羽田38度を記録!ー「なぜ子供と老人は熱中症になりやすい?」
記録的な暑さで、熱中症で病院に運び込まれる人が目立つようになりました。
学生時代に私は剣道部に所属していましたが、真夏でも厚い胴衣と重い面や胴をして、風通しの悪い道場で稽古をするため、何度か気分が悪くなり貧血をおこしたことがありました。顔のまわりに熱い空気の膜が張ったように息苦しくなり、めまいと頭痛をおこした経験は忘れられません。幸い病院に運ばれることもなく、水を飲み、涼むことで回復しましたが、最悪の場合は死にいたる怖い病気でもあります。
全体の発症数を見ると、成人ではスポーツや屋外での労働作業中に発症しているのに対し、一〇歳未満の子供や六五歳以上の老人では最高気温が三三度以上になると病院に運ばれる人が急増します。
老人や子供が発症する場合は気温と密接な関係があるので、天気予報で最高気温が三〇度だったら「熱中症注意報」、三三度以上だったら「熱中症警報」と考えていいでしょう。つまり、ここ数日は「警報レベル」が続いているというわけです。
特に子供や高齢者は、熱中症リスクが高いので気をつけなくては鳴りません。
【なぜ子供と老人に熱中症が多いの?】
- 子供の場合は汗の量に関係します。
汗腺の数は子供も大人も変わりませんが、汗腺の分泌能力、つまり汗が出る準備ができている汗腺の数は子供の場合、少ないのです。八~一〇歳で大人の約四〇パーセントの汗腺しか汗が出ません。このため子供は熱がたまりやすいのです。
実際に感じる温度も大人と子供では差があります。
天気予報で使われている気温は、地上から一メートル二〇~一メートル五〇センチの場所で測っています。大人はそれよりも背が高いですが、子供は低く、さらに地面に腰を下ろして遊んだりします。気温が三〇度のとき、地面付近は四〇度以上あり、コンクリート上では五〇度を上回ることもあります。外出の時には、子供は大人より暑いことを認識しなければならないでしょう。
- 高齢者が熱中症になった場合に多いのが脱水症状です。
もともと人は歳を重ねると脱水症状をおこしやすくなります。汗をたくさんかいたときはたくさんの水分を補給する必要がありますが、のどが渇く感覚もにぶくなっているので水分補給を怠ることが多くなり、脱水症状をおこすのです。
さらに、歳をとるにつれて体温調節への反応も遅くなります。暑いのに汗が出るのが遅れるため、体に熱がこもりがちです。汗腺の機能も低下傾向にあり、男性では七〇歳、女性では八〇歳を過ぎるとその傾向がはっきりしてきます。
汗をかく場所にも変化があらわれます。足や手の汗が減り、顔や頭にたくさんかくようになります。四肢の汗は体温を効果的に下げますが、頭や顔の汗はそれほどでもありません。
高齢者は暑さに耐える体の能力が全体的に減っているのです。とにかく水分を多量にとることが必要です。夏は一時間にコップ一杯の水分をとるように心がけてください。
【寝ている間に熱中症?】
最近増えているのが、自宅で、しかも深夜から明け方に熱中症になるケースです。
夏によく耳にするヒートアイランド現象とは、エアコンの室外機から出される排熱や車の排気ガス、コンクリートやアスファルトからの照り返しによって、都市の気温が郊外より高くなる現象です。等温線が島のような形になることから、ヒートアイランド(熱の島)とよばれるようになりました。
ヒートアイランド現象による気温の上昇が顕著な時間帯は、深夜から明け方だといわれています。私も都心の高層ビルとコンクリートに囲まれた環境に暮らしていますが、明け方はやはり暑いです。冷房をつけて寝ると声が出づらくなるので、寝る前に部屋を冷やして冷房を切って寝るのですが、深夜三時頃に暑さで目が覚めます。
日中気温が上昇しても、木や緑があれば夜には空気を冷やしますが、コンクリートやアスファルトは日中に蓄積した熱を夜に放出するため気温がなかなか下がりません。冷房機器の使用や工場の排熱、車の排気ガスもこれに拍車をかけます。都心の夜は冷えるどころかどんどん暑くなるのです。
温暖化やヒートアイランド現象の影響で、東京の熱帯夜(最低気温が二五度以上)は年々多くなっています。一九〇〇年代初頭にはひと夏五日前後だった熱帯夜日数が、一九五〇年代には一〇日に、二〇一〇年代に入ってからは五〇日に迫る勢いです。都環境科学研究所の分析によると、過去一〇〇年間で東京の最高気温はほとんど上昇していませんが、最低気温は四度以上も上がったという結論になりました。
都市部の熱中症患者が増えているのも、このことが原因のひとつかもしれません。
【寝ている間の汗は意外と多い?】
寝ているあいだも人は多量の汗をかいています。暑い夜は、脱水症状をおこしやすい老人にとっては危険です。日中の最高気温が三三度をこえると熱中症の患者は激増するといわれています。日中の気温が高いと夜になっても気温の下がり方が鈍く、ほとんどの場合が熱帯夜です。朝晩暑いのも熱中症の原因になっているようです。
