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「党議拘束」外せるか〜受動喫煙関連法案

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 先週末あたりから受動喫煙防止法案について霞ヶ関や国会内でいろいろと動きがあった。世論や政界の様子を観測気球的に探ろうとするように、霞ヶ関あたりからのリークとみられる情報もマスメディアから流されている。

揺れ動く厚労省

 厚労省案は昨年2017年からの内容を修正し、1月30日に最新の法案を出している。敷地内禁煙のエリアを拡げる一方、加熱式タバコへの態度も明確化しつつあるようだ。

 厚労省が飲食店の例外規定など、当初の案より「後退」を余儀なくされている、というマスメディアによるアドバルーンの効果が出たのか、与野党の国会議員が超党派でつくる「東京オリパラに向けて受動喫煙防止法を実現する議員連盟」(尾辻秀久会長、松沢成文幹事長、約60人)が厚労省案への対案を示した。これによれば、飲食店の面積規定で店舗面積30平方メートル以下を規制対象外とし、対象外の業態をバー・スナックに限るとする。

 厚労省案に対しては、飲食業界からの要請を背景とする自民党たばこ議連(野田毅会長、約260人)が抵抗しているが、その自民党の規制推進派である「自民党受動喫煙防止議員連盟」(山東昭子会長、約60人)からもより厳しい内容の対案が出された。報道によれば、飲食店は面積規定をもうけず、バー・スナック以外は屋内全面禁煙とし、加熱式タバコ専用室の面積に上限をつける、などという内容になっている。

 現在開かれている第196回通常国会の会期予定は6月20日までだ(常会)。厚労省としては会期中に健康増進法の改正案、つまり受動喫煙防止法案を可決成立させたい。周知期間が必要なので、2019年のラグビーW杯までは難しいとしても、そうでなければ2020年の東京オリパラには間に合わないだろう。

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現状、出ている受動喫煙防止法案。厚労省案は報道等で出ているもの。現状、厚生労働省案は1月30日に出したものが最新。ここでは敷地内禁煙の範囲とともに、敷地内で喫煙場所を設置できる範囲も拡がっている。飲食店の規制では、これまでの喫煙がデフォルトから禁煙が常態ということになっている。つまり、店舗内で喫煙できる店は、入り口に喫煙可や分煙といった表示を掲げなければならない。それがない店はすべて禁煙店ということだ。飲食店については、店舗面積150平米から客席面積100平米にするとの報道も出ている。※表作成:筆者

 タバコ問題については、喫煙率も下がりタバコ小売店やタバコ農家も減ってきたこともあり、国会の中にも受動喫煙防止対策に積極的ないしは肯定的に考える議員も増えてきているようだ。だが、旧大蔵省出身で発言力の強い野田毅議員が会長を務める自民党たばこ議連の勢力は圧倒的で、自民党内の規制推進派も超党派も劣勢感は否めない。

 旧大蔵省・財務省出身議員が全員タバコ規制に否定的かといえば、故・宮下創平元厚生大臣(第82代)のような人物もいるので必ずしもそうではないと思いたいが、なにしろ加藤勝信厚労相が旧大蔵省出身だ。日本たばこ産業(JT)は財務省の金城湯池のような存在で、財務大臣が1/3以上の株を持ち、約700億円と見積もられるJT株からの配当金は財政投融資として政界官界に絶大な効果を持つ。

はばむタバコ利権構造

 たばこ事業法は財務省の管轄で、タバコの規制当局は財務省だ。国民の生命や健康を守らなければならない厚労省にタバコについての規制権限はない。こんな国はほかになく、米国では食品医薬品局(FDA)、英国では保健省(NHSを管轄)、韓国では健康福祉部(国民健康保険公団)がそれぞれタバコを規制する。

 だからこそ、今回の受動喫煙防止法案は厚労省にとって重要なのだが、財務省とJT、タバコ族議員という政官財の「タバコ利権構造」が国民の生命や健康の前に立ちはだかっているというわけだ。

 ところで、日本の国会議員が所属するほとんどの政党には党議拘束がある。議会採決される法案などに対し、所属政党は各議員の賛否表明に政党の意志を反映させるための縛りをかける。議院内閣制と政党政治にとって、党議拘束は民意反映の立脚点でもある。

 議員は所属政党の意志と違う立場に陥ることも少なくないから、しばしば党議拘束に造反し、所属政党とは違う賛否表明をすることも起きる。一方、臓器移植法(臓器の移植に関する法律、2009年改正)のように脳死という人の死の定義について、政党として各議員の賛否に縛りをかけられないという理由から党議拘束を外した例もあった(臓器移植法では日本共産党のみ党議拘束をかけて棄権)。

 受動喫煙防止法案という国民の生命や健康に関わる法律についてはどうだろう。厚労省案も揺れ、国会議員の中にも政党を超えて様々な意見があるようだ。分厚いタバコ利権構造がある以上、政党で縛りがあれば各議員の意志を表明できないのではないだろうか。

 この国会は6月まで続く。まだ法案の内容も固まっていないが、現状で最も厳しいのが自民党受動喫煙防止議員連盟のバー・スナック以外の飲食店は屋内全面禁煙という案だ。各政党は党議拘束を外す、という動きに出るのだろうか。

 筆者は以前も書いたとおり、飲食店の屋内全面禁煙が最も効果的と信じているが、いずれにせよ国民の声と世論が盛り上がっていけば厳しい案でまとめざるをえなくなることは間違いない。厚労省がおそるおそる上げ続けているアドバルーンもそのためだ。タバコの煙に悩まされている人、家族の健康を考える人、タバコを止めたい人たちは国会での議論に注目して欲しい。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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