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終盤に入った連ドラ、序盤を迎えた連ドラ

碓井広義メディア文化評論家

今期の連ドラも終盤戦に入っている。全体的に低調といわれるが、中にはスタート時と比べて、じわじわ面白くなったものもある。『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)はそんな一本だ。

ユルさを楽しむ不倫恋愛ドラマ『せいせいするほど、愛してる』

当初、有名企業の副社長(滝沢秀明、好演)と広報担当社員(武井咲)の恋愛と聞いて、ありがちな甘口のシンデレラストーリーをイメージしていた。しかし、今やすっかりドロドロ系になっていて、びっくりする。

滝沢には離婚寸前だった悪妻(木南晴夏)がいた。彼女は事故で昏睡状態だったが回復し、猛烈に武井を責めたてる。また、妻の姉(橋本マナミ)は、自らの事業資金のこともあって離婚を阻止しようと必死だ。

さらに武井の元カレ(高橋光臣)が橋本とつるんでストーカー状態。そこに武井を好きになった、ライバル社の広報マン(中村蒼)も絡んでくる。

このドラマ、展開はかなりドロドロのはずなのに、しかるべき重さや暗さがないのが特徴だ。気楽に見られるというか、笑いながら見られる不倫恋愛物なのだ。

実際、周囲の若い衆は、ドラマを見ながらSNSなどで感想を発信する“ソーシャル視聴”を楽しんでいる。ストーリーにも登場人物にも、程よいユルさ、ツッコミどころがあるからだ。

そうそう、「ティファニー」や「ジミーチュウ」といったブランドが、実名どころか、ヒロインたちの”職場”として登場しているのも特色。とはいえ、本当に会社のイメージアップになっているのか、いないのか。物語の決着と共に、ちょっと気になる。

食ドラマにして異色の人情ドラマ『ヤッさん』

『ヤッさん~築地発!おいしい事件簿』(テレビ東京系)は、主人公の設定が秀逸なドラマだ。ヤッさん(伊原剛志)はホームレスだが、銀座の高級店で賄い飯をごちそうになる。また築地市場の仲買人とも対等だ。

食の知識が豊富で、料理の腕も一流。築地と銀座を結ぶ、隠れコーディネーターのような存在なのだ。IT企業から落ちこぼれ、宿無しだったタカオ(柄本佑)は、ヤッさんに拾われて弟子になった。

このドラマは、異色のホームレス2人が、築地や銀座で起こる事件を解決していく物語だ。個人の洋食店を乗っ取ろうとする悪徳外食グループと戦ったり、世代交代に悩む築地の人たちのために一役買ったりと忙しい。

人としての矜持を持ち、ホームレスという生き方を選んだヤッさん。困っている人を、「ありきたりな身の上話なんか聞きたくねえ」と言って、ある距離感を保ちながら助ける姿勢も好ましい。

確かに、「どん底に落ちた人間を救うのは人とうまいメシ」かもしれない。一見、いわゆる食ドラマを思わせるが、実は脚本も含め、丁寧に作られた人情ドラマなのである。

脇役陣も2人をしっかり支えている。ヤッさんを応援するそば屋の主人(里見浩太朗)、ヤッさんを慕う韓国料理店主(板谷由夏)、そば職人を目指す女子高生(堀北真希に似た山本舞香)など、それぞれに適役だ。

変則スタートの”昭和テースト”刑事ドラマ『ラストコップ』

突然、元気な刑事ドラマが始まった。唐沢寿明と窪田正孝の『ラストコップ episode0(ゼロ)』(日本テレビ系)だ。

もともとはhuluで配信されたオリジナルドラマだが、10月から地上波で放送することになった。そこで9月中にエピソード・ゼロと称する3回分を流し始めたのだ。いわば“前哨戦”であり、壮大な“予告編”でもある。

30年前の事件で昏睡状態に陥っていた横浜中央署の刑事・京極浩介(唐沢)が、長い眠りから覚めて、”職場復帰”した。コンビを組まされたのは、年齢もタイプも異なる望月亮太(窪田)。まずは2人のボケとツッコミが、このドラマの見どころのひとつだ。

とはいえ、最大のウリは“昭和の刑事(デカ)”京極の破天荒ぶりだろう。まったく周囲の空気を読まない言動。暴走ともいえる強引な捜査。連発される親父ギャグ。結構困ったオッサンだが、きっちり結果を出す男だ。

唐沢は、朝ドラ「とと姉ちゃん」の天才編集者・花山とは真逆のコミカルなキャラクターを喜々として演じている。

また、京極の妻(和久井映見)が後輩刑事(宮川一朗太)と再婚していたり、一人娘(佐々木希)は京極が実の父親だと知らなかったり(すぐにバレたけど)、捜査以外の設定も抜かりない。

さらに脇役が豪華だ。県警本部長が小日向文世。京極と対立する警視正には藤木直人などが配されている。最近の刑事ドラマにしては珍しく、しっかりドンパチ(発砲シーン)があることを含め、幅広い層が楽しめる”『相棒』日テレ版”に化けるかもしれない1本だ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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