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日大・田中理事長の背任事件で監事の意味無し… トップ不正のチェック機能 体制づくりどうすれば?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント

所得税法違反の疑いで昨年12月20日に起訴された日本大学の田中英壽前理事長の背任事件。1月26日には私学助成金が全額不交付が決定(前年度90億円)となり、経営に大きな打撃を与えています。日本大学は前理事長の逮捕(11月29日)をうけて、12月10日、記者会見を開きました。登壇したのは、学長(兼理事長)、危機対策本部長(副学長)、監事、弁護士の4名。監事も出席しているのが珍しいと感じましたが、想定質問を考えた結果だと予測できます。いよいよ監事が記者会見で説明責任を果たす時代になると感じました。予想通り、質問の多くがガバナンス、チェック機能でしたが、監事のあるべき役割については突っ込みが弱い。そこで、企業の監査役経験がある元検事の村上康聡弁護士に監事・監査役の役割、調査のあり方など外部人材の活用についてお聞きします。

監事が自分の役割を認識していない

―トップの不正、逮捕は危機管理マニュアルで想定しにくいケース。平時から監事・監査役がチェック機能を果たす体制を作るしかありません。日大のケースは、村上先生からはどのように見えますか。

私立学校法という法律があって、監事は、もともと理事の業務執行が監査の対象だったのですが、実は学校法人全体の業務というものにまで監査対象が拡大されています。監事は監査報告書を作成して、理事会と評議員会への提出を義務付けられていますが、評議員会の同意を得て理事長が選任することになっており、外部監事を1名以上選任しなければならない。恐らく日大も、一応外部監事を1名以上置いていたと思いますが、結局、全く功を奏していなかったということだと思います。

一般的には、少なくとも、まずは財務経理の観点から税理士や公認会計士の方を外部監事として呼んだり、違法業務の指摘や是正のために弁護士を社外監事としたりすべきだったと思いますが、この日大の場合の監事がどういう方々なのか私は分かりません。仮に、今言ったような公認会計士や税理士、あるいは弁護士が入っていたとすると、なぜ機能しなかったのか大いに疑問があります。

内部統制システムの整備が必要です。組織において、違法行為や不正、ミスなどを発生させることなく、組織が健全かつ効率的に運営されるように、それぞれの業務に基準や手続きを定めて、それに基づいて管理監視することが監事に求められることです。

―監事というと決算、数字のチェックが主な仕事と思われているようです。

昔は財務会計が中心でしたけれども、今はコンプライアンスや経営方針がどうか、業務ルールを守っているか、経営や業務の有効性・効率性の向上、リスクマネジメントなど幅広く監査の対象になっています。そうすると、監事の仕事は結構大変なはずです。

例えば、監事はまず理事会などに出席して意見を述べる。不正や損失を未然に防止したり、何かおかしいという場合には、理事会や評議員会に対して報告したり、主務官庁に報告するということをしなければならないわけです。そうなると、監事という人はやはり倫理性があって、独立していて、専門性がなければならないということになります。

―自分の役割についての自覚が必要だろうと思います。日大の会見では監事としてどう見ていたのかという質問に「昨年6月(2020年)に着任したばかりで、業務の監査はしていた」との回答でした。

監事になった場合には、大学の内部統制の状況と有効性を把握したり、理事会との意思疎通を図ったり、やはり公正中立な立場で秘密保持に努めたり、正確な監査証拠を収集しなければなりません。だから、監事がどうやって機能するかということが問題で、監事の役割や重要性について検討しなければならないと私は思います。

―田中理事長はかなりワンマンだったということですが、ワンマンだと意見が言いにくいものでしょうか。

私が社外監査役として仕事をさせていただいた会社は、社長はリーダーシップのある方でしたが、私どもの意見も聞いてくださいました。むしろ、何かちょっとした不正があるとすぐに公表していました。株主総会でもしっかりご説明されていて、頭を下げるべき時は頭を下げていました。ワンマンでも機能する会社はあると思います。

―会社の方が、株主、消費者、メディアといったうるさいステークホルダーがいるのでチェック機能が働きやすいのかもしれません。

特に私立大学はやはり少し会社とは違うので、いわばワンマンで横暴な人がいた場合に、その人に物申すと解任されてしまうおそれがあります。

一般的にワンマンの方がいた場合には、どういう体制で監査機能を果たすのかというのは本当に考えなければならないことだと思います。

―日大の監事は、「業務の監査は行っていた」と回答しています。当たり前すぎて回答になっていませんでしたが。監事・監査役と経営者の関係のあり方を見直す必要があります。

