コンビニオーナーたちの求めた「団体交渉」はなぜ認められるのか? その「意義」とは
コンビニの24時間営業の是非が話題になっている。
すでに報じられているとおり、オーナーらが組織する「コンビニ加盟店ユニオン」がセブン-イレブン・ジャパンに対して、営業時間の短縮に関する団体交渉を申し入れた。
ところが同社は「オーナーとは労使関係にはない」などとして回答を拒否し、団体交渉に応じていない。
「オーナーは個人事業主なのだから、団体交渉なんて認められなくて当たり前だ」と思う方も多いだろう。
しかし、この「団交拒否」は、いわゆる不当労働行為として違法と判断される可能性がある。というのも、コンビニのオーナーたちは、法律上、「労働者」として認められる余地があるからだ。
実際、2015年4月に東京都労働委員会が、ファミリーマートとフランチャイズ契約を結んだ加盟店のオーナーを「労働組合法上の労働者」として認めるという判断を下している。
コンビニのオーナーが「労働者」として認められるならば、コンビニ加盟店ユニオンは団体交渉を申し入れることができるし、本部はこれに応じる義務(団体交渉応諾義務)を負う。したがって、今回の団体交渉の拒否は違法となる。
つまり、どのような場合に「労働者」と認められるかが鍵となるわけである。
実は、このような問題は私たちと無関係ではない。
というのは、他の業種においても、実際には企業の指示に従って雇用関係のような働き方をしているにもかかわらず、形式上は業務委託契約や請負契約を契約させられ、個人事業主を装わされるケースが増えているからだ。
これは、企業が労働法上の規制を免れるための「脱法」手段の一つとして広く用いる手法だ。
独立した個人事業主だから、どれだけ長時間働いたとしても残業代を支払う必要はない。仕事中に怪我をしても企業に責任はなく、労災保険も適用されない。当然、団体交渉も認めない、というわけだ。
今回のコンビニオーナーたちの交渉の行方は、このような重大な問題を孕んでいる。「個人事業主」を利用した企業による「脱法」行為は許されるのだろうか。
どのような場合に「労働者性」が認められるのか
先ほど紹介した東京都労働委員会の判断について詳細をみていこう。
この事件では、ファミリーマートとの間でフランチャイズ契約を締結していた加盟店の店長らが、「ファミリーマート加盟店ユニオン」を結成して団体交渉を申し入れた。
これに対して、彼らが労働組合法上の労働者に当たるのか、同社が交渉に応じていないことが正当な理由のない団交拒否に当たるのかが争われた。
ファミリーマート側の主張は以下の通りだ。
フランチャイズ契約は労務供給契約ではない。
ライセンス契約を結んでいるのだから、加盟者は、本部とは別の独立したコンビニエンスストアを「事業経営」している。
したがって「労働組合法上の労働者」には当たらない。
これに対し、都労働委員会は、「労働組合法上の労働者に当たる」と判断した。
簡単にいうと、たとえ形式上独立した「個人事業」の形態をとっていたとしても、実態はそうではないというのがその理由だ。
実際にはオーナーの「個人事業」としての独立性や、経営の裁量は少なく、「会社の指揮命令の下に労務を提供している」。
そのような場合には、労働組合法上の「労働者」に該当するというのが都労働委員会の判断なのである。
(下記参照)
東京都労働委員会が、コンビニのオーナーが「労働組合法上の労働者に当たる」と判断した理由
(1)会社の業務遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の事業組織に組み入れられている。
(2)会社がフランチャイズ契約の内容を一方的・定型的に決定している。
(3)加盟者の得る金員は労務の供給に対する対価又はそれに類する収入としての性格を有することから、報酬の労務対価性が認められる。
(4)実態上、会社からの業務の依頼に対してこれに応ずべき関係にある。
(5)会社の指揮監督の下に労務を提供していると広い意味で解することができ、その労務の提供については一定の拘束を受けているということができる。
(6)顕著な事業者性を認めることはできない。
こうして、都労働委員会は、ファミリーマートの団交拒否には正当な理由がないと判断し、同社に団体交渉に応じることを命じたのであった。
「偽装個人事業主」の広がり
このように、労働組合法では、「労働者」の範囲は実態に応じて幅広く認められる。
しかし、現実の社会においては、実際には労働者と変わらない働き方をさせているにもかかわらず、形式上「個人事業主」とし、労働法上の規制を免れているケースが多い。
たとえば、運送ドライバーや生命保険の外交員は、業務委託契約のもと、「個人事業主」扱いされているケースが多く、以前から問題となってきた。
このような「偽装個人事業主」は、最近ではSEやアニメーターなどの技術職にも拡大している。
また、テレワークが普及するなかで、事務作業やイラスト制作、ライター業に従事する者にも同様の扱いをされているケースが増えている。
しかし、すでに見たように、形式が「個人事業主」として扱われていたからといって、必ずしも、労働法が適用されないというわけではない。
コンビニオーナーの場合と同じで、「労働者」と認められるかどうかは、実態に応じて判断される。
