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暇つぶし商店街から始めてみる?イオンは商店街の敵ではない

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 以下の二つの記事を書いてから、商店街の活性化のための質問が様々な方面から届くようになった。今日も今日とて、一時間ほど面談に時間を費やした。来る者は拒めない。論文の締め切りがまずい。

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 自分は色々頑張っているのだがうまくいっていない、どうしたらいいのか教えてほしい、といった内容がほとんどである。

 素晴らしいことだ。諦めないで努力する姿勢があれば、いつか何とかなるだろう。前を向いて、ポジティブに色々と取り組んでほしい。

 とはいえ、筆者の答えはこうである。「みていないのでわかりません」。マーケティングは現場に出向かなければ行うことができない。顧客をみて、人をみて、実際の姿をみることなくして、ものを言うことはできない。無責任なことは言えないのである。

 しかしどうやら、共通して言えそうなことはありそうである。すなわち、活性化のための「ダイナマイト」を求めてはいけない、ということである。すべてのビジネスは、終わりを思い描きつつも、小さなことから始めていかなければいけない。小さな成功の連続が、大きな成功につながるのである。地道な活動を続けなければいけない。楽しんでやること、ワクワクすることを色々とやってみることが、継続の秘訣である。

 だから結局、ほとんどの商店街は、現状の改善というか、小さな転換から行ったほうがよさそうである。しかし、どこから始めればよいのだろう。ここで筆者は、頑張っている商店街のうちおそらく6、7割にあてはまる解決策として、「暇つぶし商店街」というコンセプトを提案したい。

 イオンに行くのはなぜか。言うまでもなく、何でもあるからである。それゆえイオンでは、暇つぶしができる。日用品を揃えながら、時間を気にせずのんびりと過ごすことができる。

 決定的なのは、駐車料金が無料なことである。人間は、欲求の充足という目的のためにはお金を使うが、そうでないものにはお金を使わない。ゆえに、買い物で何万円も使ったとしても、たった数百円の駐車料金は払いたくない。これが人間の心理である。若者の◯◯離れも、結局はこれが理由である。若者はスマホや趣味のためのお金はよく使う。というより、無駄なものに高価なお金を使うのは、若者にとってはダサいのである。チープ・カシオやH&Mが、コンセプトがあってカッコイイのだ。

 話を戻そう。暇つぶしを目的としたとき、駐車料金に数百円を使うことはない。だったらイオンに行くのが人間の心理である。あるいは数千円を使ってでも、もっと楽しい暇つぶしのためにお金を使うのである。

 しかしイオンには、何でもあるがゆえに、何にもない。新しい刺激に関しては、何にもないのである。強みと弱みは表裏一体である。プロレスラーにとって大きな体は強みだが、マラソン選手にとっては弱みである。地方の人は現状に飽き飽きしている。イオンのことは認めつつも、それなりに刺激を求めている。

 ようするに、商店街にとってイオンは敵ではない。見方を変えれば、むしろ味方かもしれない。イオンにブチギレている商店街は、はっきりいうとセンスがない。イオンとは違う暇つぶしのスタイルを見出したらよいだけである。暇つぶしイオンと暇つぶし商店街は、暇つぶしという要求においては仲間である。

 ストリートミュージシャンは、イオンの中で音楽はかき鳴らせない。大道芸人も、イオンを拠点にはできない。飲み歩きも、イオンではできない。らくだが練り歩くことを了解してくれるイオンは、おそらくどこにもない。ちんどん屋は、イオンには必要ない。学生の出店は、イオンではまったく可能性がない。隣近所の交流は、いまのところイオンではできない。イオンは、それらの機能を商店街に任せるしかない。

 そろそろお分かり頂けたかと思う。やるべきことは第一に、商店街における「人の刺激づけ」である。主には顧客と、商店街にいる人たちの刺激づけである。大それたことをやる必要はない。なんだか行ってみたら面白そうだ、やってみたら面白そうだと思われるくらいのものでいい。イオンよりはいくぶんか刺激的であればいいのである。

 次に、顧客としてイオンに行く人たちを相手にするのだから、駐車料金は当然無料にすべきである。店舗で購入したらスタンプを押す?冗談はやめてほしい。購入するかどうかなど、行ってみなければわからない。人の集まるところにビジネスあり。寄ってもらうことが重要だ。ゆえにやるべきは、完全無料。いつでも気軽に来られる商店街を目指したい。

 先に述べたように、これは一般的な傾向に対する処方箋である。あるいは、巨大な資本に対して自分たちを守ることのできる手段である。いずれにせよ、商店街がやるべきことは、幸せの商店街の実現である。商店街の人たちと、そこを訪れるお客さんたち、すなわち、商店街にかかわるみんなの幸せが実現できるかどうかが重要なのである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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