経営判断は長期的な観点など、いろいろな観点から考えるわけですから、あれは駄目だ、これは駄目だという形でうるさく言うのもどうなのだろうという判断が恐らく監査役にはあるのではないかという気がします。

経営層が犯罪で起訴されたある有名な特別背任事件でも監査機能が働かなかった。その監査役は、実際に取締役会に出席していましたが、「経営見通しというのは、経営執行会議などでも十分に議論がなされているはずだから、あとは執行側の経営判断に委ねるしかない」と判断していました。ある事業のアドバイザリー報酬額が莫大な金額で、それを支払うのは正当かといった問題については専門的なことであって経営を執行する側に判断を委ねるほかないと判断したのです。ここに問題があったと思いますが、恐らく他の会社でもかなり同じように判断しているのではないかと思います。

監査役が調査できる事務局が必要

―経営者が選んだ監査では機能しない、となれば、選び方を変える必要があります。監事・監査役が機能しない理由は他に何か考えられますか。

選び方でいえば、社外の活用が大事です。それなりに指摘して言える人はやはり社外の方だと思います。監査役は1名ではありません。まず、常勤監査役がいます。常勤監査役は会社のことをよく知っている方で、よくあるケースは会社のOB。重要なのは、それ以外に社外で専門性のある方を選任すること。公認会計士や税理士、弁護士、そういった人を入れる必要があると思います。

監査役が機能しない問題の1つとして申し上げたいのは、監査役の事務局がほとんどの会社ではないこと。本来、監査役は取締役とは違って独立性があるわけです。だから、監査役はいろいろな問題が起こったときには、顧問弁護士とは違って、独立に弁護士を専任する、あるいは外部の専門家に委嘱する役割があります。ところが事務局がいない。常勤監査役だけではなくて社外監査役も含めてきちんとした事務局があって調査もできる専属の人が2人ぐらいは最低必要なのではないかという気がします。

―経営層全般に組織のチェック機能、リスクマネジメントに必要な予算組がなされていない?

次年度の予算に監査役の関係の予算などはあまり計上していないケースが多いのではないでしょうか。研修についてもそうです。何か不正が起こったりすると再発防止のために社員に対して研修をしますが、会社の代表取締役をはじめ取締役、監査役もチェック体制、ガバナンスについての研修をしっかり受ける。認識がもてれば、それなりに機能するのではないかという気がします。

―日大の学長が記者会見で自ら述べているように内部通報制度も全く機能していませんでした。他の不祥事でも同じように内部通報は形骸化しているケースが目立ちます

内部告発は大変重要だと思います。匿名性を保ちながらしっかり調査してトップ等の不正を暴く。どこがそれを受理して、誰が調査するのか。一番ダメなパターンは、内部告発が来ると役員全員に話が行き渡り、一体誰が通報したのかと調査する。通報を受けた側は匿名性を保持せずヒアリングだけをする。調査するといっても検事や弁護士のような調査の経験がないわけですから、素人が単に話を聞く程度。そうすると、言われただけになっておしまいになってしまい、単にやったということに意味があると認識されてしまう。

トップへの言い方を研究する

―内部通報が機能しなければ組織は腐ります。私もメディアトレーニングをやっているのですが、役員になると研修を受けたことがないというようなケースは案外多く、少し時代から取り残されている感があります。チェック機能に関しての研修は何が効果的だと思いますか。

トップへの言い方については石川さんの方が専門だと思いますが、私の過去の経験で言うと、関係している会社の常勤監査役の方だけを集めた監査役懇話会がありました。そこでは具体的な事例を基に、これが不正かどうか、どう判断するのか、どんな言い方で指摘すればいいのかを考える機会がありました。

例えば、海外の外国公務員に対する贈賄の問題や、あるいは不正なお金の流れや、循環取引を発見したなど不正のパターンを事例として、講師の先生が問題を出し、第三者委員会の立ち上げ方も討議しました。こういったケーススタディは有効だと思います。

―今回の田中理事長もそうですが、報道は常に断片的なので、どうしてそうなったのか分からない。だから、時系列に詳しく事例分析していく。第三者委員会の調査報告書がウェブで読めますが、私も研修で読んだことはありますか聞くと、全く手が挙がらない。調査報告書をしっかりと読んで考える時間を作る必要があります。

取締役会で変なことをしようとしている代表取締役に対して、それはいかがなものですか、駄目ですということをそもそも言えるのかということです。いろいろな研修を受けたり勉強したりしたとしても、そういう雰囲気の中でしっかり言えるのか。誰にどう言って、回答をもらうのか。交渉とはまた違うかもしれませんけれども、あるいはストレートに言えるだけの勇気があるのか。本当に言ってしまっていいのか。