この点について、最近の裁判例では、「INAXメンテナンス事件」(2011年)や「ビクターサービスエンジニアリング事件」(2012年)などで、いずれも業務委託契約のもとで働く労働者について、労働組合法上の労働者性を認めている。
「労働組合法」の存在理由
裁判所や労働委員会がこのような判断になるのには「合理的な理由」がある。
それは、そもそも労働組合法が何のためにあるのかを考えれば自ずと明らかだ。
労働者と使用者は決して「対等」ではない。もし、完全に「契約自由の原則」を貫徹すれば、不当な結果が生み出されてしまう。
経営者はいつでも解雇でき、残業代も支払わなくて良い。このような状況では、劣悪なブラック企業が跋扈し、社会不安をも巻き起こすかもしれない。
そもそも、労働市場全体がそういう状態では「まともな企業」の経営もおぼつかない。
つまり、無規制の市場は、「市場としての機能」も果たすことができないと考えられるのだ。
そこで、労働組合による集団的な交渉を行うことを認めることによって、対等な交渉を実現するというのが労働組合法の趣旨だ。
集団的な交渉によって、契約当事者として「対等」な立場を保証し、これによって健全な市場の機能を防衛することが労働組合法の狙いなのである。
労働組合法が適用されれば、集団的な交渉を使用者側は拒否することができなくなる。
ブラック企業が一人一人を個別に不当解雇したり、不払い残業や理不尽な扱いをしようとしても、団体交渉でそれらに抵抗されれば、契約の内容や扱いを見直さざるを得なくなるというわけだ。
一方、多くの場合、仮に独立した「自営業者」として企業と「対等」な立場で契約を結んでいたとしても、現実には、働き手と企業の間には圧倒的な力の格差がある。
そのなかで立場の弱い働き手を保護するためには、働き方の「実態」に基づいて法律上の労働者性を認め、団結権や団体交渉権を認める必要がある。
これによって、フランチャイズ・業務委託契約においても、あまりに不当な状況(市場の機能の破壊)を防ごうとしているのである。
なお、「個人事業主」にまで適用が拡大される法律は労働組合法だけではない。
もう一つ、よく問題となるのは労災保険法の適用だ。
例えば、映画撮影に従事中のカメラマンが、宿泊していた旅館で脳梗塞を発症して死亡した事件で、高裁が、その「実態」から労災保険法の「労働者」に該当すると認めたケースなどがある(新宿労基署長事件 2002年、東京高裁)。
「請負だから労災は適用されない」と言われたとしても、諦める必要はないのだ。
「24時間営業」が問題の本質ではない
このような観点から言えば、コンビニオーナーの問題の本質は、「24時間営業」という具体的な営業方針の問題にとどまらないことが見えてくる。
本部の理不尽な方針を受け入れざるを得ない。「交渉力」の圧倒的格差にこそ、本質的な問題があるのだ。
実際に、コンビニオーナーの労働問題では、「24時間営業」以外にも、マージン率や一方的な契約打ち切り、賠償金の請求など、労働法では禁じられているさまざまな事が指摘されている。
だが、理不尽な契約内容にもかかわらず、個々のオーナーは交渉力が弱く、理不尽な要求に従わざるを得ない。
これはまさに、労働法が是正しようとした、「対等」ではない自由な労働市場そのものだと考えて良いだろう。
政府が推進する「雇用関係によらない働き方」
さて、多大な問題含みの「個人事業主化」だが、今後ますます拡大していくことが懸念されている。
というのも、政府が「雇用関係によらない働き方」の拡大を推進しているからだ。
2017年3月に経済産業省が公表した、「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」では、次のとおり、「働き方改革」の文脈で「雇用関係によらない働き方」を推奨している。
「日本型雇用システム」を見直す契機として、「雇用関係によらない働き方」 をはじめとした柔軟な働き方が重要である。すなわち、これまでの“常識”であった、雇 用関係による働き方、1社のみでの就業、オフィスでの勤務のそれぞれを変化させるものとして、「雇用関係によらない働き方」、「兼業・副業」、「テレワーク(在宅就労)」の3つかが互いに折り重なり、「時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方」につながっていき、日本型雇用システムを見直す契機となるものである。
この報告書によれば、広義のフリーランス(副業を営む労働者やダブルワークをしている労働者を含む)は、 2016 年現在、1,064 万人と推計され、増加傾向にある。
そして、今後も急激に増加が見込まれると同時に、これを促進しなければならないというのだ。
おわりに
労働者の「個人事業主化」は、運輸を中心として、かつてから増加させられてきた。これに対し、労働者も抵抗し、労働法の適用が拡大されてきたという経緯がある。
今回のコンビニのオーナーの方々のように、新しい時代の働き方に即して、当事者たちが立ち上がり交渉するなかで作られていくものだ。
あらゆる労働法上の権利は、そのような取り組みの中で作られてきた。その中心にあったのが労働組合(ユニオン)だ。
今後も、産業のあり方が大きく変容するなかで、様々な業種のユニオンが活躍することが求められる。
これからも「コンビニ加盟店ユニオン」の取り組みに注目していきたい。
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