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専業主婦(夫)の第3号被保険者制度と配偶者年金は廃止か改正に向けて調整か?

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
厚労省のイメージです。(写真:イメージマート)

2024年5月13日に厚生労働省の社会保障審議会年金部会が開催されました。議題の1つは専業主婦(夫)が年金保険料を負担せず国民年金に加入し老齢基礎年金等を受給できる「第3号被保険者」について。自営業者や共働き夫婦に比べて、優遇されているとの批判もある同制度。一方では日本の成長を支えてきた制度とも言えます。どのような論点があり、今後どのようになるのか考えてみましょう。

■第3号被保険者とはどんな立場なのか

公的年金制度のうち国民年金は20歳以降に加入し、60歳まで加入が続きます。その中で、学生、自営業、無職の人は第1号被保険者というグループになります。会社員と公務員はもう1つの公的年金である厚生年金にも加入し、第2号被保険者というグループになります。第3号被保険者は、①第2号被保険者に扶養されている配偶者で、②年収130万円に満たない人が対象となります。会社員と公務員の配偶者がいる専業主婦(夫)又はパート・アルバイトで働く人だと考えてください。

戦後主流となる働き方であり、ひと昔前ですとお父さんが収入を得るために働き、お母さんが家庭のために無償労働する、という生活スタイルに合わせた制度と言えます。

社会保障審議会年金部会資料です。
社会保障審議会年金部会資料です。

今時そんな余裕のある家は無い!と言われてしまいそうですが、まさに最近は第3号被保険者の数も減っています。単身世帯、夫婦のみ(子なし)世帯が増え、夫婦と子の世帯が減っています。夫婦のみ(子なし)世帯でも第3号被保険者の場合もありますが、専業主婦世帯(430万世帯)は減少し、共働き世帯(1191万世帯)は増加しています。

社会保障審議会年金部会資料です。
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社会保障審議会年金部会資料です。
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■第3号被保険者は何が問題視されているの?

国の制度ですから、何が悪いの?と不思議に思っている人もいるかもしれません。国の制度なのですから第3号被保険者が悪いということはありません。違法でも脱法行為でもありません。会社員や公務員と結婚し、家事に専念したり、諸事情で働けない人を、第3号被保険者というラベルを貼っているだけです。

ただ、制度は時代とともに変化するものです。第3号被保険者が主流から少数派になっている現実があります。そのため、「国民年金保険料を納付していないのに、将来老齢基礎年金(他の基礎年金含む)が受取れるのは不公平である」という議論があります。

この点に関して正にその通りだと筆者も感じます。第3号被保険者は時代の要請に従い、また時流に合わせて(忖度や合理的な配慮も含めて)設計されています。第3号被保険者が主流の時代に、不公平を唱えても既得権を持つ人が多いことから、権利を持たない人がいくら不公平だと叫んでも、官庁や国会も動きません。

ところが、今や第3号被保険者が非主流になっています。単身や共働き世帯が主流となれば、第3号被保険者限定の優遇措置に納得がいかないことは容易に想像がつきます。制度を知っていれば「何で私は働いて保険料を納付しているのに、第3号被保険者は保険料を負担せず将来年金が受取れるの?」と考えて当然です。

他にもジェンダーの平等に反しているという意見もあるようですが、専業主夫という立場もありますので主要論点とは言えないと感じます。また、女性の自立を阻害しているという意見もあります。この点は筆者も同意です。既婚女性や子育て中の女性の中には、家庭内での社会保険料の負担が増え内容年収130万円(勤務先の規模によっては106万円)を超えないように働き方を調整したり、所得税や住民税が課税されないよう年収を100万円(103万円)以内に抑えようとする人が多くいます。

長年の慣習を脱却したり、意識改革をすることは難しいのですが、厚労省として、いくら稼ぐと社会保険料の納付がいくら必要となるかの試算できるウェブサイトを作成すると、一定割合の方の意識改善につながると思います。

■問題の本質は年金財政の収支にあり

どのような資料に基づき議論されたのかは、こちらを参照してください。

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001253468.pdf

誰が議論しているかはこちらを参照してください。元芸人のあの人が委員!?

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001253470.pdf

第3号被保険者制度について

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001253464.pdf

筆者は今回のテーマの本質は、社会保険制度の維持に伴う一種の増税だと考えています。高齢化に伴い社会保険関連の支出が年金、医療、介護と増加の一途を辿ります。一方で、少子化対策が30年以上継続して失敗し続けています。そのために、世帯間、世代間の断絶を利用している側面が否定できません。

年金に限らず各種財源のバランスを考えれば、年金保険料を納付していないのに公的年金を受け取ることができることは、収入が無いのに給付という支出を増やすことになり、バケツの穴を広げることになります。バケツから出る水を減らすことは容易ではないため、バケツに入れる水を増やすには、働いてもらいたいのです。働いて社会保険の扶養から外れて、厚生年金に加入して欲しいのです。

130万円の壁を超えてくれれば、第3号被保険者から第2号被保険者に切り替わるため、給与天引きで公的年金保険料を徴収することができます。年金保険料がゼロからイチになるのですから、社会保険の運営側からすれば推進したいところですが、賢い第3号被保険者は130万円の壁を超えようとしません。103万円の壁など別のトラップがあるため、130万円の壁まで辿りつけないのかもしれません。

そのため、第2号被保険者に該当するための要件を見直すことで、一定の収入のある第3号被保険者を第2号被保険者扱いにする制度の変更を行っています。

個人的には、130万円の壁は106万円の壁に下げるより大きく引下げ、住民税や所得税の課税水準よりも低い75万円の壁まで下げる案もあるかもしれないと考えています。厚生年金保険や健康保険の標準報酬月額の最低ラインは月収63,000円未満となっています。6.3万円×12か月=75.6万円です。この水準で第3号被保険者を第2号被保険者にすれば、国民年金保険料の納付はありませんが、厚生年金保険料の納付が発生します。

標準報酬が低いと、厚生年金保険料が国民年金保険料を下回る現象が発生しますが、この点を不公平だと論じる意見は今のところ少なそうです。

130万円の壁(勤務先によっては106万円の壁)を維持していても、最低賃金が大幅に上昇することで、自動的に130万円の壁を超えてくる可能性もあります。130万円手前で働く時間を抑制している人は、長期的な賃金上昇とともに自動的に第3号被保険者から脱することになります。

第3号被保険者の絶対数が減っていけば、第3号被保険者を第1号被保険者に統合しようという話もでてくるかもしれません。

今後は、130万円の壁を引下げつつ、オセロのように第3号を第2号被保険者に変えていく段階と言えそうです。

いきなり廃止にすることはできませんので、段階的に第3号被保険者世帯を減らす工程を経るものと思われます。

今後は、専業主婦(夫)の今までの権利を守る側が守勢に立たされる方向性となりそうです。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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