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自民党のブラック企業対策案は、人気取りにすぎない

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

「ウチの会社、ブラック企業だと思われていないですかね?」

企業の採用担当者と会うたびに、こんな相談を受ける。学生の間で悪い噂がたっていないかどうかなどは気になるようだ。

「ブラック企業」という言葉が話題になっている。この件が社会問題であることは間違いない。00年代後半からこの言葉はネット上を中心に話題となり、『ブラック企業に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』というタイトルの映画まで公開された。社会問題としてこのテーマに踏み込んだ『ブラック企業』(今野晴貴 文春新書)は10万部に迫るベストセラーになっている。3月には『週刊東洋経済』がユニクロの労働環境などをめぐる問題に斬り込み話題になった。

ただ、この問題はいつもねじれた議論になりがちだ。というのも、ブラック企業の定義というものが明確ではなく、各自が思い込みで論じるため、いつもねじれてしまう。例えば、「世の中の企業はすべてブラック」「不当解雇にサービス残業くらいはどこの会社にもある」「最初はブラック企業に入った方が鍛えてもらえる」などの言説である。一重に、ブラック企業という言葉の定義がそろっていないから起こっている問題なのではないだろうか。ちなみに、前出の『ブラック企業』における、定義は「若者を食いつぶす企業」である。もちろん、これだけがすべてではないだろう。ブラック企業という言葉が広がったことにより、我が国での働く環境が劣化していることや、若者を中心に過酷な労働を強いられている人たちがいること、そして、そのような環境に異議申立てをできるようになったことは評価するべきだろう。ただ、この言葉の使われ方が曖昧になっていることもまた問題であり、ねじれた議論を呼んでいると言える。

ブラック企業関連の最近の大きなニュースと言えば、自民党が夏の参議院選の公約にブラック企業対策を盛り込むことを検討している件である。新聞各紙の報道によると、自民党の雇用問題調査会は近くまとめる低減に、早期離職者が高い企業など若者を使い捨てする企業の対策強化を盛り込む方針だ。具体的には(1)重大・悪質な場合の司法処分と企業名の公表(2)問題企業への就職抑制策の検討(3)相談窓口の開設などを検討中だという。

この報道を聞いて、ブラック企業対策が実に難しいことを再認識した。これは対策になっているようで、そうならないだろう。ブラック企業という流行語にのっかった人気取りではないかとすら思ってしまった。

これでは00年代後半から続くネット上でのブラック企業都市伝説を面白がる風潮とまるで変わらないのではないかと考える。そもそも、ここで対策としてあげられている3つの提案はすべて機能しないのではないかというのが率直なところだ。

(1)重大・悪質な場合の司法処分と企業名の公表

→不当解雇やサービス残業などは問題だが、そのようなものはなかなか表面化しない。あるいは異議申立てをしづらい。また早期離職については、これは、リクルートやアクセンチュアのように、独立志向の自立型人材が多数入社し、どんどん卒業していく企業なども早期離職が多い会社に数えられてしまうとしたら問題だ。早期離職というのは単に数字だけで把握してはいけない問題である。

(2)問題企業への就職抑制策の検討

→就職抑制策がどのようなものなのかによるが、国がどこまで介入するかというのもまた問題だし、機能するのかどうか、大きく疑問が残る。

(3)相談窓口の開設

→これは、まだ意味があると考えるが、ただし、ブラック企業の問題の隠蔽は実に巧妙だ。また公的な機関の相談機能は、相談員のレベルにより品質が大きく左右されるという問題をはらんでいる。3つの施策の中では、実はもっとも必要なものではあるが、機能するのかどうか、多いに疑問である。

単なるブラック企業狩り、晒しは、イタチごっこにしかならない。この手の施策をもしやるとするなら、より有効に機能するにはどうすればいいかを再度検討を願いたい。

ブラック企業問題は、まず、ブラック企業という言葉をこえて、労働における違法行為や、労使で起こる問題を定義することから始めなくてはならない。

そのためには、まずは、労働者にブラック企業リテラシーを伝えることから始めてはどうだろうか。じわじわと効いてくる策は、ブラック企業に代表される労働問題について、労働者にちゃんと知識をつけることだと考えている。最低限知っておくべき労働法や、労働市場の前提、労働のルール、困ったときの対策法は普通に働いていても知らないものである。教育機関での労働教育強化(キャリア教育ではない)、社会人向けの公的機関での労働教育などに取り組むのも、即効性はないが、じわじわ効いてくるのではないかと考えている。

ブラック企業対策はいま、取り組むべき問題だが、企業名を晒すなどで解決する問題ではないのだ。それこそ、ブラック企業対策がブラック化しないことを祈っている。荒っぽい対策よりも、中長期で雇い方、働き方をどうするかという視点が必要だ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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