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脱・満員電車、三密を避けた都心の通勤手段を考える【#コロナとどう暮らす

江口晋太朗編集者/リサーチャー/プロデューサー
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウィルスを経験した社会が今後どうなっていくか。ヤフーでアンケート調査を行っている。

「電車通勤時、気をつけたいことは?」というアンケートでは、1位のマスク着用を除くと、電車を利用しない、混雑する時間を避ける、といった、これまで満員電車になりながら通勤していた頃とは違い、できるだけ満員電車を避けた通勤をしたいという考えがでてきている。ここでは、新型コロナウイルス後の仕事と都市との関係についてまとめてみる。

Twitterトレンドで「満員電車」が浮上

緊急事態宣言が解除されたもののいまだ感染拡大の予断を許さない中、緊急事態宣言中にはテレワークを実施していた企業も、全国的に緊急事態宣言が解除された6月1日、朝の通勤・通学が満員電車になってしまったことで一時Twitterのトレンドで「満員電車」が上位に上がるほどだった。

やむを得ずに出社しなければいけない人も多いとは思うが、緊急事態宣言解除直後に満員電車になったことで、「緊急事態宣言中のテレワークはなんだったのか」という声もあがっているという。

テレワークによる在宅仕事や社会的距離を保った状態での移動の経験を踏まえ、政府自身が新しい生活様式の導入を訴えているにもかかわらず、満員電車における三密状態を放置されてしまう状態を忌避する傾向は今後ますます強くなるだろう。

タクシーやバスで三密を避けた出社や送迎を

出社せざるをえない人にとって、満員電車などの三密を回避して通勤するにはどのような方法があるだろうか。

取り組みの一つとして、医療従事者の移動をサポートしようと、日本交通と日本財団が連携しトヨタ自動車、デンソー協力のもとでタクシー送迎支援がスタートした。日本財団は、新型コロナウイルス対策の寄付金活用として、医療従事者の通勤用に1医療施設あたり100万円のタクシーチケットを提供する。また、感染患者を病院から自宅・ホテルへの移送用として、感染予防対策を備えた移送用タクシー100台を整備する。

私たちが日常に使うタクシーも緊急事態宣言が発令した直後の4月13日以降、S.RIDE加盟タクシー5社共同で感染対策を施した車両を走らせ、飛沫防止のフィルムや運転手との非接触を行うためにネット決済の推奨などに取り組んでいる。業界団体である一般社団法人全国・ハイヤータクシー連合も感染対策防止のガイドラインを作成し、タクシー事業者各社における共通対策を徹底する動きもでてきている。

ほかにも、医療機関や機器メーカー、物流関係の人たちなど、特定の施設出社しなければいけない従業員を抱える企業は、コロナ以前から従業員送迎専用のシャトルバスを運行させているところも多く、コロナウィルスの影響によって、貸切バスを使った送迎バスのニーズも高まってきているという。

バス事業者も多くが観光関連で売り上げを立てていたため、新型コロナウイルスの影響によってツアーやイベントが軒並みキャンセルとなったことでの売り上げへのダメージは大きい。バス事業者も、今後回復の兆しがあるであろう観光事業だけでなく、こうした従業員送迎にも力をいれつつある。

コロナウィルスの広がりによって消毒や飛沫防止対策といった感染対策の取り組みをもとに顧客の安全な移動の確保を徹底している。タクシー業界同様、日本バス協会も感染症対策や乗客への対応をガイドラインでまとめている

顧客や従業員を安全に移動させるという視点に立った時、公共交通機関のような不特定多数が乗車するのと違い、貸切バスによる送迎は特定多数による移動方法といえる。感染症対策を取り入れたバスによる移動が結果として公共交通機関よりもリスク軽減に寄与しやすく、企業も福利厚生として少しでも感染リスクを減らすことで企業経営を安定化させることにもつながる。

コロナ対策で自転車による都市通勤の盛り上がり

都市部における個人の通勤方法として自転車通勤の需要が高まっている。筆者もオフィスまで自転車で通勤しているが、ここ最近、自転車通勤をしている人が増えてきた実感がある。

自転車は、多くの人が日常的に使い、環境に優しい移動手段というだけでなく、満員電車に揺られることなく、かつ他者と密にならない離れた距離で移動できる。さらに、運動による個人の健康増進にも役立つものとして、近年の健康意識の高まりやテレワークで自宅から一歩も外に出なかった身体を運動させるのに役立つ移動手段だ。

2018年、国連が環境や健康促進などから6月3日に世界自転車デーを採択。

国連はまた、新型コロナウイルス流行後の復興課題として自転車の利用を推奨している。先日の6月3日には、世界自転車デーに賛同している大手自転車メーカーらが、健康や感染対策として自転車通勤や移動を推奨するキャンペーンも行われた。

アメリカでは新型コロナウイルスの広がりによって自転車を購入する人が急増、CNNによると自転車の製造が追いつかないほどだという。

自転車ファーストな都市政策へ

政府も自転車通勤を推奨している。菅官房長官は6月3日の記者会見で通勤での自転車利用の拡大を歓迎していると言及。東京23区内の国道での自転車レーン整備などに注力するという。

国土交通省も2020年4月3日に自転車通勤を推進する企業・団体を認証する制度「『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクト」を発表し、自転車通勤を促している。

一方、自転車による衝突事故などが度々問題視され、自転車の運転マナーの向上が課題となっている。自転車は車と同じ「車両」扱いであり、バイクと同様に車道の左側の通行を走らなければいけない。歩道の走行も禁止で、歩行者と自転車走行が許可されている歩道も徐行しなければいけない。自転車利用の広がりとともに、こうしたルールの徹底が求められてくる。

駐輪場の確保や違法駐車など、自転車にまつわる事故や課題は多い。自転車通勤が増え始めたことを受け、警察庁含め、自治体や自転車メーカー、販売店、自転車関連のメディアなどでも走行ルールの啓発活動が活発化してきている。

企業も公共交通機関ではなく自転車通勤を促す場合、事故リスクや通勤手当の支給などにおける制度設計の見直しがでてくるだろう。

世界を見ても、デンマークのコペンハーゲンやオランダのフローニンゲンなど、駐輪場や自転車道の確保や市の中心部に向かう自動車の使用を制限するなど、自転車ファーストな都市設計を行っている。自転車による交通手段をメインとすることで、従来の自動車の駐車場が大型の公園に変わり、騒音や渋滞もなく、緑あふれる都市へと変貌するという人と街に優しい都市デザインを推進している。

SDGsの観点や感染症対策として、今後ますます自転車移動の需要の高まりがでてくるだろう。日本においても、自治体の都市設計から企業における通勤における福利厚生の制度設計など抜本的な見直しが迫られてくる。

自転車やタクシー、バスなど、様々な交通手段を組み合わせながら、都市部における満員電車をなくし、かつ感染対策がしっかり取れる環境作りを、個人レベル、企業レベル、そして自治体レベルで考える必要があるだろう。

編集者/リサーチャー/プロデューサー

編集者、リサーチャー、プロデューサー。TOKYObeta代表、自律協生社会を実現するための社会システム構築を目指して、リサーチやプロジェクトに関わる。 著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞社出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

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