近鉄内部線・八王子線の存廃問題に思う
近畿日本鉄道といえば、大手私鉄最大の路線網を持つ会社です。会社案内によりますと、総延長は508.1km。保有車両数は1940両。1日の輸送人員は約155万人。大阪・名古屋・京都・奈良の大都市を抱え、都市間や伊勢・鳥羽方面にバンバン特急を走らせています。もうすぐ伊勢志摩方面に新型特急「しまかぜ」がデビューします。頼もしいです。骨太な鉄道会社という印象です。
さて、その近鉄の大きな路線網には、意外にも小さな電車を走らせる短い路線があります。近鉄内部線と八王子線です。場所は三重県四日市市。内部線は近鉄四日市駅から南西方向へ向かう5.7kmのミニ路線。八王子線は、内部線の途中の駅から分岐する1.3kmのミニミニ路線です。
内部線、八王子線の可愛らしさは、路線の短さだけではありません。電車がちっちゃいんです。もともと軽便鉄道として造られたそうで、左右のレールの間隔は762mm。新幹線(1,435mm)の半分くらいです。電車の車体長は15m。幅は2mくらいでしょうか。ゆりかもめ(東京)やニュートラム(大阪)よりは大きいけど、電車としては小さい。小さいけれど、地元の人々にとっては大切な交通機関です。
この可愛い電車と線路が廃線の危機です。理由は言わずもがな。赤字です。
2012年1月ごろ。近鉄が四日市市に対して「2013年の夏頃までに車両を更新しなくちゃいけない。それまでに今後の方向性を決めたい」と申し出ました。この時、すでに四日市市は近鉄に対して、車両更新や駅前整備の補助金の拠出を決めていたようです。でも近鉄の本意は「廃止したい。廃止したら補助金の予算が無駄になっちゃいますよ」でした。
近鉄の意向を受けて、四日市市は2012年6月に総合交通政策調査特別委員会を設置しました。内部・八王子線の存続問題を審議するためです。
近鉄内部・八王子線が廃線危機 議会で存続策検討 三重(朝日新聞)
その審議の結果、四日市市は同年8月に「鉄道として存続させてほしい」と近鉄に要望しました。ところが近鉄からの回答は「鉄道を廃止してBRTに転換したい」でした。経営努力を続けたけれど、年間で3億の赤字なんですよと。でも、鉄道廃止、即撤退では公共交通機関を担う企業としての無責任だから、赤字を小さくできるBRT(バス高速輸送システム)に転換したいそうで。
四日市市に、来年夏、つまり2013年夏までに方針を決めてください、と要望しています。
ここからしばらく報道はありません。鉄道を残したい四日市市と、鉄道をやめたい近鉄との平行線です。そして2012年12月、近鉄は再度、BRTを提案しました。
近鉄が路線を維持するならBRTがいいです。老朽化した鉄道車両は、きっと来年夏以降は持ちません。だから夏までに結論を出してください、というわけです。
これに対して、四日市市長は今年1月の記者会見で鉄道存続を主張しています。
四日市市「バスは選択肢にない」 市長、鉄道存続重ねて主張(伊勢新聞)
ざっくりまとめると「BRTにする気はない」「鉄道で残した場合の年間3億の赤字補填もしにくい」「他の方法を検討している」だそうです。そして近鉄に対して「公益事業を担っていることの自覚を持って判断してもらいたい」と注文をつけました。
さて、ここまでが経緯。ここから私の意見です。
「公益事業は自治体がやるべきです」
「鉄道会社に公益事業の自覚を求めても無理です」
確かに鉄道は公共交通機関と言われています。
きっぷを買えば誰もが平等に移動できる道具です。
しかし、四日市市長さんは勘違いされていらっしゃる。
日本の歴史上、公益事業の自覚を持った民営鉄道会社なんか、ほとんどありません。いまだってありません。ビジネスです。お金儲けでやってます。だから赤字の路線はやめたいんです。
これは悪いことじゃありません。民間企業だったら赤字部門の整理は当たり前です。どうして鉄道会社だけが、利益より公益を優先しなくちゃいけないんでしょうか。
ここをきちんんと理解しないと、自治体と鉄道会社の考え方の溝は埋まらない。落とし所も見えないと思います。