働いていないと孤立する社会
政府が2017年版「子ども・若者白書」を閣議決定しました。そのなかで若者と居場所、悩みを相談できる相手の有無に関する意識調査があります。
・時事通信:若者に「居場所」を=17年版「子ども・若者白書」-政府
過去、育て上げネットと立命館大学(西田亮介、現東京工業大学准教授)で行った共同調査「若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析-」では、若年無業者の3類型ごとの状態について研究をしています。
若年無業者の三類型は求職型、非求職型、非希望型にわかれます。
・求職型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明し、求職活動をしている個人
・非求職型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明しながら、求職活動はしていない個人
・非希望型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明していない個人
ほとんどの働いている方は、好む・好まないに関わらず、同僚や取引先など他者とのかかわりのなかで日常を過ごされているのではないでしょうか。プライベートで知人や友人と時間を過ごすのは、日中の業務外や休日に限定されます。積極的に友人と会うひともいれば、ひとりでゆっくり過ごすひともいると思います。日常的に他者とかかわることを前提に、プライベートな時間をどう使うかは個人の選択次第となります。
これまでは職場が個人の所属先として居場所の機能を強く担ってきた部分がありました。だからこそ、職場を失うことはダイレクトに孤立状態へとつながる傾向もあったわけですが、そもそも何を居場所と認識するかは個人のものであり、その意味で、六つの環境と居場所認識の調査は大変興味深いです。
共同通信では無職であることが孤立につながるとタイトルとつけていますが、むしろ、個人が居場所であると認識できる場や環境を増やしていくことが、孤立状態の解消につながると推察されます。
そうはいっても、仕事を失うことと孤立は無関係とは言えないところがあります。無業状態の若者への調査で、「友人や知人と会うなど、集団でいることが多いか」という質問に対して、以下の回答をしています。
(いいえの回答)
・求職型:83.1%
・非求職型:90.7%
・非希望型:94.0%
もともとひとりでいることを好まれる若者もいるでしょうが、それにしても他者とのかかわりを持たない割合が高くなります。仕事に就いてない、仕事に就けないという状態は、何らかの理由により知人や友人との関係性を弱くさせる可能性を示唆しています。
今回の「子ども・若者白書」では、居場所と生活の充実度に加え、つながりの認識別の生活の充実度も調査されています。
相談相手がいれば何か困ったときに助けとなる可能性が高まりますし、まだ悩みや困りごとが小さいうちに解決できることもあります。一方、「若年無業者白書」で無業の若者に聞いた「相談できる友人の有無」については、求職型で49.0%、非求職型で62.8%、非希望型で77.2%が「いない」と回答しました。
仕事の有無にかかわらず、そもそも知人や友人がいないのか、それとも仕事を失ったことで知人や友人と疎遠になってしまったのかは「若年無業者白書」ではわかっていません。現在、公設の若者支援は「就労」をKPIとしたものが多く、その仕様書でも就職支援や就職につながりやすいサービスを提供することが定められています。そこでは、「居場所的」機能を前提としていないため、孤立した状態の若者を一度受け止め、就労を含む個人が居場所であると感じられるところを見つけるサービスにはなりません。
ここらへんは、若者のニーズと、就職・就労サービスの狭間にあるステップ・段階が抜けていると指摘されるところでもあります。NPOなど民間団体が積極的に居場所を提供していますが、一定の費用負担が可能な若者および家族が活用する受益者負担型のものも少なくありません。ただ最近では、組織提供型サービスとは異なる、多様な価値観を持つ個人が創るコミュニティ型の場もあります。
少なくとも就労支援の現場と居場所支援の現場を持っている観点から見ると、若者が自ら希望することを前提として、孤立状態から抜け出し、居場所を見つけた先に「仕事」が見えてくる若者もいますし、仕事に就いてから職場に限らない「居場所」を見つける若者もいます。
どちらが入口であってもよいと思いますが、特に公的な若者支援サービスは、その理念において居場所の重要性やつながりの重層化をうたっている一方、現実的には仕事や職場が孤立の解消にもなり得るという仕様設計になっており、バランスの悪さが目立ちます。ここらへんは仕様書の変更と、若者の変化に着目するような制度・成果設計にしていくことで意味のある公的サービスに変容でいるのではないでしょうか。