日本の南の海水温は二八度前後あり、太平洋高気圧の運んでくる空気は高温多湿です。
「家のつくりようは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き頃、わろき住居は堪えがたきことなり」ーー。これは吉田兼好の徒然草での言葉です。
家は夏にたえられるような構造にしなさいといっているのは、まさしく日本の夏が暑く、湿度も高く、いかに不快かをあらわしています。古くから日本人は、高温多湿の夏にたえるために床を高くし、すだれで直射日光をさえぎり、風鈴の音色等で気分的な涼しさを求めるさまざまな工夫をしてきました。今では夏の風物詩となっている花火大会も、夏を少しでも涼しく過ごせるようにはじめられたものです。
太平洋高気圧に覆われる日本の夏は、まさに熱帯並みの暑さです。
熱帯地方とは、主に一年の平均気温が二〇度以上の場合をいいますが、温帯気候に属する日本は東京で一五・四度、大阪は一六・九度です。同じく温帯のロンドン十一.一度、パリ一一・三度、ニューヨーク一二・一度に比べるとかなり高くなっています。日本の平均気温を上げているのが夏の気温です。
八月の平均気温で見ると、東京は二十六.四度で熱帯の代表的な都市であるシンガポールの二七.八度や香港の二八・二度と変わりません。温暖化の影響で、最近の夏は最高気温が三〇度以上の真夏日が多くなり、平年気温を一度ほど上回ることもしばしばです。
五〇年後には一年の平均気温が約三度上昇する研究結果も出ていて、関東以西は年平均気温が二〇度近くとの予想もあり、まさに熱帯に属する暑い国となる可能性も出てきました。
気温ばかりではありません。日本の夏は湿度が高いのも特徴です。多くの人が不快だと感じる、湿度八〇パーセント近くになることもたびたびあります。
太平洋高気圧の中心が日本列島に近ければ近いほど、暑さと湿度は高くなり、熱帯に近い気候になるのです。
【熱中症予防に汗かきになろう!】
熱帯並みの日本の夏を夏バテすることなく、熱中症から身を守り、元気に過ごすためには、汗を上手にかく体づくりが大切です。
熱帯の住民であるタイ人と温帯の住民である日本人の、汗のかき方を比べたデータがあります。室温二七度の部屋で両足を四三度の温水に入れて、タイ人と日本人の汗のかき方を比べたものです。
実験開始から一一分後、日本人の発汗がはじまりました。タイ人は遅れて一七分後でした。汗の量を比べたところ、タイ人は日本人の半分しか発汗していません。
汗のかき方にも違いがあります。日本人は、他の部分に比べて腕や足の発汗開始が遅れたのに対し、タイ人は体の各部分ほぼ同時に発汗がはじまったのです。汗の塩分濃度も薄いことがわかりました。
全身いっせいに汗をかきはじめる。実はここに上手に汗をかく秘密があります。手や足でかく汗は体温を効率的に下げる効果があるのです。だからタイ人は汗そのものの量は日本人より少なくても、足と手に汗を出すことで上手に体温を調節しています。
全身からいっせいに汗を出したり、少しの汗で熱を体から逃がすことができるのは、環境の影響です。汗腺の数はタイ人も日本人もさほど違いはありません。子供の頃から暑さに慣れ、効率的な体につくられているのです。その証拠に同じ日本人でも、沖縄で生まれ育った人はタイ人と同じような汗のかき方をします。
日本には寒い冬があります。寒さにも暑さにも負けない体を求められるので、タイ人のような体をつくるのは困難です。日本人が熱を体にためず上手に汗をかくには、よりたくさんの汗を全身からかくことが必要になります。
この汗のかき方は、少しだけ冷房をがまんすることで可能です。
一日二時間、冷房や扇風機を止めて汗だくで過ごしてみてください。暑さに耐えることで、効率的に汗がかけるように汗腺が訓練されます。二週間後、汗のかき方が変化したことに驚くでしょう。
以前より汗をたくさんかくようになったと同時に、両腕や両足からの汗がたくさん出てきます。四肢の汗は他の部位に比べ蒸発しやすいため、体内の熱を下げるのに効果的です。
汗の塩分濃度も減少します。全体的な発汗量の増大と塩分濃度の減少によって、暑さにたえられる体がつくられます。
逆に冷房で過ごしてばかりいるとなかなか汗が出ないため、体内に熱がたまり夏バテや熱中症になりやすい、暑さに弱い体になってしまいます。
さて、いろいろと熱中症について、今回は書き綴りましたが、今年は夏がなが〜くなる気配です。今からでも遅くないので、汗かき上手になると同時に、一時間にコップ一杯の水を必ず飲んで水分補給に努めて下さい。暑いときこそ、塩ラーメンもおすすめです!