凶悪囚人が演劇に目覚める映画『アプローズ、アプローズ!』、監督は「売れなかった」元舞台俳優
フランスの実話をもとにした映画『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』。
売れない俳優・エチエンヌ(カド・メラッド)がひらいた刑務所内での演技ワークショップをきっかけに、囚人たちが演劇の魅力にとりつかれ、刑務所外での公演に臨んでいく同作。メガホンをとったのは、『灯台守の恋』(2005年)の脚本なども手がけてきたエマニュエル・クールコル監督。2020年のカンヌ国際映画祭でも上映され、好評を博した。
「演劇は人生や生き方を変える」
同作の見どころは、囚人たちが本気で演劇に取り組んでいく様子だ。クールコル監督自身も舞台俳優出身とあって、その気持ちの変化には共感することができたという。
「演劇は、人の人生や生き方を変えたりすることができると思います。刑務所に入っている人だけではなく、誰にでもそういう影響が与えられるもの。私は芸術家の家庭で生まれ育ったわけではありませんが、演劇をやることによって考え方が変化し、感情、想像力、クリエイティビティも豊かになっていきます。その人にとっての扉をひらくもの、それが演劇だと思っています。舞台上で体を張って自分の五感を使って動く。それが人の奥深いものを引きだしていく。この映画に登場する囚人たちは、おそらく今までそういう経験が一度もなかったはず。刑務所内で拘束されている状態のなかでそういうことをやっていくので、より強く、彼らは演劇に魅了されていったのではないでしょうか」
ただ、悪事を働いて投獄された面々だけに、すんなり改心するわけがない。さまざまな揉め事を起こしながら、芝居に励んでいく。そういった人間模様がユーモラスに映る部分もあり、同作は第33回ヨーロッパ映画賞ヨーロピアンコメディ作品賞を受賞した。
「ユーモアというのは、文化や個人の感覚によって違ってくるもの。私の場合は、すごく不条理な状態を『おもしろい』と感じます。ちょっとした違和感をはさみこむことで、笑えるものになっていくと思っています。特に影響があるのは、イギリスのソーシャルコメディ。賢く笑わせて、それと同時に人生、社会、自分の在り方とかを考えさせる内容。爆発的に人気になるテーマではないですが、しかしそういうユーモアの形が好きです」
「自分も大舞台に立ってすごい役をやりたかった」
なかでも、イギリス生まれの世界的コメディグループ、モンティ・パイソンは大好きだったという。
「モンティ・パイソンは、若い頃にたくさん見ました。キレちゃったユーモアがありますよね。私の映画は、モンティ・パイソンとはちょっとテイストが違いますが、ただ同じくイギリスのコメディ映画『フル・モンティ』(1997年)には似ている気がしています。深刻さとすごく笑えるものの両方を兼ね備えている部分が良いなって」
長編映画は今回が2作目。クールコル監督は「私は、自分が本当にやりたいことをやりきれていない」と語る。
「舞台俳優をやっていたときは、すごくフラストレーションをかかえていたんです。大舞台に立ってすごい役をやりたかったけど、思ったようにはいかなかった。そういうなかで『他のこともやってみよう』と、映画監督になりました。いまはすごく幸せです。もうフラストレーションもありません。ただし、どんな仕事でもプロジェクトに対して心残りは必ずあります。だからこそ、次々とプロジェクトをすすめていきたい。それがあるから、映画監督を続けることができるんです」
映画『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』は全国公開中
配給:リアリーライクフィルムズ/インプレオ
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