エホバの証人の調査からみえてきた 深刻な児童虐待の実態 岸田首相「決して許されるものではない」と答弁
2023年11月20日、エホバの証人問題支援弁護団は、エホバの証人2世らに向けたアンケートを行い、実態調査報告書を発表しました。その内容は深刻なものでした。
22日には、今回の児童虐待に関する調査結果を受けて、国会でも質疑応答が行われました。
立憲民主党の梅谷守議員から「鞭打ちされたことがあるか(への質問)に『はい』(の回答)が92%、教理を理由に特定の授業や特定の学校行事に参加できなかったことがあるかには『はい』が96%です。これが最も重い数字だと思っているのですが、輸血拒否カードまたは身元証明書を持っていたことがあるかには、『はい』が81%です。輸血がかなわず手術ができない子供や、亡くなっている子供など被害者が出ていることをどう思うのか」との質問があり、岸田文雄首相は「児童虐待は、宗教の信仰といった背景があったとしても、これは決して許されるものではない」と答えています。
581名から回答。予想を超える内容も
会見の冒頭で田畑淳弁護士は「今回の質問項目は、大学教授ら外部専門家の精査を受けて作成されたもので194項目にも及びます。長い方では5時間を要する質問に対して、581名もの人たちから回答が寄せられました。弁護団にとっても、予想を超える内容でした」と話します。
これまで問題視されてきたものに、「鞭打ち」「輸血拒否」「忌避(一切の関係を断ち切り、破門された信者との交流を一切、避けること)」などがあります。
「鞭をされたことがありますか?」には514人が「ある」と回答
「鞭をされたことがありますか?」の質問には92%にあたる514人 (この質問に対して回答があった数『ここでは560 名』を母体として計算しています。以下同)が鞭を経験したと回答していますが、他にも伝道に行き始めたのが18 歳未満と回答者を対象にした「伝道に行かなければ鞭をすると言われたことがありますか?」の質問に対して「ある」との回答が264人、49%と半数に上っています。
エホバの証人による布教活動では、よく小学生くらいの子供が一緒にいるのをみかけます。私も1990年代の統一教会の信者時代に伝道活動をしていると、子供を連れたエホバの証人の信者たちとよくかち合いました。
ある時、その子供が、助けを求めるような悲しそうな目を向むけてきたのを忘れることができません。その理由も今回の調査により、明らかになっています。しかし今となっては、そのような嫌がる目をむけたことで、また親に鞭を打たれているかもしれないと思うと、いたたまれない気持ちになります。
エホバの証人の組織性、継続性が浮かび上がっている
田中広太郎弁護士は、一連の質問結果から「宗教虐待Q&Aにあたるような児童虐待が全国各地で、長い期間にわたって同じように行われていたことが報告されており、エホバの証人の組織性、継続性が浮かび上がっている」といいます。
「輸血拒否カードまたは身元証明書を持っていたことがありますか?」の質問に81%もの人たちは「はい」と答えています。宗教虐待Q&Aでは「医師が必要と判断した治療行為(輸血等)を行わせない」ことはネグレクトにあたるとしていますが、これは組織的に行われていることを裏付けるデータといえます。
何より子供たちは教義に背くと行動をすると鞭を打たれたり、輸血拒否の意味を十分に理解していないなかで、カードを持たされていることは問題視されるべきことです。
新しい指示「妊娠中の女性のための情報」も明らかにされる
田中弁護士は、調査で非常に大きかったポイントとして「回答の参加者のなかに、複数の長老といわれる現役の幹部たちがいた」ことをあげます。
長老は一般には入手できない出版物や、9割以上の一般信者が見ることができないという情報にアクセスできる権限をもっているということです。そのなかに驚くべき「新しい指示があった」といいます。
「S401と呼ばれる『妊娠中の女性のための情報』というものがあり、それが改訂されて、新しいS401には、次のような文言が記載されています。『早産で生まれた赤ちゃんは、新生児集中治療室で治療を受ける必要があります。医師に、赤ちゃんが輸血以外のあらゆる方法を駆使して治療を受けられるようにお願いしてください』そして、新生児が深刻な黄疸になったことに関しては『輸血以外の方法でどう治療できるか。新生児科の医師と相談してください』とあります。これらの文章は、児童虐待(医療ネグレクト)に該当する行為の推奨としか言いようがありません」と田中弁護士は厳しく指摘します。
