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衆議院議員総選挙、小選挙区別投票率を可視化して見えた投票傾向は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト

 10月31日投開票の第49回衆議院議員総選挙は、最終投票率が55.93%となり、前々回(第48回)と比べて2.25ポイント上回りました。前回より上がったものの、投票率は戦後3番目に低い数字です。特に33の都府県では投票率が上がったものの、14の道県では投票率が下がりました。既に都道府県別での投票率については総務省などから発表されていますが、NHKが発表している小選挙区別の投票率などをもとに、全国の投票率をGIS(地理情報システム)を用いて可視化し、投票傾向についてみていきたいと思います。

全国の小選挙区別投票率を地図で可視化

前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)
前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)

 上記の地図は、小選挙区別に第48回(前々回)と第49回(前回)の投票率との差を指し示したものです。赤色の選挙区は投票率が上昇したところ、緑色の選挙区は投票率が下降したところを指し示しています。

 俯瞰してみると、北海道や東北、信越、北九州に下降傾向が認められます。一方、大阪・兵庫を中心とする関西圏や四国では明らかな上昇傾向がみられるほか、東京を中心とする首都圏でも上昇傾向が確認できます。山口県は参院補選と日程が被り、かつ参院補選が盛り上がらなかったことも影響して投票率が大幅に低下したものとみられます。

 投票率の高低には小選挙区での情勢や構図などといった事情も大きく絡んだことが想定されますが、地図からは地理的な視点から背景を探ることもできそうです。もう少し細かい視点から投票率の上昇・下降要因についてもみていきたいと思います。

東京だけでなく神奈川・千葉の都心部でも投票率が上昇

前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)
前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)

 首都圏を確認してみると、東京23区だけでなく多摩地域全般でも投票率の上昇傾向が認められます。また、東京通勤圏とも言える川崎・横浜をはじめとする東海道線沿線、千葉などの総武線沿線でも投票率上昇の傾向が認められます。東京通勤圏での投票率が上昇していることから、会社員などの政治的関心が高まったことによる投票率の上昇という動向が推定されます。特に接戦区となった千葉10区が目立つほか、投票率の上がった選挙区の多くは与野党の接戦区も多く、前々回の選挙に投票に行かなかった層が投票に行った結果、接戦となったことを感じさせます。

 立憲民主党の中村喜四郎衆院議員は「投票率10%アップ」運動と名付けた活動を通し、投票率を上げることは保革伯仲を実現する手段だと毎日新聞のインタビューに答えています(毎日新聞「投票率10%アップで「保革伯仲」を実現する」)。投票率は10%まで上がることはありませんでしたが、野党にとっては投票率の上昇が保革伯仲を目指すための手段であることを裏付ける結果となりました。

大阪だけでなく兵庫も投票率が上昇

前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)
前々回(48回)と前回(49回)の小選挙区別投票率比較、赤いほど投票率は上昇し、緑ほど投票率は低下した(東京大学空間情報科学研究センター提供小選挙区ポリゴンとNHKデータを元にジャッグジャパン作成)

 さらに関心高く見る必要がありそうなのは、関西です。地図をご覧の通り、大阪府を中心に「真っ赤」な地図が出来上がっており、今回の総選挙で躍進を遂げた日本維新の会が投票率向上に寄与する(あるいはその逆で投票率の向上が日本維新の会の躍進に寄与する)構図だったことがわかります。

 特に大阪湾を囲むように大阪府だけでなく兵庫県や和歌山県の一部、さらに徳島県でも投票率があったことは特徴的です。選挙区個別の事情もありますが、日本維新の会の影響下となる地域が大阪府だけでなく大阪湾を囲む広範の地域に広がりを見せていることが明らかです。小選挙区で維新の候補者が擁立されなかった三重県とは対照的な色となったことからも、維新の力が色濃く反映されていることは明らかです。

都市の投票率向上は日本維新の会に有利だったか

 以上から、都市型の選挙を展開するような選挙区では投票率が上昇したことが読み取れます。またその背景には与野党接戦区の存在や日本維新の会の存在が関係ありそうということも読み取れるのではないのでしょうか。都市型の選挙は「風」に左右されやすいとされますが、投票率の上昇によって日本維新の会が漁夫の利を得たと読み解くこともできそうです。

 さて、投票率向上は選挙業界にとって永遠のテーマであり、総選挙の投票率がわずかながら上昇したことは民主主義の観点から喜ばしいことです。一方、約4600万人もの有権者が投票を棄権したこともまた事実です。解散から総選挙までの日数にかかわる在外投票の問題などまだまだ選挙制度の課題が残存していることも事実ですが、それ以上に有権者の棄権防止運動をどのように展開し、投票率を上げていくかもまた大きな課題であり、各党ともに知恵を絞って投票率を上げるための施策を考える必要があるでしょう。

記事内の地図画像データは、いずれも地理情報システムソフトの「ArcGIS」を使い、東京大学空間情報科学研究センターの提供する小選挙区ポリゴンデータに、NHKの提供する各小選挙区の投票率データ(48回総選挙、49回総選挙)を載せ、その差分(49回総選挙−48回総選挙)を着色して可視化した。

【出典】

【備考】

 掲載初出時、一部のデータに誤りがありました。図表を差し替えました。お詫びして訂正申し上げます。(11/16 12:00)

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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