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新型コロナ後遺症を約4割減らす薬剤が同定 メカニズムは?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナ後遺症(罹患後症状)は世界的に社会問題になっており、これを抑える薬剤が心待ちにされていました。さて、まったく別分野の薬剤が後遺症リスクを大きく低減することが示されました。これについて解説します。

後遺症は炎症の残存が原因

肥満や糖尿病がある人は、新型コロナの重症化リスクや後遺症リスクが高いとされています。アルファ株やデルタ株の時期には、未治療の糖尿病患者さんが重症化してよく搬送されてきました。

新型コロナ後遺症は、ウイルスの断片が体内に留まって、それが薪(まき)の燃えさしのようにくすぶっている状態と考えられています(1)(図1)。

図1.新型コロナ後遺症のメカニズム(文献1などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)
図1.新型コロナ後遺症のメカニズム(文献1などを参考に筆者作成)(イラストは、いらすとや、看護roo!より使用)

症状は多彩で、疲労感・倦怠感、咳・痰、息切れ、胸痛、動悸、脱毛、集中力低下(ブレインフォグ)、頭痛、抑うつ、味覚・嗅覚障害、下痢、不眠などさまざまです。

後遺症リスクを大きく減らす薬剤が同定

さて、2型糖尿病の第一選択として世界的に広く使われている「メトホルミン」という薬剤があります。私も多くの患者さんに現在処方しており、比較的安全で有効性が高い治療薬の1つです。

この薬、もともと新型コロナの重症化を抑えることができるかどうか検証するための臨床試験があったのですが、こちらの結果は振るいませんでした。しかし14日間服用した患者さんにおいて、後遺症がどうなるかまで調べた研究結果が先日発表されました(2)。

意外な結果が得られました。感染後300日時点での後遺症は、メトホルミン群のほうがプラセボ(偽薬)群より約4割少なかったのです(図2)。

さらに、症状が出てから3日以内に内服を開始した場合、後遺症は約6割少なくなるという結果でした。

図2. 新型コロナ後遺症の割合(参考資料2をもとに筆者作成、イラストはシルエットイラストより使用)
図2. 新型コロナ後遺症の割合(参考資料2をもとに筆者作成、イラストはシルエットイラストより使用)

なぜ後遺症を減らしたのか?

「メトホルミン」という薬剤には、血糖を下げる作用に加えて、「抗炎症作用」といって、身体の炎症を鎮める作用があることが知られています。

その他、がん細胞に攻撃するT細胞を活性化したり、体内の活性酸素の発生を抑えたりする作用もあり、糖尿病以外の領域でも期待されている薬剤の1つです。

後遺症リスクを検討した今回の研究では、肥満の人が多く、将来的に糖尿病を発症しやすい人も含まれていました。そのため、糖尿病治療薬であるメトホルミンがよい方向に作用した可能性があります。

注意点として、現在すでに後遺症で苦しんでいる人に効果があるかどうかは不明です。また、薬事承認されている新型コロナ治療薬より優先されることはなく、感染した場合には抗ウイルス薬を投与するほうが適切です。

とはいえ、大規模な臨床試験で新型コロナ後遺症を減らす薬剤はこれまで存在しなかったため、今後さらに知見が積み重ねられることに期待しています。

(参考)

(1) Peluso MJ, et al. Trends Immunol. 2022; 43(4): 268-270.

(2) Bramante CT, et al. Lancet Infect Dis. 2023; S1473-3099(23)00299-2.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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