本当? 嘘? 軌道に上がった北朝鮮の偵察衛星の写真!
北朝鮮が11月21日午後10時42分に発射した偵察衛星(万里鏡―1号)を搭載した衛星キャリア・ロケット(千里馬―1号)が軌道に上がったことはどうやら日米韓の防衛当局も揃って確認したようだ。
発射から3時間以上経って国営通信の朝鮮中央通信が「高度494.6km~500kmを94分24秒で周回している」と報道した時点で「打ち上げは成功したのでは」と直感していた。
理由は幾つかあるが、その一つとして、失敗に終わった5月と8月の発射時はいずれも発射から2時間後に朝鮮中央通信がその事実を伝えたのに対して今回はそれよりも時間を掛けて発表していたからだ。衛星が周回していることを確認するためそれだけ時間を要したものと推測していた。
今後は、軌道に上がった衛星が軍事偵察衛星として正常に作動しているのか、機能を果たしているのかが焦点となる。
北朝鮮は偵察衛星が地上を撮影した写真をすでに受信したと、大々的に宣伝している。
朝鮮中央通信の報道を整理すると、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は衛星のコントロールセンターである国家航空宇宙技術総局平壌総合管制所を3度も訪れている。
1度目は発射から約半日経った11月22日午前10時
金総書記は地上指令による特定地域に対する航空宇宙撮影状況を調べる過程で22日午前9時21分に受信した太平洋地域グアム上空からアンダーセン空軍基地とアプラ港など米軍の主要軍事基地区域を撮影した航空宇宙写真を見て「我々の武力が今や万里を見下ろす『目』と万里を叩く強力な『拳』を全て、共に手中に掌握した」と語ったそうだ。
2度目は11月24日(訪問時間については不明)
金総書記は24日午前10時15分から10時27分までの間に木浦、群山、平沢、烏山、ソウルなど重要標的地域と北朝鮮の各地域を撮影した写真を見せられた後に国家航空宇宙技術総局から「明日(25日)午前の敵側地域に対する撮影計画と偵察衛星に対する追加細密制御計画について報告を受けた」とされている。
3度目は11月25日午前
金総書記は25日午前5時13分22秒にハワイ上空を通過した偵察衛星が撮った真珠湾の海軍基地とホノルルのヒッカム空軍基地などの写真も見たほか午前9時59分40秒から10時2分10秒の間に撮った鎮海、釜山、蔚山、浦項、大邱、江陵など重要標的地域の写真などを見たとされるが、その中には10時1分10秒に撮影された釜山の軍港に停泊している米海軍原子力空母「カール・ビンソン」も含まれていた。
この日、国家航空宇宙技術総局は金総書記に12月1日からの「偵察衛星の正式任務遂行着手のための運用準備実態について具体的に報告した」と、朝鮮中央通信は報道していた。
グアムには米海軍と空軍基地がある。朝鮮半島有事の際に約2時間で朝鮮半島に出撃できる「B-1B」戦略爆撃機などが配備されており、京畿道の平沢、烏山、全羅北道の群山、慶尚南道の鎮海、釜山、蔚山、慶尚北道の浦項、大邱、そして江原道の江陵には米韓の作戦司令部を含め陸・海、空軍基地を含む軍事施設が多数点在している。
北朝鮮の発表とおりならば、北朝鮮の偵察衛星は韓国にとっては大きな脅威となる。しかし、韓国当局は北朝鮮が衛星から受信した写真を公開しない限り、正常に作動していると認めるわけにはいかないとの立場を崩していない。また、仮に本当に衛星が軌道を周回し、軍事施設の写真を撮ったとしても解像度が不鮮明である可能性が高く、偵察衛星としては使い物にならないと分析している。
韓国が懐疑的な見方をするにはそれなりの理由がある。
北朝鮮が1998年に10kg程度の搭載体を発射した時「衛星からモールス通信が27メガヘルツで地球上に電送された」と発表したものの友好国の中国、ロシアも含めどの国も信号も確認できなかった。
また、2012年に打ち上げた実用衛星「光明星―3号」(約100kg)も2016年に観測用のカメラと通信装備を搭載して打ち上げた「光明星―4号」(約200kg)も軌道には上がったものの地上との交信は皆無で、写真も電送されることはなかった。「光明星―3号」は昨年9月に、また「光明星―4号」は今年7月にそれぞれ、落下し、消滅してしまっている。
今回、北朝鮮は偵察衛星「万里鏡―1号」(約500kg)で韓国内の軍事基地を撮影したと発表しているが、韓国当局は「カール・ビンソン」の釜山港への入港も含め偵察衛星を使わずともどれもこれもすでにその位置が確認されているものばかりなのでそれ自体は「証拠にはならない」としている。また、仮に衛星写真が存在するとしても、すべてが午前中に撮られたものであり、夜に撮ったものが1枚もないことからさほど脅威には感じてないようだ。
どちらにしても、北朝鮮が衛星写真を公開しない限り、韓国は北朝鮮が軍事偵察衛星を保有したとの評価を留保するものとみられるが、北朝鮮が撮影した写真が軍事機密に属するとして秘密扱いにした場合、また写真が不鮮明な場合は公開する可能性は極めて低いものとみられる。従って、北朝鮮の偵察衛星発射の成否を判断するにはもうしばらく時間を要することになるであろう。