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卓球女子団体 金メダルをとった中国の卓球協会会長が日本を褒めちぎったのはなぜか

中島恵ジャーナリスト
卓球女子団体で金メダルをとった中国チーム(写真:ロイター/アフロ)

8月5日に行われた卓球女子団体の決勝戦は中国が3-0で日本にストレートで勝ち、金メダルを獲得した。

全試合ともに接戦で、日本チームも全力を尽くしたが、あと一歩及ばず、終盤は「やはり中国の壁は厚い」と感じさせられるような一戦だった。

卓球王国・中国にとっては面目躍如の勝利だったが、中国メディアはこれをどのように報じたのか。

SNSは大盛り上がり

試合直後、人民日報は「34金!(今大会34個目の金!)中国卓球女子団体が日本に完勝し金メダル」という見出しで速報を掲載。中国チームは2008年の北京五輪で団体が正式種目になって以降、中国は3大会連続で金メダルを取ってきたことなどを報道した。

中国のSNS、微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)では、試合途中から、出場した中国の3選手(陳夢、孫頴莎、王曼昱)の名前を挙げつつ、コメント欄が盛り上がっており、「陳夢、加油!」(がんばって!)、「孫頴莎、yyds」(無敵、神ってる、すごい、という意味で使われる最近の流行語)などの言葉が大量に飛び交った。

第2試合で孫頴莎が伊藤美誠と対戦したときには、とくに盛り上がり、孫が伊藤を打ち負かす際にのみ使用するネット用語「人間止藤片」も数多く見られた。

試合後、微博(ウェイボー)のホットワードランキングでは、トップ10のうち7~8つが卓球女子団体に関するワードだった。

とくに目をひいたのは「卓球中国女子団体VS日本女子団体」という見出しよりも数多く検索されて、一時、検索ランキング第1位にもなっていた、ある見出しだった。

それは「劉国梁はいう。今回の日本女子団体チームは歴史上、最強のチームだ」というフレーズだ。

卓球協会会長の言葉の意味

これは、中国メディアが劉国梁にインタビューした際、劉が語った話の一部で、それが短い動画になって繰り返し視聴されていた。

劉国梁とは、中国の卓球協会会長であり、1996年のアトランタ五輪の際にシングルスとダブルスで金メダルを獲得した人物。現在45歳という若さだが、すでに中国卓球界のトップに君臨している。

その劉は試合前のインタビューで、日本チームを褒めちぎり、次のように語っていた。

「今回の日本女子団体チームは歴史上、最強のチームといっても過言ではないでしょう。日本チームは中国チームに対して果敢に挑戦をしてくると思います。しかし、中国チームの実力は揃っている。ちょっとやそっとの年月では変わらない。私の中国チームに対する自信は少しも揺るぎません」

特別に注目を集める言葉のようには思えないが、これが中国のSNSでトップになり、中国人の間で議論が巻き起こった。

「中国チームは最強だ」というものから、「確かに日本の実力も上がってきた」などさまざまなコメントがあったが、中にはこんなコメントがあった。

「中国が強いことは当たり前だ。それなのに、なぜ、わざわざこんなことをいうのか。一見、上から目線で余裕があるように感じられるけれど、実は日本が実力をつけてきて、中国がかなり焦っている証拠ではないのか」

劉の言葉がこれほど注目を集めていることを裏づけるように、中国メディア「環球時報」も「世界にはどんどん強敵が増えている。中国チームも、そんなに簡単には勝てない。とくに日本チームは警戒する必要がある」と分析した。

また、劉もインタビューの続きで答えていたが、中国メディアも、日本チームの世代交代がうまくいっていることを指摘した。

日本女子は伊藤美誠を中心に世代交代が進み、2000年代生まれの選手が次々と実力をつけてきている。男子も張本智和など若手が中心になってきた、という内容だ。

中国社会の変化が影響している

そこには、中国の世代交代が、必ずしもうまくいっていないのではないか、という問題が隠されていると感じる。伊藤と同じ20歳の孫頴莎を始めとして、中国も若手は育っているが、一方で、卓球界全体の人気凋落という問題がある。

以前、以下の記事でも書いたことがあるが、中国社会の急速な変化により、1日に何十時間も厳しい練習を積まなければならず、しかも、それでも競争が激しい中国で頂点に立てるとは限らない、一流のアスリートになるという厳しい選択をする人は、社会全体から見れば、徐々に減ってきている。

また、スポーツを見る側も変化している。中国人の趣味が多様化し、欧米のカルチャーに関心が高まっていることから、とくに若者の間では、卓球よりも、バスケットボールやサッカーのほうが人気が高い。

世界最強なのは変わらないが… 金メダル獲得の陰で中国人が心配する「国技・卓球」人気の衰え

そうした問題があり、現在のところはまだ選手層は厚く、一見すると盤石のように見えるものの、日本チームに対する警戒心は高まっている。

劉がインタビューで語った言葉も、そうした警戒感から、自国の選手を鼓舞する意味合いがあったのではないか、と考えられる。

女子団体決勝戦の放送で解説をつとめていた藤井寛子氏も試合後、奇しくも、「中国チームは最後まで気を抜かなかった。中国のプレッシャーはすごかったと思います。日本チームは中国を本気にさせました」と率直な印象を語っていた。

卓球王国・中国と対等に戦い、惜しくも敗れた日本は、3年後のパリ五輪で、どんな試合を見せてくれるのか、楽しみになってきた。

参考記事:

中国人が語る、伊藤美誠と福原愛の違い 「美誠は脅威の存在だが、愛ちゃんは……」

五輪選手の報奨金 金メダリストの最高額はシンガポールで約8000万円。中国の場合は現物支給も……

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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