Yahoo!ニュース

立ち止まれない日本スーパーフライ級王者

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口 裕朗

 2023年6月13日、川浦龍生を4回TKOで下して日本スーパーフライ級王座を獲得した高山涼深(26)。戴冠の2日後から、早くも次戦に向け練習を開始した。

 「試合後の感覚が残っているうちに再スタートを切った方が、成長出来ると思うんです。ダメージも無いので、もう次を見据えないとな、と。

 今回は、もっとコーナーの声を冷静に聞けるようにしなければという反省点が残りました。終盤、トレーナーが『腹を打て!』と再三言っていたのに、僕は上ばかり狙ってしまったんですよね……」

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 一つ階段を上がったことについて、新チャンピオンはこんな風に語った。

 「自分ではあまり実感が無いのですが、周りの反応が違いますね(笑)。『やったね』とか『チャンピオンだね!』という声を頂きます。

 中3から指導してくれている小口忠寛トレーナーも、僕が勝った瞬間に涙を浮かべていて…小口さんや会長や家族やジムメイト、周囲の方たちなど、支えてもらった人に少し恩返しが出来たかなという気持ちはあります」

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 高山は6月13日を振り返る。

 「ファーストラウンド、僕の動きは固かったです。緊張でガッチガチになっていました。それで、ポイントも失いました。ただ、川浦選手は強かったのですが、思った以上のやり難さを感じなかったのも事実です。

 初回に左ボディと左ストレートのいいパンチを喰らったんですよ。そこで力みが取れましたし、このパンチなら自分は倒れないと思えました」

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 2ラウンドに入り、体がほぐれた高山は本来のボクシングを取り戻す。

 「練習通り、シナリオ通りに、ガンガンプレスをかけていく。下がらない。得意の左ストレートを当てていこうと。これまでのKO勝ちも左ストレートですから、クリーンヒットすれば倒れるだろうと」

撮影:山口 裕朗
撮影:山口 裕朗

 新チャンピオンにとって川浦戦は1年7カ月振りの試合だった。コロナ禍や自身のケガーー右足第5中足骨骨折ーーなどで、2019年10月19日から2021年7月21日までブランクを作り、今回も19カ月もの期間を空けることとなった。

 「自分にとって6戦目のファイトでしたが、5戦目は相手のパンチで効いたシーンがありました。なので、ディフェンスを忘れないようにしました。特にカウンターを貰わないよう、警戒しましたね。

 試合間隔が空いてしまい、リングに上がる怖さが倍増したことも立ち上がりが悪かった要因です。試合が始まれば大丈夫なのですが、リングに上がる恐怖感は物凄くありました」

撮影:山口 裕朗 試合後の控室で渡辺均会長、小口トレーナーをはじめとしたジムの仲間と
撮影:山口 裕朗 試合後の控室で渡辺均会長、小口トレーナーをはじめとしたジムの仲間と

 今後について、高山は言った。

 「まずは、一試合一試合、目の前の相手にきっちり勝っていきます。焦ることよりも積み重ねが大事だと感じます。

 最近は、同じサウスポーのジャーボンテイ・"タンク"・デービスをちょっと意識しているんです。気付いたら世界を狙える実力者になっているーーそんな風に上がっていきたいですね。次戦では開始のゴングから、柔らかく動けるようトレーニングしています」

 ワタナベジムから誕生した25人目の日本王者、高山涼深。更なる高みを目指して、走り続ける。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事