海外で優秀人材を定着化させる人材マネジメント 〜ベトナム企業の取材からわかったこと〜 連載(1)
製造業における人材育成において、最も多く挙げられる課題は「優秀人材の定着化」です。
各社の責任者は試行錯誤をしながら、この課題に取り組んでいることでしょう。しかし、有効な施策を打ち出せないまま、悩み続けている企業が多いのが現状です。
そこで、私が経営するベトナムのコンサルティング会社JIN-Gが、効果のあがっている取り組みを多くの企業の方々に紹介すべく、ベトナム国内での企業事例を取材調査することにしました。
本取材調査で明らかになった「優秀人材の定着化」に効果があると思われる企業の「考え方」や「取組事例」を、人材マネジメントの専門家として、ご紹介してまいります。
第1回である今回は、これまでの取材で明らかになった、人材マネジメントで大切だと思われる考え方を、お伝えして参りたいと思います。まず始めに、優秀社員を定着させる人材マネジメントを実践している企業にみられる「5つの特長」を掲げたいと思います。これらは、中国及び東南アジアの日系企業の人材マネジメント調査を繰り返してきた結果、定性的にでてきた項目です。本記事ではこの5つについて、残り5回の連載で詳しく解説して参ります。その際、弊社ホーチミンオフィスに所属するJIN-G社のスタッフが、実際に当該企業に取材をおこなって、事例紹介をして参りますので、ぜひとも愉しみにしていてください。
特長1 『ルールよりもマナーでマネジメントしている』(第2回掲載予定)
特長2 『金銭報酬ではなく非金銭報酬を意識的に活用している』(第3回掲載予定)
特長3 『リーダーシップよりもフォロワーシップを重視している』(第4回掲載予定)
特長4 『社内コミュニケーションは発信よりも受信の方が多い』(第5回掲載予定)
特長5 『人はレンタカーを磨かない、愛車(社)意識を持たせている』(第6回掲載予定)
まず第1の『ルールよりもマナーでマネジメントしている』というのは、筆者が中国の蘇州にある、とある日系製造業を訪れたときの現地社長(総経理)の言葉です。
この会社は、社員定着率がほぼ100%を誇る製造業です。新人研修を総経理が2ヶ月間実施するなど、教育への投資時間は他社をはるかに超えており、挨拶や掃除も自主的におこなわれ、指示されなくても、必要な仕事をその場で考えて行動できる社員ばかりが集まっています。
そして、あらゆる組織の課題はボトムアップで社員一人ひとりから提案がくるため、日々、業務改善がなされています。
さらに、社員が病気や怪我をしたときには、社員全員でファンドを組んで支援しあうなど、相互支援の文化があるため、他者の仕事をお互いに手伝いあっています。
総経理の教育ポリシーの第1にあげる言葉が「ルールとマナーは違う」というものです。
「マナーを徹底すればルールは最小限でも人は動く」と総経理は言います。
この発言の根底にある考え方を、次回ではホーチミンにある別の企業の取材結果を踏まえて明らかにし、ご報告したいと思っています。
次に、『金銭報酬よりも非金銭報酬を意識的に活用している』という点も大切な視点です。
例えば、海外事業拡大中の弊社のとあるクライアント企業では、「社員と顧客は第2の家族」という経営理念を世界中の社員に浸透させています。
その際、国境、国籍、及び言語の違いを超えたコミュニケーション手段として、映像をもちいてグループ全体を活性化する取り組みをしています。
さらに、エンゲージメントサーベイ(社員意識調査)を実施して、社員が大切にしている要素を明らかにして、具体的な組織活性施策を継続的に企画・実行しています。
実は、エンゲージメントサーベイの結果をみると、給与や賞与などの金銭報酬だけではなく、非金銭報酬をもちいた社員の動機づけが大切であることが明らかになりました。
金銭以外で「報われ感」をうみだすために、この会社は何をやったのでしょうか。第3回の特集で取材を踏まえて解説していきたいと思っています。
3番目は『社内コミュニケーションは発信よりも受信の方が多い』という特長です。
ベトナム進出当時から社内公用語をベトナム語にしている日系企業があるのをご存知でしょうか。
日本からの駐在員も、いきなり公用語ベトナム語の洗礼を受けるそうですが、1年間でベトナム語による会議ができるように全員が成長するそうです。
社内公用語をベトナム語にすることで、どのような効果が生まれたのか、取材によりあきらかにしたいと思います。
また、リーダーとしてのコミュニケーションは発信だけではなく受信が重要であり、受信をするためには1対1の対話を我慢強く時間をとっておこなうこと、インフォーマルコミュニケーション(公式ではない場所での会話の時間)が効果的であることなどを、別の会社の事例も紹介しながら解説していきたいと思います。
第4の特長は、『リーダーシップよりもフォロワーシップを重視している』ということを解説します。
組織活性化というと、リーダーのありようが議論されることが多いですが、実はリーダーのありようを議論するよりも、リーダーのそばにいるフォロワーのありようを議論した方が、リーダーシップチームは変化しやすいと言われています。
リーダーを育てることはできず、リーダーの周りにいるフォロワーを育てることでリーダーシップが組織の中に生まれるという事例を、取材によってあきらかにしたいと思います。
ここでは、各社のフォロワーが、リーダーに対して何を実践しているのかを、あきらかにしたいと考えています。
大切なのは、リーダーがフォロワーを対等に扱うこと、フォロワーは周囲に影響を一番与える存在であることを、リーダー自身が強く意識することです。フォロワー次第でリーダーの生死が決まるということを、事例であきらかにしてまいります。
最後に、『人はレンタカーを磨かない、愛車(社)意識を持たせている』という点です。とある製造業では、上層部が概算的な方向づけをしたら、現地人マネージャーだけで会社の行動指針を考える会議を、イベントとして定期的に開催したところ、自社のことを主体的に考える従業員が圧倒的に増加したといいます。
サッカーの岡田監督は、試合のビデオを選手と一緒にみている最中に、細かい指示をすることはなく「つぶやく」マネジメントを実践しているそうです。
実は、自社のことを誇りに思い、自社のために何ができるかを考える社員をうみだすためには、「質問する」「つぶやく」というコミュニケーションスタイルが有効だと言われています。
ここで大切なのは、会社をレンタカーのように思わせないこと、自分で購入した車を大切に掃除するのと同じような気持ちをどうしたら社員が持ってくれるのか、具体的な事例を用いながら解説したいと思います。
本記事はできる限り最新の情報を提供したいと思っています。
取材の結果、若干の内容変更があるかもしれませんが、それはより皆さまにお役に立てるものを提供したいという想いから実行するものであることをご理解ください。
最後に、筆者が経営をする上で大切にしている言葉を記述します。
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」(『愛蔵版 星の王子さま』 岩波書店 サン=テグジュペリ 作 内藤濯 訳より)。
本連載でも、目に見えない価値を、取材による生の声を届けることで、読者の皆さまに手渡しすることを目指して執筆して参ります。
どうぞ第2回以降もよろしくお願いいたします。