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大天才・藤井聡太(19)叡王位を獲得し史上最年少三冠! 大難敵・豊島将之叡王(31)を3勝2敗で降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月13日。東京・将棋会館において第6期叡王戦五番勝負第5局▲藤井聡太二冠(19歳)-△豊島将之叡王(31歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は18時22分に終局。結果は111手で藤井挑戦者の勝ちとなりました。その結果、藤井挑戦者が3勝2敗で五番勝負を制し、叡王位を獲得。王位、棋聖とあわせ、現代将棋史上10人目の三冠王となりました。

 19歳1か月での三冠達成は羽生善治現九段の22歳3か月を更新して、史上最年少記録です。

 藤井新叡王はタイトル戦初登場以来5回連続で番勝負を制しています。これは木村義雄14世名人と並び、史上最多タイ記録です。

 豊島前叡王と藤井新叡王の対戦成績はこれで豊島9勝、藤井8勝となりました。

 藤井新叡王の今年度成績は26勝5敗(勝率0.839)となりました。

 タイトル三冠を保持してなお、通算成績は239勝45敗(勝率0.842)。史上最高ペースが維持されたままです。

 藤井新三冠は今年度中、最大六冠となる可能性が残されています。

 豊島前叡王(竜王)と藤井新三冠の席次はそれぞれ2位、3位のまま変わりません。

 10月に開幕する竜王戦七番勝負で藤井新三冠が竜王位を奪取すれば、渡辺明名人(棋王・王将)を抜き、席次1位となります。

藤井新叡王、新時代の階段を駆け上がる

 注目の振り駒は藤井挑戦者先手。戦型は相掛かりに進みました。

 豊島叡王は二枚の銀を積極的に前に進めていきます。攻めに厚みが加わるメリットがある一方、守りが手薄くなるデメリットもあります。

 豊島叡王の銀が五段目に2枚並んだタイミングで45手目。藤井二冠は端9筋に角を出て、銀を追います。豊島叡王はいったん2枚の銀をともに四段目に引いて、間合いをはかりました。ならばと藤井挑戦者も端角を元の位置へと引きます。

 58手目。豊島叡王は銀を前に進めます。再び五段目に銀が2枚並びました。なんとも難しい押し引きです。

 藤井二冠は、今度は2筋からの継ぎ歩攻めで応じました。形勢はほぼ互角。持ち時間4時間のうち、残りは藤井35分、豊島34分と、こちらもほぼ互角です。スローペースのまま中盤戦が進んで、終盤はスプリント勝負になることが予想されました。

 藤井陣は金矢倉の堅陣のようでいて、実は金銀3枚の構成がそれとはすべて逆という、あまり見ない形です。これが意外と堅い。68手目。豊島叡王の攻めの銀1枚は、再び四段目に追われました。

 73手目。藤井挑戦者は金を7七から6六に上がります。新時代を駆け上がるかのような、力強い進出でした。さらに5六へとすべらせる味のいいステップ。居角の筋を通しながら中段を手厚くします。一方、豊島叡王の銀2枚は飛車先縦に並び、重くさばけていません。藤井二冠が次第にペースをにぎっていきました。

 80手目。豊島叡王は持ち時間を使い切り、あとは一手60秒未満で指す「一分将棋」となります。

 91手目。藤井挑戦者は金と刺し違えて飛車を切り、決めにいきます。もともとは守りにいた金は4五、5四、4三と進み、ついに豊島玉に迫る駒となりました。

 103手目。藤井挑戦者もまたここから一分将棋に追い込まれました。そして端9筋に桂を跳ねます。コンピュータ将棋ソフトが示す形勢表示は、なんと互角近くまで戻ります。しかし時間をかけて読み進めてみれば、やはり藤井勝勢という判定をしました。これが藤井流の決め手だったようです。

 藤井陣の守りの駒は、金だけでなく桂まで躍進。相手五段目の銀を取りながら、豊島玉の死命を制するに至りました。

 藤井挑戦者は見事な手順で豊島玉を詰ませにいきます。これが現代を代表する大天才の寄せでした。

 111手目。藤井挑戦者は銀を打って王手をかけます。

「50秒、1、2、3、4」

 記録係の秒読みの声の中、豊島叡王は右手を駒台に添え一礼。

「負けました」

 豊島叡王が投了を告げ、第6期叡王戦五番勝負に幕が降ろされました。

 藤井挑戦者は手厚く少しずつポイントを重ねながら、最後はすさまじい切れ味で叡王位まで手中に収めました。

 藤井新叡王は王位、棋聖と合わせ、将棋史上10人目の三冠王となりました。まだ19歳です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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