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先住民の違法行為デモは「模範的で品位ある善行」ノルウェー警察が称賛 罰金・逮捕もなし

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
伝統的な歌唱法ヨイクを歌いながら国会前で抗議するサーミ人 筆者撮影

「フォーセン地域におけるデモ参加者は違法な行動をとったが、模範的な行動だった」とオスロ警察が評価したと、ノルウェー公共放送NRKが報じた。

これまでの記事で、ノルウェー政府が先住民サーミのトナカイ放牧地に風力発電所を建設したことは違反だとして、大きな抗議活動を何度か行ったことを伝えてきた。この一連のデモは、問題の土地がフォーセン地域であることから「フォーセン・デモ」と呼ばれている。

サーミ人が行う抗議活動の種類は、「市民的不服従」という非暴力だが「違法行為」でもある。

自らを仲間たちと工事車両などに鎖で巻き付けて移動を拒否したり、工事を止めたり、建物の封鎖などを行う。だが警察などがきても「抵抗は一切しない」という市民的不服従は、ノルウェーでは歴史ある市民運動・抗議活動の一種だ。

今年サーミや市民らが実行した市民的不服従は、省庁や再生可能エネルギー供給会社の入り口を封鎖する、国会内で座り込んで歌いだすなど、大臣・公務員・社員などの出勤を防止し、テレワークなどを余儀なくさせる行為だ。

スウェーデンの気候活動家グレタさんも応援に駆け付け、省庁などの入り口を連日封鎖した 筆者撮影
スウェーデンの気候活動家グレタさんも応援に駆け付け、省庁などの入り口を連日封鎖した 筆者撮影

ほとんどの場合、警察からの注意後もその場から動かない場合は、警察官が市民を「担いで」その場から強制撤去させる。

このような流れでは最終的には罰金を支払うのが普通の流れだ。市民的不服従が驚くほど浸透しているノルウェーでは、SNSのフェイスブックなどで「警察に罰金を支払わないといけないので、寄付お願いします」という投稿を筆者は何度も目にしてきた。そもそもこれが「日常的」なことに筆者は慣れてしまったが、よく考えると日本では見ない現象だよなとも思う。

イスラエル・パレスチナ問題もあり、首都オスロでは毎日のように抗議活動が起きている。デモ参加者が平和、秩序、治安にそぐわない行動をとったり、表現の自由の枠内で行動したりすることもあるが、警察によれば、フォーセンのデモではそのようなことは問題にならなかったそうだ。

問題を起こさずにメッセージを伝えることに先住民は長けている

国会前のデモで警察官と密接なコミュニケーションを取るデモ参加者たち 筆者撮影
国会前のデモで警察官と密接なコミュニケーションを取るデモ参加者たち 筆者撮影

筆者も連日の取材中、警察官の姿は常に見かけたが、サーミ人の若者たちは「ただ状況を聞いてくるだけで平和に話ができているよ」「むしろ国会前の野宿中は警察が周囲にいてくれたほうが安心」と話していた。

サーミ人はノルウェーではヘイトスピーチや差別の対象となりやすい。市民がヘイトスピーチをしてくる現場は筆者もこれまで目の当たりにしており、警察が周囲にいてくれたほうが安心と感じる人もいる。

警察がヘルメットや盾を装備する必要もなく、笑顔でデモ参加者と会話している警察官もいた。

抗議活動を見守る警察官、忙しそうにも見えず、同僚と笑顔でおしゃべりしている人たちもいた 筆者撮影
抗議活動を見守る警察官、忙しそうにも見えず、同僚と笑顔でおしゃべりしている人たちもいた 筆者撮影

重要なメッセージを良い形で伝えるために、境界線がどこにあるのかを理解している賢い人たちがいました。

彼らは騒動やトラブルを引き起こすことなく、極めて重要なメッセージを伝えることに成功していました。彼ら警察との良好な対話の中で威厳ある態度で成し遂げていました。

オスロ警察管区のオペレーション・サービス合同部隊の責任者マーティン・ストランド、ノルウェー公共放送の記事より

今年すでに行われた抗議活動に加えて、今回の抗議後も、誰も逮捕されてはおらず(警察官に現場から担ぎ出されることは「逮捕」ではない)、未だに罰金などが科されていない。実はこれは珍しいことで、その理由は、そもそもノルウェー最高裁が「先住民の人権侵害をしているのはノルウェー政府」と判決を下していること、判決から2年以上経ってもまだ風車を稼働させていることにノルウェーの弁護士や法学者たちからも抗議の声がでていること、多くの若者や過去に迫害されてきた先住民による民主的な行動などが指摘されている。

組織化された先住民の歴史ある抵抗運動

国会から警察官に担ぎだされて運び出されるサーミの若者たち 筆者撮影
国会から警察官に担ぎだされて運び出されるサーミの若者たち 筆者撮影

サーミ人が我慢の限界に達した時の市民的不服従という抗議方法を取材していると、筆者もカルチャーショックを受けることが多い。

非常に「組織化」(オーガナイズ)されている運動からは、サーミの「抵抗の歴史」と「抗議運動の体験の蓄積」が感じられ、「北極圏の先住民」というネットワークで、国境を越えて仲間たちが連帯している。

省庁の封鎖や国会内の座り込みを「トラブルを起こさず」と表現するのは寛容なノルウェーらしいなとも思うが、「威厳ある態度で、対立を起こさずにメッセージを確実に伝えることに成功していた」と警察にまで評価されることは驚く。先住民サーミの抵抗運動やメッセージの伝え方からは、どの国の抗議参加者も学ぶことがあるのではないだろうか。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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