そのような時に取締役は、取締役会の場でいきなり指摘するのではなく、まず、監査役と話をして戦略を練るのがよいでしょう。取締役会での監査役の存在は大きいですから。

―取締役の人が監査役に気軽に相談に行けるという関係づくりを日ごろから構築しておくことも大切だろうと思います。監査役には、会計士、税理士だけではなく、情報収集力のある弁護士には組織内での調査力を期待したい。現在は、不正が発覚した後にようやく第三者委員会が設置されている状況です。ただ、こちらも選出方法が不明で、経営者の責任を明確にせず、企業風土の問題で終わらせてしまっている傾向があるように見えます。

2010年7月に日弁連で企業不祥事における第三者委員会のガイドラインが定められたので、大体これに沿って行われるようになったと思います。企業以外に公益法人や研究機関、地方自治体などによる不祥事案についても大体同じような第三者委員会が立ち上げられることはあると思います。

ただ、過去のケースなどを見ると、例えば、不適切な会計処理の事案の場合には、委員が就任直前まで子会社や関連会社との間で顧問契約ないし継続的な委任関係があったという事案もあります。あるいは、免震データ偽装事件の場合は、企業の危機管理対応に従事していた弁護士が、その後委員にも就任して報告書を作成していたという場合もあります。

また、独立していると思われるような委員が入ったとしても、先ほど石川さんがおっしゃったように、調査範囲が限定されている、場合によってはヒアリング対象者が不合理に限られるなど、経営者の意向に沿う内容の報告書になっている場合もあるわけです。

実際、過去に私が弁護人になった刑事事件で、第三者委員会を立ち上げてもらったケースはあります。要は、第三者委員会はどこが立ち上げるのか。つまり、どこが委嘱するのかという問題があります。これは、取締役会が設置して委嘱する方法と、監査役会が設置して委嘱する方法があると思うのですが、やはり私は独立したということを考えると監査役会が設置したほうが望ましいと思います。

明白な利害関係がない限り、まず、監査役は委員の一人として就任するのが私は望ましいと思います。監査役が就任した場合には、会社に対して持っている善管注意義務を前提に他の委員と協働して職務を遂行し、委員会の設置の経緯や対応状況について説明を受けて、必要に応じて監査役会に第三者委員会の先生に来てもらって、差し支えない範囲で報告をしてもらうという形を取らなければならないと思います。

どうやって選任されているのかというのは正直なところ不透明な部分があります。取締役からこの先生がいいのではないか。あるいは銀行からこういう人がいいと聞いた。あるいは自分のコネか何かで、いかにも自分とは関係がない先生だと見せながら委嘱をお願いして内諾を取って委嘱するという方法が結構あると思います。

ただ、今の状況を見ていると、大体第三者委員会の委員長的な方には、元検察出身の方が就いていることが多いと思います。あるいは、補助者として昔検事をやっていた人を使ってやる。いってみれば、捜査や調査のようなものですから、そのほうが意外と証拠的なものの収集やヒアリングが充実にできます。経営者側の判断によらずに客観的に捜査と同じような目で調査報告書を作れるというような観点から、元検事の方が多いのかなという印象は持っています。

―内部告発があった時に広報はどう対応するのか、今後の課題です。私も弁護士の先生方と一緒に対応するケースはあります。記者会見と法廷では戦い方が違います。裁判所では裁判官を味方にすることや勝訴すること、記者会見では世論を味方につけることや信頼失墜を防ぐこと。ステークホルダーも目的も異なりますから、ここはそれぞれ別々の戦略を練りつつ、信頼回復のために連携が必要です。本日はありがとうございました。

3分ワンポイント解説動画(石川慶子MTチャンネルより)

【村上康聡(むらかみ やすとし)氏略歴】

弁護士

昭和57年中央大学卒業、昭和60年検事任官、その後、東京地検、那覇地検、米国SEC・司法省での調査研究、外務省総合外交政策局付検事、内閣官房内閣参事官、東京地検刑事部副部長、福岡地検刑事部長等を経て、平成19年弁護士登録。その後、株式会社グローバルダイニング監査役、日弁連国際刑事立法対策委員会副委員長。主な著書「海外の具体的事例から学ぶ腐敗防止対策のプラクティス」(日本加除出版)「企業不祥事が生じた場合の適時開示について」(PwC’s View 4号)等

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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