突入の際には大部分の部品が燃え尽きる。航空機や地上に危害を及ぼす確率は極めて低い」と懸念の払拭に努めていた。

◇「中国の宇宙技術の急速な進展に嫉妬している」

 結局、残骸は9日午前10時24分(日本時間同11時24分)に大気圏に再突入し、落下した。中国政府の有人宇宙プロジェクト弁公室の発表によると、落下地点は北緯2・65度、東経72・47度、モルディブ近くのインド洋だ。中国当局は「ほとんどは再突入の過程で燃え尽きた」としている。再突入場所はエジプト沖の地中海上空と推定されている。

 NYTは「残骸がモルディブを構成する1192の島のいずれかに落ちたのか明らかになっていない」と記し、モルディブ側の反応も伝えられていないと報じている。SNS上ではイスラエルやオマーンなどでの目撃情報が寄せられているという。

 今回、米国を中心に発信された「残骸の制御不能の落下」について、中国共産党系メディアは「西側による誇張宣伝」と批判し続けてきた。

 このうち、人民日報系「環球時報」が9日の落下確認直後に出した社説では「宇宙への(ロケット)打ち上げの常識を理解している中国人や国際社会は、米国の誇張宣伝によって、米側の一部エリートの集団的な警戒心を再び目の当たりにすることになった」と表現したうえ、次のような論理を展開した。

「彼らは中国の宇宙技術の急速な進展をうらやみ、嫉妬している。数年後、宇宙に中国の宇宙ステーションしかなくなるということに耐えられない」

「一部の人は、中国が宇宙ステーション建設のため集中的に打ち上げることを邪魔し、中国をののしり、うっぷんを晴らしながら、自分たちのたくらみを実現しようとしている」

 中国は2022年までの宇宙ステーションの運用に向け、今後も大型部品の打ち上げを進める。同紙は「中国には米欧の世論のご機嫌を取る義務はなく、われわれは国際ルールと中国の権利に従って物事を進める」と宣言しており、今後も同様の事態が起きることが懸念される。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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