ミシガン州知事狙ったテロ未遂事件にトランプ大統領の影
米国で8日、ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事の暗殺計画が明らかになり、極右武装集団のメンバー13人が逮捕されたが、犯人たちを過激な行動に駆り立てたのは、トランプ大統領の存在だ。
「ミシガンを解放せよ」
ロイター通信によると、13人のうち7人は「ウルバリン・ウォッチメン」という名前の武装グループのメンバー。他の6人と共に、知事の誘拐と州議会議事堂への攻撃を企てた容疑で逮捕された。知事誘拐未遂で有罪判決が下れば、終身刑が言い渡される可能性があるという。
別のメディアによると、犯行グループは知事を誘拐後、殺害する計画だった。一時は民主党の副大統領候補にも名前があがったウィットマー知事は、トランプ大統領の新型コロナウイルス対策を批判し続けており、それに強い不満を抱いたことが犯行の動機とみられている。
実際、トランプ大統領が4月、ウィットマー知事のロックダウン(都市封鎖)の決断に激怒し、ツイッターに「ミシガンを解放せよ」と投稿した際には、これに呼応する形で、自動小銃などで武装したグループが州議会議事堂に押し入る事件も起きている。
知事は大統領を批判
ウィットマー知事は犯人逮捕を受けて開いた会見で、テロ行為を厳しく批判すると共に、トランプ大統領が先日のバイデン前副大統領とのテレビ討論会で、白人至上主義グループを非難することを拒否した事実に言及。ヘイトグループによる人種差別的な行為を容認する大統領の姿勢が事件を引き起こしたとの見方を示した。
また、同州のダナ・ネッセル司法長官はABCニュースのインタビューに答え、トランプ大統領を批判した上で、「これはミシガン州の問題ではなく、アメリカの問題だ。同じような武装グループは他の州にも存在する」と述べた。
白人至上主義者の活動、活発に
米国では、ミネソタ州で黒人男性が白人警官に暴行を受けて死亡した5月下旬の事件をきっかけに、黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が全国に広がったが、それに対抗する形で、白人至上主義グループの活動が活発になっている。
オレゴン州ポートランド市では、抗議のため市内の一画を占拠していたデモ隊に対し、武装した白人至上主義グループ「プラウド・ボーイズ」のメンバーらが大挙して市内に乗り込み、一時、騒乱状態に陥った。
バイデン氏とのテレビ討論会で司会者からプラウド・ボーイズのことを聞かれたトランプ大統領は、同グループを非難する代わりに、「Stand back, stand by」(後方で待機せよ)とカメラ越しに呼びかけ、同グループのメンバーはその言葉に勇気づけられたとも伝えられている。
差別の本性や感情を増幅
トランプ大統領の言動や政策に刺激されているのは、白人至上主義グループだけではない。
トランプ大統領は、前回の大統領選への出馬を表明して以降、頼みとする白人保守層の歓心を買うため、メキシコ移民を「レイプ犯」と言ったり、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んだりするなど、人種差別的な言動を繰り返してきた。これが、一部の米国人の心の中にある人種差別的な本性や「ゼノフォビア」(外国人嫌い)の感情を増幅させ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)的な行為につながるケースが増えていると言われている。
7月には、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のレストランで食事を楽しんでいた中国系米国人のグループに対し、近くのテーブルに座っていたクラウド・コンピューティングの会社の白人男性経営者(CEO)が、「トランプがお前らをファックするぞ」「出ていけ」「アジア人のくそ野郎」などと罵る「事件」が起きた。一部始終を撮影した動画がSNSで拡散されると、この経営者は謝罪し、CEOを辞任した。
犯行中にトランプ氏の名を叫ぶ
ABCニュースの調査によると、暴行事件や脅迫事件などで、犯人が犯行中に「これはトランプのためだ」などとトランプ氏の名前を叫んだり、その後の警察による取り調べで、犯行動機としてトランプ氏に言及したりするケースは、2015年8月以降、少なくとも54件あった。大半の場合、犯人は白人で被害者は黒人やヒスパニックなどのマイノリティ(少数派)だった。これらは発言が証拠として残されているケースのみで、そうでないケースも含めれば、トランプ氏の影響を受けたヘイトクライムはもっと多いと見られている。
11月3日の大統領選投票日を前に、バイデン候補に支持率で差を付けられているトランプ大統領にとって、今回のミシガン州知事暗殺未遂事件は、負けを決定づける一撃となりかねない。