2年間にわたるPS5の品薄に解消の見通しも… 将来はどうする?新型ゲーム機の販売方法
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」の世界累計出荷数が3000万台を突破し、メディアなどで「品薄が解消される見通し」と報じられました。各種データでも同機の出荷台数が増加し、中古市場での売却価格も「希望小売価格」をようやく下回ってきました。しかし、2年間も品薄に苦しんだのも事実。そのため、将来の新型ゲーム機の発売時に、対策をどうするかは悩みの種になりそうです。
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◇新型ゲーム機 今後も狙われる可能性高く
家庭用ゲーム機は、もともと発売直後は品薄になりやすい商品です。一時的に「売り切れ」でも、概ね数カ月から半年でだいたい解消されるのが常でした。しかし、近年は変わりつつあります。長きにわたって転売に苦しんだPS5もそうですし、2020年の新型コロナウイルス感染拡大直後のニンテンドースイッチも同様です。中古市場の売却価格が、希望小売価格を上回る価格で取引される状況になり、メディアでも都度報じられました。
苦しんだ理由を考えてみましょう。まず、需要と供給のバランスが大きく崩れ、立て直すことが大変だったこと。新型コロナの感染拡大以後は、「巣ごもり需要」でゲーム機の需要が高まった上に、世界経済の混乱、流通網の混乱、部材価格の高騰で供給が大変だった状況が重なりました。特に流通網の混乱は痛手で、それがなければより素早い増産が可能になり、もっと早い時期に品薄が解消した可能性もあります。
そして、フリマアプリやネットオークションの存在です。誰しもが「購入希望者」を見つけるのが容易になったことで、人気商品を入手しさえすれば、フリマで売り飛ばして、簡単に「金稼ぎ」ができてしまう“ビジネス”になりました。フリマアプリでは、店頭で売り切れている人気商品が、「定価」や「希望小売価格」「実勢価格」をはるかに上回る値付けをされてずらりと並ぶ状況が発生することがあります。ゲーム機以外でも、多くの人気商品がターゲットになっています。
厄介なのは、人気のゲーム機は元々高額で、購入希望者も多いため、「効率の良い転売商材の一つ」という位置づけになったことです。さらに、この数年で「ゲーム機の転売はもうかる」という“実績”ができてしまったため、今後も狙われる可能性が極めて高いことです。
ゲーム機のビジネスサイクルでは、数年に一度のペースで新しい商品を出す流れにあります。後継の新型ゲーム機や強化機が発売されるとしたら……。誰でも予測のつくところでしょう。
フリマアプリは便利なツールで、要は使い方の問題です。可能ならフリマアプリの運営側が、悪質な転売の防止に取り組んでほしいところ。しかし転売が違法ではなく、手数料ビジネスでもあるため、防止に積極的でないのが現状です。
◇異なる視点 ファンとビジネス
転売に不満なのは、商品の欲しいユーザーもそうですが、メーカーはそれ以上かもしれません。自社商品の人気に便乗された上に、転売の不評はメーカーに苦情が行き、その結果ブランド価値も棄損されるのですから。「転売で売れるから、メーカーも儲かる」という意見もあるようですが、私が取材する限り、メーカー側から転売に賛同するという趣旨のことは一度も聞いたことがありません。
そんな中で、昨年11月に実施された「PS VR2」の予約受付の条件が、「転売対策として優れている」などと話題になりました。PS5かPS4で1年間(2021年11月1日~2022年10月31日)、20時間以上のプレーをしたアカウントが必要というもの。普段からゲームを遊ぶ人しか買えないようにしたのです。
PS VR2は、PS5で本格的なVRのゲームが楽しめる機器で、価格はPS5の本体(約6万円)を上回る約7万5000円(正確には7万4980円)です。価格も張るためかなりのコアなゲームファン向けの商材で、アカウントで顧客の情報を識別していることから、管理的な販売をするには向く商品とも言えます。今年2月に発売される同商品が、実際に市場で狙い通りにゲームファンに行きわたり、さらにしっかり売っていけるのか注目です。ぜひともうまく行ってほしいと思います。
とはいえ、この販売手法を、そのまま、新しく発売される(であろう)家庭用ゲーム機にそのまま当てはめればいい……と言えば、難しいところでしょう。ゲームファン視点で見ると、転売を防ぐことができ、自分たちに行きわたる意味では、優先販売は理想的です。
ただし、ビジネスの視点から見ると、それだけでは困ります。ゲーム機の販売は、充実したソフトをそろえることも重要ですが、ブランド価値を高めることも軽んじるわけにはいきませんし、世間的な盛り上がりも大切です。
今でこそイメージは違いますが、かつて任天堂のゲーム機は「子供のおもちゃ」的な扱いをされた時代がありました。実際、任天堂は「プレイステーション」のブランディングのうまさに注目し、プロモーション戦略でも工夫をしてきました。その積み重ねもあってこその今です。そして当のソニーも、欧州サッカーの「UEFAチャンピオンズリーグ」で「PS5」をアピールするなど、イメージアップには余念がありません。
ビジネスの視点で見ると、新型ゲーム機の販売について、コアユーザーを優先し、それをクリアしてから一般ユーザーに売るという戦略が妥当なのかは、微妙なのですね。本来は、発売直後から誰もが買えて、世間的に盛り上がってブームになるのが理想。従来はそこさえ考えればよかったのですが、そこに「転売」というビジネスが割り込んできて、複雑にしているのですね。
仮に、ゲーム機について、コアユーザー優先の販売方法を取ったとします。当然、アカウントに関連付けるため、メーカー直売になるでしょう。しかし販売店にとっては困ります。目玉商品がないのですから、ゲームを推す理由がなくなり、販売スペースは消滅・縮小する方向に行きかねません。ゲームのロイヤリティー(忠誠心)の高いユーザーはそれでも良いでしょうが、ミドル・ライト層がついてきてこそ、ゲーム市場は広がります。つまり、ビジネスとしては、好ましい状況ではないのです。
直売については、否定的にならざるを得ないのですが、やると実際にはうまく行く可能性もゼロではありません。なぜなら、転売を防止するための販売方法は、試行錯誤するしかないからです。その中から、転売を排除できる画期的な販売システムが生まれるかもしれませんが、売り方を変えればリスクを背負うのです。かといって、放置しても「転売横行→ブランド棄損」というリスクを背負うわけで、どちらに転んでも難しさがあるのです。
そして最も無難なのは、現状を変えずにその都度対応することでしょう。それは、新型ゲーム機の発売時に、転売をビジネスにする人々を喜ばせることを意味します。本当に悩ましいのです。
家庭用ゲーム機が世界で売れる商品になるほど、初期の購入希望者が増え、需要と供給のバランスを取ることが(特に発売当初は)難しくなります。予想が外れて不人気商品を生産してしまうと赤字になりますし、予想以上の人気を集めると、品不足になるという構図です。経済や流通の混乱があれば、需要と供給のギャップはさらに大きくなるのです。
PS5の品不足が解消する方向にあるのは喜ばしいのですが、転売にどう対策するのか。依然として課題は残されています。