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中国人が語る、伊藤美誠と福原愛の違い 「美誠は脅威の存在だが、愛ちゃんは……」

中島恵ジャーナリスト
伊藤美誠選手(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

卓球女子団体戦で、日本チームは順当に勝ち上がってきている。中国メディアや中国人選手が最も警戒している外国人選手といえば、やはり伊藤美誠だ。

中国報道の中には、今最も注目されている伊藤と、なぜか、元卓球選手で中国と縁が深い福原愛を比較分析する、という興味深いものがあった。

まず、伊藤について、7月26日に行われた男女混合ダブルスで中国ペアに勝って以来、彼女に関する中国での報道は急増した。

7月29日にシングルス準決勝で孫穎莎に敗れ、試合後のインタビューで悔し涙を流した際は、中国の検索ランキングで1位となり、SNSの書き込みは1000万回を超えるまでになった。

なぜ伊藤が「大魔王」なのか?

中国報道の中には、伊藤を「大魔王」と呼んでいるものがある。日本でも中国でのこの呼び名が話題になったことがあるが、伊藤がこう呼ばれるようになったのは2018年のスウェーデンオープンに参戦したときからであり、すでに3年くらいになる。

同オープンには中国から丁寧、劉詩雯、当時世界ランク1位だった朱雨玲の3人が出場していたが、伊藤が彼女たちをことごとく撃破して優勝したことから、「伊藤おそるべし」という意味合いでこう呼ばれるようになったという。

その頃から急速に中国での知名度が上がり、注目された結果、中国メディアは、卓球だけでなく、彼女の生い立ちや性格、中国人選手との交流などについても、詳しく紹介するようになった。

伊藤がわずか2歳の頃から、卓球選手だった母親の影響で卓球の訓練を始めたこと、伊藤の母が、寝ている伊藤に「中国を倒せるのはあなたしかいない」と念仏のようにつぶやいていたこと、伊藤の母が海外の試合にも同行し、お手製のおにぎりを作ってあげていたこと(そして、そのおにぎりを中国の陳夢や馬琳コーチにも分けてあげていたこと)など、日本の報道と同様、“細かいネタ”に到るまで、中国でも紹介されている。

伊藤に対する関心は非常に高い

同じ年のライバル、孫穎莎がシングルスの試合で勝ったあとに語った「美誠との試合はいつも楽しい。美誠は私を進化、成長させてくれる。すばらしい宿敵であり大切な存在だ」という言葉も紹介されていたし、シングルスの表彰式の際、伊藤が孫に「もっとメダルが見えるように持ったほうがいいよ」という微笑ましいアドバイスをしたこと、2人が中国語でおしゃべりしている動画なども紹介されている。

そのほか、伊藤は中国料理が好きで、中国の人気アニメ『喜羊羊与灰太狼』(シーヤンヤンとホイタイラン)のファンであること、中国語もある程度話せることなども紹介。伊藤に対する興味や関心は日に日に高まっている。

中国卓球界にとって最大の脅威

しかし、メディアや個人のSNSを総合して見ると、やはり、というべきか、伊藤に対しては「卓球王国・中国を脅かす強敵」である“アスリートとしての目線”が最も多い。

伊藤は「手ごわいライバル」として一目置かれている。中国は日本よりもずっと選手層が厚いが、万が一、中国選手を倒す外国人選手がいるとしたら、それはおそらく伊藤だ、という見方が大半だ。

中国報道の中には、伊藤のことを「独立心が旺盛で強い。まるで、飼い慣らされていない野生の狼のようだ」という表現をしているものもあった。

福原愛への支持は今も多い

一方、すでに引退しているが、中国で日本人の卓球選手といえば、真っ先に思い浮かべるのは、いまだに福原愛であり、彼女の存在はとても大きい。

福原については今年3月、不倫騒動が起きた際に、日本だけでなく、中国のSNSも盛り上がったことを覚えている日本人も多いだろう。

そのときの話は以前、以下の記事に書いたが、中国ではとにかく福原支持派が非常に多く、逆に、その存在の大きさや、アイドルのような扱いに、日本人のほうが驚かされた。

「何があっても愛ちゃんを支持する!」なぜ中国人はここまで無条件に福原愛さんを応援するのか?

中国メディアや中国のSNSを見ている限り、伊藤を一言で表現するならば「強敵」だが、福原は「国民の妹」だ。つまり、アスリートに対する目線ではなく、“身内”に対する目線なのだ。

幼い頃のイメージが残っているから

「中国人が福原愛を好きなのは、彼女が泣き虫だった幼い頃からずっと見てきて、自分たちも一緒に成長し、潜在意識の中に、脅威とか敵といった感情がまったくないから。福原がまだ子どもの頃、中国にやってきたときの姿や、『瓷娃娃』(ツーワーワー=陶器のお人形)のかわいいイメージが残っているからだ」

中国メディアではこのように分析しているものがあり、福原に対する批判的なものは、いまだにほとんどない。

中国のSNSでは、福原のことを「愛醤」(アイジャン=愛ちゃん、の中国語)と愛称で呼んでいる人が多いのに対し、今、最も関心を集めている伊藤のことを「美誠醤」(美誠ちゃん)と呼んでいるものは少ない。

このことからもわかる通り、親しみ、という点でも、2人にはそれだけ違いがある。

そもそも、2人を比較すること自体おかしいが、中国人にとっては、それだけ日本の卓球選手の存在は大きいということだ。

団体戦の準決勝で、もし日本、中国ともに勝てば、混合ダブルスのときのように、日本と中国は決勝で対決する。

勢いに乗っている伊藤を始め、ベテランの石川佳純、上り調子の平野美宇の3人が中国を倒すことができるのか。日本のみならず、中国メディアや中国人も、固唾を飲んで見守っている。

参考記事:

卓球女子団体 金メダルをとった中国の卓球協会会長が日本を褒めちぎったのはなぜか

五輪選手の報奨金 金メダリストの最高額はシンガポールで約8000万円。中国の場合は現物支給も……

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ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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