「眉毛かいてないからWEB会議出たくない」?テレワーク増で「管理職になりたくない人」が急増する悲劇
■「管理職になりたくない」2つの要因
結論から書くと「そりゃそうだよな」という話である。
ただでさえ約83%の人が「管理職になりたくない」と答えている現代だ。(※20~50代の男女を対象に調査。マンパワーグループ調べ)
新型コロナウイルスの影響もあって「テレワーク部下」が増えれば、管理職なんて、とてもやってられない。こっちから願い下げだと思う人は、さらに増えることだろう。
テレワーク以前に、そもそもなぜ「管理職になりたくない人」が増えているのか。まず、それを考えてみたい。
その理由を大きく分けると、「不確実性」と「多様性」。この2つが要因と言えるだろう。
まず「不確実性」。
外部環境の変化が、予測できないほど激しい現在、組織運営を以前のようにのんびりとやっていられなくなった。「経験の無価値化」と呼ばれて久しいが、過去の経験など意味がないどころか、マイナスに働くような時代だ。
どのように仮説を立ててプランニングしても、その通りになることはほとんどない。思い込みを排除し、常にデータを睨みながら「ファクトフルネス的」にマネジメントしていかないと、組織目標は達成しない。
つまり、以前よりも2倍も3倍も頑張らないかぎり、管理職としての責任が果たせなくなったのだ。
■厄介な部下たち
次に「多様性」。
こちらのほうが、はるかに厄介だろう。価値観が多様化している現代、当然のことながら部下の価値観もそれぞれだ。
以前なら「給料をもっと増やしたいだろ?」「いずれ出世したいだろ?」と問いかければ、
「はい! そのためには、何でもやります!」
と答えた部下だったが、今では
「別に」
と答える。
「お金がたくさん欲しいわけでもないし」「何がやりたいかわからないし」という部下をモチベートするには骨が折れる。そんな管理職の背中を日ごろから見ている部下たちが、「いずれ管理職になりたい」とは思うはずがない。
「やりたいことが何かはわからないけれど、管理職の仕事よりは現場で仕事していたほうがマシ。お金も、地位もたいして欲しいと思わないし」
■「働き方改革」を歓迎する管理職っている?
不確実な世の中で、多様化する考えの部下を育てながら、組織の目標を達成させなければならない。そんな管理職たちに、多くの人は憧れないだろう。
しかも、難儀な時代がやってきた。それが「働き方改革時代」である。
不確実で多様化している時代に、「働き方改革」という枠組みをはめられるのだ。管理職からしたら、たまったものではない。
「残業上限規制」に「同一労働同一賃金」。
不確実性と多様性というキーワードによって、正解のない問題を解決しようと、日々頭をフル回転させ、奮闘しているのに、その時間が制限されるようになった。しかも同じ仕事をしていたら、同じ権利を渡せとか言われる。頭がこんがらがってくる管理職も多いだろう。
「価値観が多様化して、以前より言うこと聞かない部下が急増しているのに?」
■「え? 仕事中だろ?」
その混乱がまったくおさまらない状況下でやってきた「コロナショック」である。突然はじまった部下たちの在宅勤務に、管理職たちは茫然自失だ。
毎日姿が見えないから行動を追うこともできない。見えないからこそ、妙な妄想を抱くこともある。
「AとBは、どんな仕事をして、どんな成果があったか。逐一報告してくる。それこそ一日に3回も電話をかけてよこす日もある。それに比べ、CとDはどうだ。放っておくと2日も3日も連絡をしてこない。以前からそうだが、テレワークが始まってから、よけいに報連相しなくなった」
「Cのところは、子どもが小さいから在宅で仕事をするのは大変だろう。この前も電話をしたら、子どもの甘えた声が電話口から聞こえてきた。本当に仕事をしているんだろうか」
「Dはゲーム好きで、いつも夜更かしばかり。オフィスでもよく居眠りをしていた。だから一日中家にいたら、ゲームばかりやってるんじゃないだろうか」
このように勘ぐってしまうのも、無理はない。
テレワークになったら、成果への意識を高めてもらえないと、管理職は部下を評価しようがない。姿が見えないのだから、フリーランスに仕事を頼んでいるのと同じだと思えてくるからだ。
「以前、WEB会議の機能を使ってミーティングに出てくれと言ったら、『部屋着だし、眉毛もかいてないので嫌です』と断られた」
と、ある大企業の課長が嘆いていた。
「あれ? 仕事中だろって思ったんです。部屋着だし、眉毛かいてないからミーティング出られないって……。そんな言い分あるか」
■管理職の負担を減らすために、企業ができること
不確実性に多様性、働き方改革にテレワーク……。時代の変化によって生み出されたすべてのしわ寄せが、管理職たちを襲っている。
古き良き時代を知っている管理職たちは、今すぐその職務を投げ出して現場に戻りたいだろう。
「私だって在宅勤務だ。部長とWEB会議しなければならないので、髪の毛も整えているし、一応ジャケットも羽織っている。妻に『宅配便が来たから受け取って』と言われても『仕事中だ』と断ったことで、口をきいてもらえなくなった。それでも耐えてる」
先述した課長の愚痴は止まらなかった。
管理職の負担を減らすために、企業がすべきことはたくさんある。そのうち、最も重要なのは、主体性の発揮できない部下たちに対する教育だ。
これまでは、部下をモチベートできないのは、上司である管理職の責任と見られていた。しかし、そうではないケースが増えている。部下のほうにも多くの問題があるのだ。
管理職は部下育成のプロではない。ブラック企業、パワハラ上司がいる職場は問題外だが、そうでなければ部下育成を管理職に一任する時代ではなくなった。ある程度企業が担うことで、管理職の負担は軽減できる。
そうでなければ「管理職になりたくない人」はますます増え、結果的に企業側が苦しむことになるだろう。