指示された時期にも注目
これを行った時期に注目すべきとしています。
厚生労働省(現こども家庭庁)は、今年3月31日に教団の関係者と会合を持ち、児童虐待や、子供への輸血を拒否するような指図、強制をしないことを申し入れています。それに対して教団は「要請に応じて、日本のすべての信者に、宗教虐待Q&Aを周知させて、児童虐待行為を容認していないことを表明する教団通知を5月10 日付で送付した」としています。
しかし、改訂されたS401は、この教団通知後に出されたものです。
同弁護士は「厚生労働省からの要望を受けて、全信者に通知を出し、3ヶ月もたたないうちに、2つの新しい文言を入れて、新生児における輸血拒否を勧めている。政府の提言に『喜んで協力する』と言いながら真逆の行動をとっている」といいます。
しかも、この文書の冒頭には「この資料は特定の治療法を薦めたり、あなたの代わりに決定したりするためのものではありません。この情報を使って、自分で考えて決定してください」というものが入っているとも話します。
「自分で考えて決定してください」が欺瞞的に思える理由
筆者が特に問題だと思っているのは、この冒頭の文言です。まるで信者の自己責任で行うような内容になっていますが、これをみて、教団の欺瞞性がみえてくる思いです。
「自分で考えて決定してください」とありますが、教義上は、輸血をすることは禁じられており、子供に輸血をすれば、その禁を破ることになります。
何より近い将来、ハルマゲドン(近い将来に起こる「エホバ(神)」と「サタン(悪魔)」との戦争)により、全人類は滅ぼされ、エホバの証人の教えを信じた者だけが生き残ることを信じて、恐怖心を刷り込まれている人たちが、禁を破る行為をできるはずがありません。「輸血しない選択をする」という結論に導かれることがわかっていて、付け加えられている文章です。
何より愛するわが子となれば、親として救いの道が絶たれることを実行できるわけがありません。そうした親心を知っていて「自分で考えて決定してください」などという文言をわざわざ入れている。これは非常に欺瞞的で「組織として指示するものではない」と、責任回避する意図の文章と捉えられても仕方のないものです。
カルト思想団体は、組織としての責任を認めずに、信者に押し付けようとする
「長老たちは妊娠したことがわかった女性がいたら、これを渡したり、これを示したりして個別で指導するような運用になっている」(田中弁護士)とのことで、もし文書の指示通りの行動を親が取り、新生児が亡くなった時に責めを問われるのは、指導を行った長老であり、信者である親たちになります。すなわち、組織の下の信者たちがすべての責任を負うことになります。
得てして、カルト思想を持つ団体は、組織としての上層部の責任を認めずに、信者らにそれを押し付けようとします。それは旧統一教会の問題にもみられることです。
旧統一教会は、霊感商法などにより甚大な金銭的被害をもたらしましたが、それは教団が組織として指示して行ったことではなく「信者らが勝手にやった行為」としています。
真面目に教団の指示に従った者たちが、被害を生み出した責任を負わされるような形になっています。まさに、それと同じ構図がみえていて、真面目に信仰するものほど、苦境に追いやられてしまう、現信者の立場を非常に危惧しています。
弁護団は、今回の調査結果を受けて「宗教虐待Q&A をすべての信者に対し周知すること」「宗教虐待 Q&A に規定された虐待行為を、信者が子供に対して行うことを認めない旨を周知すること」「教団の信者に対する指導、指示、推奨に起因して、児童虐待被害に遭った2世等への謝罪をすること」などをエホバの証人日本支部に要求しています。
輸血等の治療拒否を含めた調査結果が、今年度中に取りまとめられる予定
こども家庭庁の加藤鮎子こども政策担当大臣は、国会答弁で「輸血等の治療拒否を含め、本年10月に開始した調査研究事業において、全国の児童相談所や救急救命センターを設置する医療機関に対し、虐待の具体的な事例や対応上の課題などについての調査を開始しております」として、今年度中に調査結果が取りまとめられるとのことです。
岸田首相も医療ネグレクトに対して、今後「法的な対応と何が必要なのか、政府として判断をしてまいります」と話しており、今回の調査結果は、今も親による信仰の強制のなかで、絶望と悲しみの淵で苦しんでいる子供たちを救い出す、大きな助けになることは間違いありません。